颯 【溶鉱炉とトロッコ】
人柱の頭を切り落し、300P獲得した颯が立ち止まると、スクリーンに選択画面が映し出された。
【BONUS☆STAGE】
300P獲得
属性 水
アイテムとして所持しますか?
【YES】 【NO】
額から噴き出す汗を拭い、【YES】をタップした。
喉カラカラ……
やっと水が飲める!
【BONUS☆STAGE】
属性 水
人柱の口の中にアイテムが入っています。
※アイテムは一度しか使えません。
よく考えて使いましょう。
【END】
「……。人柱の口の中?」
左右の人柱に目線をやると、大口を開けている人柱を発見する。
その口の中には水が入った小瓶が収められていた。
「……。ちっちゃ!」
颯は思いっ切りゴクゴク飲める水を貰えるのかと思っていたので、がっかりした。
人柱の口の中に手を入れ、瓶を取り出し、眺める。
こんなモノ、何しに使うんだよ!?
何の役にも立たなそう……
落胆し、肩を落した颯は、小瓶をポケットの中に入れた。
「違うアイテムにすればよかった」
ぶつくさと不平不満の独り言の最中、壁に三つのドアが現れた。
ドアに掛けられた銅製のプレートに刻まれたステージに目を走らせる。
【食品加工工場】
【マジックハンドルーム】
【溶鉱炉とトロッコ】
颯はドアを見る度に思う。
どれもイヤだな……
溶鉱炉は熱そうだけど、トロッコに乗ってればいいのかな?
強すぎるXモンスターと出遭いませんように、と祈りながら【溶鉱炉とトロッコ】のドアを開けた。
すると、そこは六畳スペースの煉瓦造りの個室だった。ドアもなければ、窓もない。溶鉱炉もないし、トロッコもない。
きょろきょろと周囲を見回す颯。
「あれ? 何にもないじゃん」
スクリーンに視線をやると骸骨が映し出されていた。
しかし、悍ましさより愛嬌すら感じさせらる愉快な骸骨だった。
両腕を前に突き出し、突然踊り始める。
「レッツ、ダンシング」
ノリノリの骸骨は、お尻と互い違いに腕を動かす。
「ハイ! ハイ! ご一緒に~♪」
左、右、左、中央、右、中央、右、左、以上。
ダサッ! フツーにダサいし、見てて恥ずかしい……
「よい旅を」と、髑髏は颯に向かって手を振った。
その直後、室内が消え、トロッコの中に立っていた。そこは製鉄所の中だった。天井は鉄板を繋げて釘で打っただけの粗末な造り。
颯が乗るトロッコは、最も高い位置に設置されたレールの上にあった為、渺茫な溶鉄の海に広がる全貌を見渡すことができた。
溶鉄の海の全域に敷かれたレールは、全て三本に枝分かれしている。ドアも三択ならレールも三択なのだろう、と考えた颯は、骸骨のダサいダンスを思い出した。
あの指の動き……
もしかしてレールの道筋を意味していたのでは……
骸骨の指の動きなど気にも留めてなかった颯は焦燥に駆られた。トロッコに腰を下ろし、頭を抱える。
たとえ、それを知っていたとしても、たった一度で動きを覚えられるほど良質な脳みそなんか持ってない。
参ったな……
ハンドルを握って、背もたれに背中をつけた。
もし、道を間違えたらどうなるんだろう……
めっちゃ不安。
鼓動が高鳴った時、トロッコが動き出した。
ガッタン……ガッタン……
車輪の振動が全身を伝った瞬間―――
トロッコが急降下した。
颯は歯を食いしばり、ハンドルを握る。ジェットコースターのような急降下を過ぎたトロッコは、急カーブに突入した。振り落されないように必死でハンドルに掴まる。
徐々にカーブが緩やかになり、直線のレールに入っていった。まっすぐ走るトロッコの行く手には、三本に枝分かれしたレール。
最初は……確か、右だったような?
いや、左?
