雪乃VS洸 【デスマッチ】

 壮大な日本庭園に囲まれた広い石畳のリングの上で、美麗な花魁(おいらん)が扇子を手に持ち、舞い踊る。


 周囲に咲き誇る桜の花びらが、無常の風に奪われてゆく。風流なリングの上に、『Xプレイヤー』雪乃が上がった。その向かい側に雪乃と同じ『Xプレイヤー』の洸が上がる。


 洸が言った。

 「女だからと言って容赦しないぜ。それにしても……」肩を揺らして笑う。「その細い肢体でよく『Xプレイヤー』になれたな。素手で十分殺せそうだぜ」


 「そう言わずに手加減してよ。か弱いのよあたし」と、微笑を浮かべる雪乃。


 花魁は舞を止め、扇子を高く掲げた。

 「デスマッチ! スタートでありんす!」


 試合開始の号令を掛け、ドロンとリングから姿を消した。


 洸は構えた。

 「どこからでもかかって来いよ」


 「それで構えたつもり?隙だらけじゃん。よくここまで進んでこれたね」


 洸は苛立ち、声を荒立てた。

 「ごちゃごちゃ言ってないでかかって来いよ! それともオレから行こうか!?」


 「じゃあ、お言葉に甘えてそうするよ」


 雪乃は素早く洸に駆け寄り、顔面に拳を浴びせた。


 怯んだ洸のこめかみに蹴りを一発喰らわせ、髪の毛を鷲掴みにし、顔面に膝蹴りをお見舞いする。前歯が砕け散った洸は、大量の鼻血を流し、石畳に血溜まりを作った。


 雪乃は膝をつく洸の首を撥ねようと、鞘から刀を抜いた瞬間、洸は腰から拳銃を抜いて発砲した。


 銃弾が雪乃の頬を掠める。

 「…………」


 洸は口元に笑みを浮かべる。

 「お前、銃弾を使い果たしたのか?」


 「…………」


 雪乃は洸の言う通り、銃弾を使い果たしていたのだ。


 余裕の笑みで言う洸。

 「銃と刀じゃなぁ~、銃の勝ちだよなぁ~。オレは後一発残ってるんだ。お前の脳みそを吹き飛ばしてやるぜ」


 雪乃は刀をリングの上に落し、両手を軽く挙げた。

 「負けたわ。降参よ」


 銃口に狙いを定める洸。

 「可愛い顔に風穴が開くな」


 雪乃が洸に色目を使った。

 「ねえ、お願いがあるの」


 上半身を包む制服を脱いだ。


 総レースの白いブラジャーから零れ落ちそうな双丘が露わになる。


 童貞の洸は初めて見る谷間に興奮し、動揺した。

 「なんで脱ぐんだよ!」


 「あたしの最後のお願い聞いてくれる?」


 「なんだよ! 言ってみろ!」


 「死ぬ前にもう一度快楽が欲しいの」


 「快楽?」雪乃の言っている意味がわからない。


 舌舐めりした雪乃。

 「エッチしたいの。ダメ?」


 経験のない洸は驚く。

 「エッチ!?」


 雪乃は下半身に纏うスカートのジッパーを下ろした。スカートが木の葉のようにハラリと落ちる。

 「ねえ……しよ」


 十を手にしている洸は、雪ののすべてを支配しているように感じ、命令した。

 「ブラを取れ」


 雪乃はブラジャーのホックを外した。思わず汚したくなるほどの美しさに息を呑む洸。


 「最高よ、あたしの唇と舌の動きはね」


 「跪いてしろ」


 「男はみんなソレが好きよ」


 「ああ、その通りだ。してやるけど、拳銃は握ったままだ! いいな?」


 「いいわ」

 

 興奮し、息を切らして、ズボンを下げた。


 雪乃は、洸に歩み寄り、跪き、"ナニ” を口に含んだ。


 「いきそうだ」


 その時―――


 拳銃を握る洸の右手首が宙を舞った。拳銃を握ったままの右手がリングに落下した。


 洸の右手に激痛が襲う。

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」


 雪乃は素早く拳銃を拾い上げ、洸の頭を撃ち抜いた。洸の亡骸を見てポツリと言う。


 「敵に急所を差し出すなんてバカな男……食いちぎってやろうかと思ったよ」

 

 洸が絶命すると目の前にドアが一つ現れた。

 

 【生還者の部屋】


 雪乃はブラジャーを付けながら、ドアを眺めて、ふと思う。


 今のところ生還者……


 だけど、三億という莫大な賞金目当てのプレイヤーが【生還者の部屋】に入ってきた場合、確実に【スペシャル・デスマッチ戦】になる。


 一度ログインしてしまえばログアウトはできない。


 これをやめたくて自殺するプレイヤーもいる。


 苦しんで死ぬより、自殺の方が楽かもしれない……


 気持ちは分かるけど、あたしには目的がある。


 その目的を果たすまで、あたしは死ねない……


 制服を着た雪乃は、【生還者の部屋】へと入っていった。




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