【第22話】『 王の部屋にて 』
23.花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第22話〉『 王の部屋にて 』
「報告をしろ。小僧の具合はどうだ?グリフォワルド」
ソロモン王は玉座に座り、1人の若い王宮大臣に問いた。
グリフォワルドと呼ばれた若い王宮大臣は、ソロモン王の前で腰を低くして答えた。
「はい、食事には一歳手を付けておりません。夜は
「そうか」
ソロモン王は鋭い目つきのまま、若い王宮大臣の報告を聞いていた。
すると、少し経ってグリフォワルド王宮大臣はソロモン王へある質問を投げかけた。
「あの、こんな事を言うのは失礼かも知れませんが、彼は本来なら
「‥‥‥」
その問いに、ソロモン王は何も答えなかった。
ただ、グリフォワルドと呼ばれる若い王宮大臣の顔を見ながら、椅子に肘をつけて座っているだけだった。
続けてグリフォワルド王宮大臣はソロモン王へ慈悲の目を浮かべて申し立てた。
「彼の体は、日に日に衰弱しきっています。ろくに睡眠も取れていないから、体も衰えが早いんです。我々が治癒魔法でなんとか延命させておりますが、このままでは死んでしまうかと。」
「そうか。」
ソロモン王の顔は一瞬の変化もなく、ただ一言、
グリフォワルド王宮大臣は、そんなソロモン王の表情を見て、また更に質問を投げかけた。
「どうして、彼をあのままにされるのですか?」
「無論だ。異端者を捉えるのは当たり前のことだ。小僧とて例外では無い。」
「いえ、そうでは無くて。なぜ彼を“あの状態”のまま投獄させているのか、私には分かりません。」
「‥‥グリフよ、何が言いたい?」
「いえ、彼の精神状態は重度の鬱状態です。それはあなたもご存知のはず。精神回復系の魔法を使えば、すぐにでも彼を鬱状態から救うことが出来るはずです。それなのに、なぜ、あのまま彼を1人にして暗い一室に閉じ込めておくのですか?」
清楚な衣を
沈黙の中、またソロモン王は口調を変えて語り始めた。
「‥‥‥あの小僧を現世から連れた部下の報告にはこのようにある。小僧は“時の権能の獲得者である”と。」
「えぇ、それは皆申しております。」
「時の権能なんて、この世に存在しないと思っていた権能の一つだ。それがまさかあんな子供に宿るとは考え難い。」
「ですが、現に時の権能は発動し、彼は世界の時間の流れを止めて見せたではありませんか?」
「そうだ、権能の使い方を知らん子供が、いきなり時間を止められると思うか?だから奴の事を部下に調べさせた。そこには目を疑うような内容が記されていたのだ。」
「それは‥‥一体なんでしょうか?!」
グリフォワルド王宮大臣は、ソロモン王の言葉に困惑した表情を見せる。
しかし、ソロモン王は鋭い目つきのままゆっくりと語り始めた。
「悪魔の黙示録とエリアの魔導書を知っているか?」
「……確か、800年前に失われた書物ですよね?1冊は悪魔の手にわたり、もう1冊はどこを探しても見つからなかったとか。」
「そうだ。黙示録の方は俺がある悪魔から剥ぎ取った物だ。しかし、エリアの魔導書はどこを探しても見つけることは出来なかった。」
ソロモン王は、その時の様子をまるで回想しているかのように語り始めた。
その様子をグリフィワルド王宮大臣は下から眺めている。
「誰が持っているのか、どこに隠されているのかすら分からなかったあの書物は、ただ、ずっと同じ場所に存在していたのだ。」
そう言うソロモン王の顔は、どこか穏やかで、平安に満ちた顔だった。
そしてソロモン王は続けて言った。
「部下の報告によると、今回の事は全て偶然では無い。どうやら、裏で暗躍している人物がいるようなのだ。」
「それは、どう言う?!」
グリフォワルド王宮大臣が前のめりになりながらソロモン王に問いた。
「つまり、時の崩壊を予知することが出来て、あの小僧にエリアの魔導書を渡し、時の権能を目覚めさせた人物がいたということだ。」
「なら、これまでのことは全て仕組まれていたということでしょうか?!」
「まだ確信的な事は何一つ分からない。そもそも、これらの説も、根拠たる所以は一歳見つかっていないのだからな。だからこそ俺達はあの小僧の選択を待つしかないのだ。今、
ソロモンがそう言い放った瞬間、2回ドアを叩く音が聞こえてきた。
コンコン
2人は一斉にドアの方へ顔を向ける。
「入れ」
ソロモン王はそのドアに向かって言った。
するとゆっくりドアの取っ手がガチャリと音を立て、1人の少年が中へと入ってくる。
「‥‥‥‥」
「失礼します。」
その声の主は、魔法使いのような衣装を身に纏う白髪の少年である。
「こんにちは。」
そう挨拶した少年は優しそうに微笑んだ。
その容姿は赤い瞳を持ち、地球儀のような耳飾りを付けている。
「僕の名前は真白と言います。どうか、知束くんに合わせてくれませんか?」
「貴様は……。」
ソロモン王はその少年を凝視すると、まるで死人を見つめるかのような顔をしている。
「陛下?
グリフォワルド王宮大臣はソロモン王の表情の変化に動揺している。
しかし、ソロモン王は真白を見た途端、何かを悟ったかのように冷静な顔つきへと変わる。
「なんでもない。好きにしろ。」
その答えを聞いた真白は、一度ペコリとお辞儀をしてその部屋を出ていった。
たった数秒の出来事に、その空間は不思議な空気に包まれている。
「まさか、奴が関係していたとはな‥‥。」
ドアが閉まる音を聞きながら、ソロモン王はそんな言葉を呟いた。
「何者なんですか?彼は」
グリフォワルド王宮大臣は質問する。
しかしソロモン王は、どこか納得した様子で答えた。
「ただの、旅人だ———。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます