【第26話】『 再会 』
28.花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第26話〉『 再会 』
「しい‥‥‥‥な。」
そこに居たのは、紛れもなく椎菜達だった。
天世界に溢れる美しい光の中から、あの日消えてしまった友人達が姿を現した。
「‥‥‥‥え?」
風の音がフーフーと聞こえた。
あたかも最初からそこに居たかのように4人は立っていた。
「どうして‥‥‥皆んながここに‥‥‥?!」
天から伸びた光が彼らを照らした。その様子はまるで天使のようだった。
僕は驚きより動揺を隠せずに居た。
そんな僕のことを横目で見ていた真白が、僕の肩に手を置き、説明を始める。
「カレらはずっと待っていたのさ。キミの事を。何日でも、何十日でも、キミが目覚めるのを信じていた。例えそれが何光年かかろうと、カレらは待ち続けていただろうね。」
まるで時が止まっているかのようだ。
そこに居たのは紛れもなく僕の大事な友達だった。
「‥‥‥‥‥みん‥‥な。」
僕の足は、少しずつ、彼らの元へと動いていく。徐々にそのスピードは勢いを増した。
裸足で草の生えた地面を踏みつける。ゆっくりと僕は彼らに向かって手を伸ばした。
「‥‥‥‥‥みんな‼︎」
気がつくと僕は走っていた。少しでも早く皆んなの元へ行きたいんだ。
いいや違う。僕は一言謝りたかったんだ。
皆んなにもう一度会う事が出来るならって何度も考えていた事じゃないか。
ずっと言えなかった事を、今度こそちゃんと言うって。
「ふぇっ?!うわっ!!!!」
僕は勢い余って丘の上から転げ落ちた。
体も栄養出張気味だったのに加えて、久しぶりに外で走ったから体が驚いてしまったのだろう。
「‥‥イテテテ」
僕はそのまま丘の麓に座り込んでいた。
どうやら傷はないみたいだ。この世界の草花がクッションになって僕を助けてくれたんだろう。
そして、ふと前を向き直すと、そこには心配そうに見つめる友人達の姿があった。
『相変わらずだな』って言いたげな義也に、大爆笑を必死で抑えようとしてる孝徳。
青ざめた様子で心配してくれる椎菜に、そっと手を伸ばしてくれるマヤちゃん。
「‥‥‥しいな? よしや? たかのり? まやちゃん?」
僕はそれぞれの顔を見ながら名前を1人ずつ呼んだ。
すると皆んなは昔と変わらない顔してニコッと笑った。そして皆んなは僕の肩から伸びた手を取り、また優しく微笑んだ。
「‥‥本当に、皆んな。」
彼らの顔を見ながら、僕は言葉に詰まった。
何を言えばいいのか分からない。今までずっと妄想していたはずなのに、何を言っていいのか分からない。
あぁ、どうしたらいいんだ。
皆んなとまだ顔さえ合わせられない。
言わなきゃ、ごめんって。
守れなくてごめんなさい。皆んなを危険に巻き込んでごめんなさい。僕なんかの為に怖い思いをさせてごめんなさい。
なんでだ。声が出ない。
言葉は思いつくのに、まったく声が出ないんだ。
このままだと情けない僕に愛想を尽かして、皆んな何処かへ行っちゃうじゃないか。
何か話せ。何か話さないと。
僕は———!!
