【第14話】『 残酷 』
15.花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第14話〉『 残酷 』
バケモノが僕らに姿を見せると、白衣を着た男がそのバケモノにの前へ行き、敬意を示すように
「あぁ、おいたわしや、我君。先の
男はそう言って膝を地面につけた。
バケモノも男の声に振り向き、無数の目で男をギロリと見つめている。
「ジェジジ、シェブァナス。よぐヤった。この俺ざまの為にニンゲンの肉体ヲ用意しでくれルルとはな。」
「はっ、ありがたきお言葉、光栄の極みで御座います。」
「キュキュ‥だが、肝心の肉体はマだ生きておるぞ?あれはどう言ウ事だ?」
「な、それは大変申し訳ありません。ニヒルに権能の力を使い殺せと命じたのですが‥‥」
「構わンよ、だが、もう1つ問題があるのだ。」
「はっ、それは何で御座いましょう?」
「オ前は、いつっかラ俺様を呼びつげに出来るホど偉くなったのだ?」
「‥‥‥はっ‥‥?」
プツンッ
「俺様を誰だと心得ル?魔の主ダぞ?お前にとっては想像主である俺様をぉ、わざワざこんな下界に呼びつけルだなんてな‥。」
気がつくと、白衣を着た男の胸に大きな穴が空いていた。
そしてバケモノの手には、男の骨と内臓らしき物が幾つもあった。
「殺しテやろう。低俗な下界にこのオれ様を呼びつけた罪は重い。シェファナス、お前は皇帝にナる前に俺様が消してシまおう。」
「‥‥お待ち下さい。アヌフェル様!!どうかお許し下さい。私では、
「ぉ前は俺に指図シた。万死ニ値する。」
すると次の瞬間、白衣を着た男の体が、メラメラと燃える黒い炎に包み込まれた。
そしてバケモノはまたニヤニヤしながら男が焼かれる様を見ていた。
「ぎぎやぁああああああああああああああああああ!!」
燃やされる男は、この世の物とは思えない程の叫び声を上げた。そして炭のように焦げ腐り、その体は徐々に朽ちていった。
「イヤだ、イヤだぁあああ。かぁさああん。おかあざぁぁぁんんん。うああああああああああ‥‥‥!!」
その場には、男の燃え滓が散乱していた。
そして黒い炎が消えたと同時に、男の体は全て灰になった。
僕もみんなも、その光景を見て震えが止まらなかった。
悪魔であるはずの白髪の少女までもが、その様子に体を震わせていた。
なんだこれ、なんなんだ‥‥。
これじゃただの惨殺刑じゃないか。
こんなヤツに僕は殺されるのか?!
どうすればいい?このままじゃダメだ、僕も皆んなも奴に殺される。皆んなあの人みたいに焼かれてしまう。
どうしたら‥‥。
僕は思考を巡らせた。
するとバケモノは大きな口を開けた。
「ねェ、ちさトくん?俺様と取り引キをシないか?」
バケモノは僕の方を向いてそう言った。
取り引き‥だと。一体何を要求されるんだ。
考えろ、考えろ、どうすればいい?!どうすればこの状況を打開できる?!
あぁ、イヤだ‥。こわい‥。
「お前が俺様ノ取り引きニ応じない場合、そうダな、ここにイる人間は全て殺しテしまおう。フフフフフフ」
バケモノは無数に存在する目をニヤつかせながら、僕の方へと歩いて来る。
一歩ずつ、丁寧に、ゆっくりと。
ノシ、ノシ、ノシ
奴の足音が地面を揺らした。
そして奴が足を置いた地面は、徐々に腐敗していくのが見て取れた。
土や草だけでなく、虫やミミズなんかも死に、とても早い速度で腐り始める。
そこに流れる水も、汚染水のように濁り、中にいた生き物は全て死んでしまった。
奴が僕に近づくにつれて、夥しい量の悪臭が鼻を刺激する。とても耐えられるものではない。恐怖と吐き気で頭がおかしくなりそうだ。
「俺様のナ前は、アンフェル・サーふぇス大王だ。この俺様と取り引きヲしよう。」
奴は僕の前に立つなり、触手を大きく伸ばし始めた。
そして僕の頭を掴まれ、顔を正面に向けさせられた。奴の腕は細く大きい。冷たさをも感じてしまうほどだった。
「やはり、イい顔をしているな。綺麗ナ髪に真っ白な肌。そしてこの表情。俺様は人間が恐怖しテいる顔が大好きナのだよ。」
奴は僕の髪の毛や肌を尖った指で触り始めた。
触れられた場所から鳥肌が止まらなかった。
「‥‥取り引きって‥‥なんですか。」
僕は意を決してバケモノに問いかけた。
