脱落者 杏 【食品加工工場】

 颯がボーナスステージを進む中、脱落していくプレイヤー達。十代のフリーター 杏は三つのドアの前に立っていた。


 【モルモット研究所】


 これはさっきも見かけたけど、モルモットってなんか怖いし……


 【溶鉱炉とトロッコ】


 灼熱地獄は絶対イヤ。


 だって、『椅子取りゲーム』の『デストラップ』で蒸し焼きにされた人を思い出すから。


 杏も別室で『椅子取りゲーム』で命を懸けていたのだ。


 【食品加工工場】


 食品加工工場でバイトしたこともあるけど……


 それとは違うよね、絶対。


 でも、この中で一番マシな感じがする。


 杏は【食品加工工場】のドアの取っ手を回し、室内に足を踏み入れた。


 【食品加工工場】のステージに突入した杏は、工場内に首を巡らせる。


 内臓を抜き取られ、食肉として処理された人間が、天井に敷かれたレールにぶら下がるホックに掛けられ、カタカタと音を立てながら工場内を回っていた。


 壁に沿って設置されたレールの上には、颯が吐き出した赤いドリンクが入った牛乳瓶が流れていた。


 杏はそのドリンクを一瓶手にし、凝視する。


 まさかこの中身って人肉!?


 うそ!?


 一口飲んじゃったよ!


 急に吐き気を催した杏は床に嘔吐した。

 「ゲホッ! ゲホッ!」


 呼吸を整え、前方に目をやる。


 ベルトが設置された大きな調理台。数々の調理器具が並べられていた。


 その近くにはカットされたトマトが入った巨大ミキサーと空の巨大ミンサーが置いてあった。


 ここで人間を調理するの?


 気持ち悪い……


 周囲を見回している時、調理台の向こう側にある冷凍室のドアが開き、中から鉄仮面をつけた巨躯な男が現れた。


 手には大きな包丁を持っている。


 厚い筋肉に覆われた上半身。薄汚れた麻のズボンの上に、血が付着した白いエプロンをつけていた。見るからに強そうだ。


 杏は姿勢を低くして、調理台の下に身を隠し、様子を窺う。


 スクリーンに映し出されたステータスに目をやった。


 【Xmonster・status】


 【name コック】


 【sex 男】


 【length 2m5cm】


 【HP 5000】


 【MP ―――】

 

 【speed・★☆☆☆☆】


 【intellect ★☆☆☆☆】


 知能……


 今までの敵と違うのね。


 刀で敵いそうにない。


 ここはやっぱり飛び道具。


 スピードが1……パワーがあっても動きが遅いならなんとか逃げられそう。


 それにMPもないし。


 杏は腰に収めた拳銃を抜き、しっかりと握って、調理台からそっと顔を出すした。


 調理台に歩み寄るコックは、杏が床に放置したままのドリンクに目を向けた。


 「…………」

 (侵入者……)


 巨大ミキサーに目をやる。


 (新鮮なドリンクを作ろう……)


 横目で調理台の端を見る。


 杏の髪が揺れたのを見逃さなかった。


 侵入者は消去する……


 銃口をコックに向けた杏は、発砲しようとしたが、それよりも先にコックが杏に向かって包丁を投げ飛ばした。

  包丁が杏の肩に刺さった。一瞬にしてTシャツが真っ赤に染まっていく。


 拳銃を床に落し、悲鳴を上げた杏。

 「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」

 (なんでここに隠れているのがバレたの!?)


 床に放置したままのドリンクが目に映った。


 あんなところに置きっ放しだった!


 自分の愚かな行動に後悔するも、時すでに遅し。迫ってきたコックが杏の襟首を鷲掴みにし、調理台の上に乗せ、Tシャツを毟り取った。


 可愛らしいピンクのブラジャーのカップから零れ落ちる小ぶりの乳房を押さえつけ、スウェットパンツとショーツを一気に引き裂く。


 露わな姿の杏は犯されると思い、悲鳴を上げながら咄嗟に足を閉じた。


 しかし、コックには性的機能が備わっておらず、女の裸を見ても何も感じない。


 目的は新鮮なドリンクを作ること。


 そして侵入者を消去することだ。


 調理台のサイドに設置されたベルトで固定する。身動きができない杏は犯されるのではなく、もっと恐ろしい目に合う事を悟り、発狂した。脚をじたばたさせ、逃げようとするが、ベルトは外れそうもない。


 コックは杏の口に塩と砂糖を押し込んでから、巨大ミキサーの蓋を外し、杏の体を固定しているベルトを外した。


 泣き喚く杏を肩に担いで、巨大ミキサーの中に放り投げた。トマトに囲まれた杏の尻の下に、冷たい金属のような感触が伝わる。


 恐る恐る下に目線をやると、鋭利な三枚刃が光っていた。


 恐怖に我を失った杏は、尋常じゃない叫び声を上げ、巨大ミキサーから這い上がろうとする。しかし、コックは問答無用で蓋を被せ、電源スイッチをオンにした。


 巨大ミキサーの三枚刃が回転し始めた。凄まじいスピードで材料を切り混ぜていく。


 回転する杏の手足を三枚刃が容赦なく奪い、赤い渦巻の色が濃厚になっていった。

 「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 細かくなったはらわたがトマトと混ざり合った時、杏の断末魔が止んだ。杏の体は液体になり、新鮮なドリンク仕上がった。


 自分の不注意でXモンスターに捕まった杏は、新鮮なドリンクにされ、『X』本戦の脱落者となった―――




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