『 ねぇ、知束くん。 』
その時、確かに声が聞こえたような気がした。
それは紛れもなく椎菜の声だ。
僕はゆっくりと顔を上げた。すると彼らの顔が少しずつ見えてきた。
「‥‥‥ぁ‥‥‥は。」
吐息混じりの声が漏れる。
まだ心臓はバクバク言っているようだ。
「‥‥‥‥え?」
皆んなの顔は僕が思っていた顔とは違った。
もっと軽蔑の眼差しを向けられるのだと思っていた。僕のメンタルが削り切れて無くなるくらい怖い顔をしてると思っていたんだ。
そんな顔をしているだなんて思ってもいなかった。
「‥‥‥‥‥‥‥ぁ。」
また吐息混じりの声が漏れる。
皆んなはただただ優しそうな顔で、僕を見つめていたのだ。
どんな気持ちで、どんな感情で、そんな顔をしているのかは分からないけど、とにかく僕は皆んなの目を見てやっと分かったような気がした。
「‥‥‥‥‥‥」
上を向いたまま、僕の頬を涙が横切った。
僕は唇を噛みながら、溢れそうになる涙を必死に抑えようとする。
なのに、あれ?おかしいな。
次々に目から溢れてくる。
すると義也が、そんな僕の頭をぐしゃぐしゃにかきだした。
「‥‥‥うわ。よしや‥‥‥‥なん‥‥だよ。」
今度は孝徳が僕の横に座って肩に手を置いた。マヤちゃんも同じように隣に座って、背中をさすってくれる。
「‥‥マヤちゃんに、孝徳まで‥‥‥。」
最後に椎菜が僕の冷たくなった手を取り、ギュッと握りしめてくれた。
「‥‥‥‥ぇ‥‥‥しぃ‥な‥‥?」
僕がそうやって聞くと、椎菜は嬉しそうな顔で僕に笑いかける。まるで僕と触れ合う事に喜んでいるみたいだ。
実際、僕はこうして君と触れ合えるなんて思ってもいなかった。
もう二度と君にも、誰にも、会えないと思っていたから。
4人は顔お見合わせては、赤ん坊のような僕を優しく落ち着かせてくれた。
皆んなの温もりが僕の冷たい肌からでも感じ取れる。
「‥‥‥一体なんだって‥‥‥。」
僕はやっと理解した。この気持ちの正体を。
僕は座り込んだまま、彼らの手のひらから感じ取れる熱によって、緩やかに溶かされていくのだった。
またポロポロと涙が頬を濡らした。
何故だろう。とても変な感覚だけど。皆んなの考えてる事や気持ちが痛いほど分かるんだ。
もしかしたら、僕も皆んなと同じだったのかも知らない。僕もあの日“死ぬ運命”だったのかも知れない。
それでも、ここに居る皆んなが僕を生かしてくれた。
こんなどうしようもない僕の事を。
生きる価値なんて最初からないと思っていた。
そっか、違ったんだね。
気がつけば僕は子供のように泣いていた。
少し困った様子の義也に、ギュッと肩を掴んでくれる孝徳。優しく背中をさすってくれるマヤちゃんに、一緒に泣いてくれる椎菜。
僕は皆んなの前でわんわんと声を上げながら泣いた。
痛かっただろうに、辛かっただろうに。本当は僕が皆んなの事を一番理解していたはずだった。
僕の友達は、誰かを守って死ねるような真面目で優秀でイケイケな、普通の高校生だったんだ。
遠くの方で真白が僕らの事を見ていた。そしてまた爽やかな風が僕らを揺らした。
◇
少ししたら、義也も孝徳も、マヤちゃんまでもが僕の事を揶揄うかのように笑っている。
まるで『いつまで泣いてんだよ!』って言っているみたいだった。
「まったく、変わらないな。」
そんな言葉がポロッと口に出た。自然と僕の顔からは、笑顔が溢れていた。
笑ったのなんていつぶりだろう。
心から笑みが顔に出るのなんて、
それに、ずっと夢見ていた事が現実になった。
青空の下、涼しげな風に草花が揺らされている音が聞こえて来る。そんな自然の中で僕らは他愛もない話をしている。
形はどうであれ、僕はこの日の為に今までの暗い生活を、頑張って生き抜いてきたように感じた。
ようやく皆んなと笑い合えるのだから。僕の夢は叶ったと言えるのだろう。
今はとにかく、コイツらと一緒に過ごす時間が、たまらなく愛おしく感じていた。
こうして僕らは再会を果たしたのだった。
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