そうだ、確か左だった気がする。
颯はハンドルを左に切る。その後直ぐに次のレールが見えた。
次は……ヤバい……覚えてない……
勘を頼りに中央のレールへと進んだ。
はっきり言って自信がない。
絶体絶命のピンチを感じた颯は、間違っていてもなんとか生還できる範囲の難関であって欲しいと祈った。
中央のレールにトロッコが突入した数秒後、けたたましい警報音が鳴り響いた。
製鉄所内にアナウンスが流れる。
「進む方向が間違っています。消去します」
突如、モーゼが立つ海のように、静かに真横に割れてゆく溶鉄の海―――
トロッコの下に敷かれたレールは、滝壺と化した溶鋼の下へと続いているようだが、その先を窺い知ることはできず、不安が募る。
颯を乗せたトロッコは、灼熱の滝壺に落下する形で急降下していったのだ。
安全ベルトなしのフリーホール状態に恐怖を覚えた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
颯の体は前のめりになり、振り落されそうになった。だが、なんとか策を考えようとした。
颯は素早く身を返し、今まで背もたれだった箇所にしっかりとしがみついた。流れに逆らわずにバランス取った方がいいと考え、このような行動に出たのだ。
数百メートル落下したした後、あり難いことにレールが穏やかに元に戻っていった。
自分は助かったのだろうか? と周囲を見回すと突然トロッコが停車した。
背もたれを握っていた颯が正面を向くと、『終点』と書かれた看板が立てられた場所に辿り着いたことを知る。
そしてそこには、だだっ広い鉄床が広がり、その先には高い鉄塀が聳え立つ。
一言で言えば、行き止まり。
颯はトロッコから降り立ち、鉄床に歩を進ませ、鉄塀に手をつけた。
ここからどうしたらいいんだ?オレはこの溶鉱炉に閉じ込められたのか?
このままじゃ勇気や沙也加を助けられない!
「くっそ!」
左右にも鉄塀が聳え立ち、八方塞がりの膠着状態に苛立ちが募り、鉄塀を拳で殴った。
「餓死するまでここにいれってか!?」
この塀の向こうに行く方法はないだろうか?
考える颯の後方から、波を打つ音が聞こえた。鬼気を感じ、恐る恐る振り返って見てみる。
トロッコが停車した周囲の溶鉄が、ゆっくりと渦を巻いていた。徐々に溶鉄が盛り上がり、人の姿と化していく。
湧き上がる溶鉄がドクドクと脈を打ち、やがてXモンスターへと変貌した。悍ましき体から尽きることなく湧き出る溶鉄。
颯は脈打つ心臓を押さえて、スクリーンに視線やった。
【Xmonster・status】
【name 溶鉄魔】
【sex 不明】
【length 2m70cm】
【HP 6700】
【MP・990】
【speed・★☆☆☆☆】
赤々と燃え滾る溶鉄魔を目の当たりにした颯は、鉄塀に背をつけ、慄然とした。灼熱の鎧を纏った敵と素手では戦えない。身を震わせ、回避できないこの状況を悲観するしかなかった。
溶鉄魔は鉄床に膝を乗せ、にじり上がる。真っ赤な双眸で隅目し、じりじりとこちらに向かってきた。
逃げ惑う颯。しかし、逃げ場所がない。
無駄な抵抗と解かっていながら刀を鞘から抜き、溶鉄魔に投げ飛ばした。上手い具合に腹部に刺さった。だが、予想通り刀は溶け、溶鉄魔の体の一部となってしまう。
「くっそ!」
一体どうすればいいんだ!?
何事もなかったかのように大股で迫ってくる溶鉄魔が腕を伸ばし、グイッと颯の肩を捕らえた。
「熱い!」
燃え滾る溶鉄が颯の肩を溶かした。血と肉が溶鉄に溶け込み、鉄床へと滴り落ちる。その苦痛に耐えきれず、悲痛な悲鳴を上げ続けた。
肩の骨が剥き出しになり、産まれて初めて味わう苦痛に狂乱する。容赦ない灼熱の手が、颯の太腿を鷲掴みにした。溶けて変形していく肉が、スウェット地と入り混じっていく。
朦朧とする意識の中、手に入れたアイテムを思い出す。
小瓶に入った少ない水。
だけど、あれっぽちの水で何ができる!?
炎の中に少量の水を落せば、その炎の勢いが増すだけだ。火に油を注ぐ行為に近いと思いつつ、最後の悪あがきのつもりでポケットからアイテムを取り出し、小瓶の蓋を開けた。
すると、突然小瓶が砕け散り、勢いよく大量の水が噴き出したのだ。なんと、溶鉄魔は大量の水に掻き消され、瞬時に姿を消した。
もし、ボーナスステージのドアを開けてなかったら確実に自分は死んでいた。『運』なしだと思っていたけど、『運』に救われた。
「ふふ……」笑が込み上げた。「オレ、一生分の『運』使い果たしたんじゃねえの?」
安堵した颯は鉄床に崩れ落ちるように倒れた。
脈打つ痛みに顔を歪ませる。
「いてぇよ、ちくしょう……」
焦点が合わない……
意識が朦朧とし、曖昧な視界に映る正面の鉄壁に、長い鉄階段が現れた。
霧がかったその先には、古びた鉄扉が。
499段先にある鉄扉を目指し、気力だけで立ち上がった。深手を負った体に鞭を打ち、ふらつきながら前へと進む。
全ては親愛なる友の為に―――
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