するとバケモノは更にニヤニヤした顔を見せた。僕は目を合わせられなかった。
「簡単ナ事だよ。俺様と契約を結べ。さすれば、お前ノ世界を元に戻してやろう。」
「‥‥‥え?」
「俺様を受け入れて、“時の権能”を渡せ。さモないと、お前の大切なお共達は、皆、今日が命日となるだろう。」
バケモノは僕の耳元でそう告げると、奴は俺の体に触手を巻きつけ、逃げないようにしっかりと固定した。
「‥‥‥ど、どうすれば、いいんですか。」
身体中の震えを必死に抑えて、僕はバケモノに問いかけた。
するとまた、僕の耳元でバケモノがニヤァと笑う音が聞こえてきた。
「ケケ‥お前ノ身体をよこせ。そして俺様に永遠の忠誠を誓え。さすれば、お前の世界は元に戻り、お供達ハ生き延びル。悪くないだろウ?お前はこれまデずっと自己犠牲を貫いてきタのだから、答エは決まっていルはずだ。」
僕は怯えて何も言葉にできなかった。
奴はそんな僕を嘲笑うかのように、ケタケタと笑っていた。
その刹那、誰かがバケモノの方へ駆け寄ってくる。
タッタッタッタッタッ
「おいゴラ。オバケ野郎、ちさとっちに近づいてんじゃねぇぞ。ゴラァ!!」
そう言って飛び出してきたのは孝徳だった。
孝徳は折れた木の棒を両手で持ち、バケモノ相手に振りかざした。
「よせ、やめろ!!」
バキッ!!!
孝徳が振った木は、バケモノの大きな触手に当たった。
しかし、全く歯が立たない様子で木は折れてしまった。
「チッ、怪獣のくせに、俺の親友を独り占めなんて妬けるじゃねぇかよ!!このクソ野郎!!」
今度は大きく回転してバケモノの腕を蹴り飛ばした。
しかし、やはり全くダメージを与えられる気配は無かった。
「たかのり、もうやめてよ!!君が殺されちゃうだろ!!」
「うるせぇ、さっきも言っただろ?ダチがピンチの時は俺の出番だってな!!」
孝徳はそう言って、バケモノを思いっきり殴り続けた。
それに加えて、義也も声を荒げながら走って来る。
「はぁああああああ!!ちさとから離れろや。このバケモンが!!」
そうして、2人はバケモノの触手を僕から引き剥がそうとする。
遠くの方からはバケモノ目掛けて石が飛んできた。
その石がバケモノの頭に当たり、バケモノは投げてきた石の方向を向いた。
「ちさとッチのこと離さんかい!あんたのせいで、いっぱいトラウマ植え付けられたやんか!!どないしてくれんのよホンマ!!」
「そうだよ。なんで私達から知束君を奪おうとするの?どうして知束君がこんなに辛い思いをしなきゃいけないの?なんで、知束君ばっかりイジメるのよ。このバカ!!」
椎菜にマヤちゃん、皆んなが僕の体をバケモノから引き剥がそうとしている。
そんな事したら、皆んなが殺されちゃうのに。
「おい怪獣さん、無視してんじゃねぇーよ。さっさとちさとッチ離して消えやがれや!」
「ちさと、待ってろ!!すぐこいつを引き離してやるからなぁ!!」
「ちさとっち、諦めたらあかん!!アタシらが助けたるから!!」
「ちさと君を返して!!お願い!!」
皆んなが僕を助けようとしている。
それなのに僕は何もできない。僕がコイツと契約すれば皆んな助かるのか?
このままじゃダメだ。僕が決断するんだ。
どうすれば現状を変えられる?!またさっきの力を使ってみるか?!いや、時間がかかりすぎる。それにコイツ相手に通用するかどうか。
ならどうする?!もう時間がないんだ。迷ってる暇はないんだ。早く決めてくれ!!
そうか、簡単な話じゃないか。
このバケモノに体を明け渡せばいい。そうだ、取り引きに応じよう。そうすれば世界は元通りになる。皆んなも無事に生き延びれる。それしか無い!!
「皆んな、ごめん。僕は‥‥。」
僕がそう言った瞬間、バケモノが大きく動き出した。
そして僕の目には、見たくない光景が映つりこんだ。
パチュッ
僕の顔にべっとりとした何かが付着した。
まるで時が止まったみたいに、その光景が頭に残った。
ペチョッ、グチャッ
いつも台所で聞いてるお肉を調理する時の音。
そんな音を立てながら、目の前で友達が真っ二つにされていくのを、僕はただ見ている事しか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます