【第19話】『 エリアの魔導書 』







 20.花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第19話〉『 エリアの魔導書 』







 俺達は“エリアの魔導書”と共に様々なサンプルを天界へと持ち帰った。

 そして、時の崩壊を受けて唯一生き残った世界の事を、俺達は“灰色の世界”と名付ける事にした。




「報告は以上か?」



 

 ソロモン王は、目の前で謙る俺達へ問いかける。

 その眼光は、まさに王たる威厳とも呼べる程の輝きを見せていた。


「はい、ソロモン王よ。我々が灰色の世界で得た情報はこれだけでございます。」


「そうか、下がれ」


「御意。」


 俺達はソロモン王への報告を済ませ、新たな任務へと向かう。

 それは“エリアの魔導書”がなぜ異孵世界にあったのか調査する事だ。


 俺はそのまま王室を出て、廊下を進み、全世界の読み物が保管されてある大きな図書館“月の書庫”へと向かう。

 すると俺が歩いている方向に見慣れた顔が現れる。


「ガゼル、またお前と同じ任に着いたぞ。」


「おお、シザーク。ジルは元気にしているか?任務ばかりでアイツと遊んでやれてねぇからな。」


 目の前に現れたこの髭親父の名はガゼル・リードマン。俺と同じソロモン王宮騎士団に所属する騎士の1人である。


「ジルは帰還後、1人で禁書庫に篭っているはずだ。それより、お前はどう思う?時の権能の獲得者について。」


「どうってお前、あんな子供に権能の力は荷が重いだろう。可哀想な話だ。コレで5人目なんてよ。」


「あぁ、権能者の年少化は俺も以前から気になっていた。しかし、コレも全て神界の方々が決めている事だ。俺達にはどうする事も出来ない。」


「分かっているさ。ただ、どうしてこうも権能者の年齢が若いのか、そしてどうしてこんなに多く現れるのか、それが気になって仕方ねぇのさ。」


「俺達が考えても分かるまい。神の考える事なんて。さぁ、早速調査しに行こう。今回調べるのは“エリアの魔導書”についてだ。」


 ガゼルと俺は昔からの顔馴染みなのだ。それこそ何百年の付き合いである。

 よくこのソロモン宮のバルコニーで、俺達は任務で得た情報をお互いに語り合っていた。


 俺もガゼルも妻子持ちで、仕事の同僚と言えど、何かと気の合う奴なのだ。


「エリアの魔導書は、元々魔法の力を封印しておく為の本だと聞いていたが、今回の件にどれだけ関わっているのだろうか?」


「さぁな。あくまでこいつぁ予想だが、魔導書の中に眠っていたのは魔法じゃぁ無く、“時の権能”の力だったって事なんじゃねぇか?」


「そうであれば話は別だろう。」


 俺とガゼルはそんな会話をしながら、エリアの魔導書について情報を集める為、書庫へと赴いた。


 エリアの魔導書とは、約1200万年ほど前に光を司るエリアと呼ばれる神によって作られた魔導書である。


 その魔導書の能力は様々な憶測が飛び交う中、最も有力と言えるのは、書いた者の記憶や能力をそのまま映し出す力が備えられていると言われている。


 果たしてそれが真実なのかは定かでは無いが、この本に隠されていた力が“時の権能”だったとなれば辻褄が合うのだ。


 あの少年はこの本を読んで“時の権能”の力を得て世界の時間を止めた。と考えるのが妥当だろう。

 

 だが、そうなると話が変わって来る。

 一体誰がこの本を少年に渡したのか?その理由も定かでは無い。

 タイミングで言えば、これから“時の崩壊”が起こるからこの本の中にある権能を使え、と言わんばかりの偶然さである。



 うむ、少し不自然だ。



「シザーク、どうした?難しい顔をして」


 ガゼルが俺の難しそうな表情を見てそう言った。


「うむ、今回の件に関しては腑に落ちない事が多い。少年が目覚めるまで待つ手もあるが、いつ目を覚ますか分からない。」


「だが、全て知っているのはあの坊主だろう?なら水かけて起こしてやりゃあいいんだよ。」


「そうも言ってられない。あの日、彼の身の回りで何があったかは報告した通りだ。彼には暫く安息が必要だろう。」


「とは言え、謎は深まるばかりじゃねぇか。結局時の崩壊を引き起こした原因も見つからなかった訳だしな」


 俺達は同時に頭を抱えた。

 エリアの魔導書があの場所にあった事と、時の崩壊が止まった事は偶然では無いはずだ。

 

 やはり俺の仮説が正しかったら、あの少年にエリアの魔導書を渡して、時の崩壊を引き起こした張本人が居たに違いない。

 だが、今の現状、時の崩壊は神々ですら引き起こす事は叶わないとされている。

 なら時の崩壊が起こる事を予言していた人物が居たのだろうか?


 分からない。根拠がない為に確信を得られない。


 しかし、これらの仮説は可能性として頭の片隅に入れておこう。


 それとあの場所に居た悪魔の存在も気がかりだ。


 やはり少年が目覚めるまで待つ他無いのかも知れない。


「ガゼル戻ろう。少年は今どこに居る?」


「確か、ソロモン宮の無籠むかごの部屋だ。あそこなら誰も干渉できないし目が覚めたら直ぐに分かるって話だ。」


「やはり少年が起きるまで待つ事にしよう。そして少年が目覚めたら“エリアの魔導書”と“時の崩壊”について聞き出す。」


「やっぱりソイツが手っ取り早い手段だな」


 俺達はそのままソロモン宮へ戻ろうとした。

 すると何処からか俺達を呼び止める声が聞こえてきた。


「父さん!待って、分かった事があるの。」


 そこに現れたのは、俺の娘、ジル・ジヴァイエ・ジョウルだった。

 ジルはどうやら一冊の本を握りしめ、慌てた様子で俺達の元までやって来る。


「おぉ、こいつぁジルじゃねぇか!!禁書庫に閉じこもってたって聞いたが??」


「どうした?ジル。そんなに慌てて。」

 

 俺達は慌てた様子のジルを見て、少し茶化した雰囲気で問いかけた。

 しかし、ジルは真剣な眼差しで俺達を見ている。


「この書庫である事を調べていたの。そしたら全てが繋がったわ。」


「??どう言う事だ?」


「エリアの魔導書も、時の崩壊も、時の権能の力も、全てに共通する事があったの。」


「ソイツはなんだってんだ?ジル」


 ジルは2階の本棚からゆっくりと階段を踏みしめて降りて来る。

 そして俺達に一冊の本を手渡した。






「悪魔の黙示録もくしろくよ。」



 


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