【第25話】『 天世界 』
27.花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第25話〉『 天世界 』
「目が覚めたかい?知束。」
「‥‥‥うぅ、ん?ここは?」
僕はいつの間にか寝てしまったようだ。
真っ暗な部屋の中に居たはずだったのに、ここは全く違う場所のように思えた。
「‥‥‥ま‥‥しろ?」
気がつくと、僕は真白におぶられている。真白の背中の上で揺らされていたのだ。
真白は僕を背負ったまま、暗い廊下を進んでいた。
「キミって、とても軽いよね。」
そう真白がこぼした。
「‥‥‥ねぇ、真白、一体どこに向かってるの?」
僕は真白にそう尋ねてみた。
まるでこの暗い廊下の先は、“何処か”へ通じている気がしたからだ。
「それはね、行ってみたら分かる。キミに会わせたい人がいるのさ。」
「‥‥会わせたい‥ひと?」
「そうさ。カレらもきっとキミと会いたいだろうからね。」
そう言って真白はゆっくりと僕を背負ったまま歩いている。
「そういえば、ソロモンにはもう会ったのかい?」
真白が僕に問いかける。
ソロモンって、あの金ピカの甲冑を着た偉そうなおじさんの事だろうか?
「‥‥‥もしかして、金色の鎧を着てたひと?」
「そうさ、彼はいつもあの鎧を着ているのさ。可笑しいだろう?」
そう言って真白は少し笑った。
まるであの人と面識があるような物言いだった。
「‥‥真白はあの人のことを知っているの?」
恐る恐る真白に聞く。
「あぁ、もちろん。カレが生まれるよりも前から知ってるよ。」
???
また、おかしな事を言う真白。そして真白は、続けて僕にこう言った。
「カレはね。天世界の王なのさ。」
「‥‥天‥‥世界?」
「あぁ。キミが力を覚醒させて倒れている所を、カレは部下に探させて保護したんだよ。」
「‥‥‥‥‥」
「“時の権能”の事は知っているかい?」
「あ、うん。僕がその権能の獲得者だって‥‥‥。」
「キミが勝ち取った力さ。」
「‥‥勝ち取った?」
「そうさ。キミが時の権能を使ったおかげで、今
「‥‥‥だから‥‥‥僕は保護されたの‥‥?」
「そうさ」
「‥‥僕はすぐにでも死にたかった。早く楽になりたかった。それなのに僕はいつも死ねなかった。それは、あの人が助けてくれたからなの?」
「そうさ」
「‥‥‥‥‥」
「??どうかしたかい?知束。」
僕の頭の中で一つ謎が解けたような気がした。
「ずっと不思議だったんだ。お腹が空いても、目をほじくっても、腕の皮膚を噛みちぎっても、次の日には全て元通りになっていたから。」
「そっか」
「それももしかして、あの人が‥‥‥?」
「うん。そうかも知れないね。」
僕らがそんな会話をしていと、真っ暗な廊下の先に小さな光が見えてきた。
「もう着くよ。知束。」
真白はそう言ってその光の方へ歩いていく。
どうやらこの長い廊下は外へと繋がっていたようだった。そして外はとても明るい場所だと分かった。
ペタ、ペタ、ペタ
真白が裸足で歩く音が廊下に響き渡る。そして徐々に目の前の光は大きくなっていく。
真っ暗な世界から連れられて、僕は遂に外へ出たのだ。
「‥‥‥眩しい!」
そう言って目を瞑るも、次第に目が外の光に慣れていく。
ゆっくりと目を開けた先には僕の想像を遥かに超える幻想的な世界が広がっていた。
「‥‥‥ここは‥‥‥?」
僕はそう言って、真白の背中から下ろしてもらった。
そして見惚れるままに外の世界を歩き回った。
「‥‥‥こんな場所が‥‥‥。」
僕は思わず声に出してしまう。
しかし、なんて素敵な場所だろう。
少し見通すと丘があり、その丘から滝が落ちて透き通るような水が川となっている。
あたりに咲く草花も、まるで僕が今まで観てきた事のない綺麗な品種だ。
それに見たことの無い動物に魚達までいる。
何より、この世界にはあちらこちらで結晶のような物がキラキラと輝いていた。
「‥‥‥‥なんて綺麗な場所だろう。」
また思わず声に出してしまった。
しかし、その空間にいるだけで幸福感を感じてしまうのはとても不思議な事のように思えた。
「ねぇ、ココはどこなの?」
真白に問いかけた。
すると真白は僕の目の先を見つめて言った。
「さっきも言っただろう?」
ココは“天世界”さ。
真白は僕にそう説明した。
この世界は文字通り天の国だと思えるほどに美しかった。
「‥‥ここが‥‥天世界。」
僕はそう呟いてこの世界を見渡した。
少し爽やかな風が体に当たり、僕の着ている服や真っ白に変色した髪を揺らした。
「あぁ‥‥‥。」
外に出たのは久々だった。
僕はいつも暗い四角形の部屋に居たような気がする。
研究施設でも、この世界でも、僕は常に同じような場所に幽閉されていたのだ。
僕は暗い廊下から少し離れた丘の上までやってきた。そこからならこの世界の事を一望できたからだ。
「ようやくキミをここへ連れて来れた。」
真白はそう言って僕と同じように丘の上へと並んだ。そのまま僕と同じように世界を見つめ始める。
ここはまるで“あの場所”のようだ。
あの日は、ただただ酷いだけの世界だったのに、今はとても穏やかでゆっくりと時間が流れている気がする。
そしてまた心地のいい風が吹き始める。
「言っていなかったね、天世界には元々人間だった魂や精霊達が力を合わせて暮らしているんだ。」
「元々、人間だった?」
「そう。現世で死んだ魂は全て天世界へと導かれるのさ。」
「それって‥‥‥‥。」
「キミが居た世界の人も居るよ。ほらあそこ!」
真白はそう言って遠くの方を指差した。
しかし、僕は目が悪くてその指の先が見えなかった。
「ど、どこ?」
「ほらほら、あそこだよ!キミの目を治療していた人達もいるよ!雛川さんだっけ?他にも大勢さ。」
真白は夢中になって僕に教えた。
しかし、僕の目にその人達が映る事は無かった。
「カレらは元々はキミと同じ現世で普通に過ごしていた人々さ。今はここ“月の
「‥‥つきのさかえ?」
「そうさ、そしてもちろん精霊達はキミがここに来るのを待ち望んでいたのさ。」
「‥‥僕を?」
「あぁ!」
「‥‥‥どうして?」
「それはね、****************。」
??どう言う訳だか、僕はその時に真白が言った言葉が全く聞こえなかった。
「え?なんだって?」
僕が真白に尋ねると、真白は少し苦いように微笑んだ。
「キミにはまだ届かないかも知れないね。それでも僕はキミを選んだのさ。キミがいつか僕を超えた救世主になるよう信じて。」
「え‥‥?」
真白はそう言い終わると少し後ろを振り返った。
「やぁ、お待たせしてしまったね。キミ達との約束を果たしに来たのさ。」
真白は僕らの後ろにいる誰かにそう言った。
そして僕もゆっくりと後ろを振り向いた。するとそこには“彼ら”の姿があった。
僕は“彼ら”を見てとても驚いた。
そう、彼らはずっとここに居たのだ。
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