【第13話】『 絶望の訪れ 』
14.花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第13話〉『 絶望の訪れ 』
僕以外の全ての物や人、そして大切な友達まで消えてしまう。
時間なんてもう
「マヤちゃん‥‥?椎菜‥‥?皆んなの‥‥体が‥‥‥。」
僕は悲壮的な声で言った。
皆んなの体は、少しずつ、灰のようにパラパラと消滅しかけている。
しかし、その事に誰も驚いたり怖がったりしていなかった。
それどころか、皆んな普段と変わらない様子で会話しているのだ。
「とは
「んー、どこかにドライバーでもあれば外せるかも知れないけどね。」
マヤちゃんと椎菜が僕の後ろで会話している。
タイムリミットは着実に近づいている。
このままだと、本当に皆んなこの世界と一緒に消えてしまうだろう。
そんなの、絶対にダメだ。
僕は皆んなに、何としてもこの気持ちを伝えなければならないという焦燥感に駆られた。
「‥‥‥もう、逃げて。」
溢れるように言葉を発した。
「ん?ちさとっち、なんかゆうた?」
マヤちゃんが僕の様子を見ながら問いかける。僕は下を向いたまま抑えられない感情をそのまま言葉にした。
「‥‥皆んな、僕の事なんて置いて逃げてよ。」
「ちさとくん?」
「分からないの?!このままだと皆んな死んじゃうんだよ?!僕なんかに構ってる暇はないんだ。皆んなこの場所から早く離れて!!」
僕は悲痛な叫び声を上げた。
とっくに僕の心は焦りによって支配されていたのだ。
「今、この世界では“時の崩壊”って言う粒子化現象が起こってるんだ。だからここにいると危険なんだ。僕の事は気にしないで。皆んなだけでも逃げてよ!!」
僕は自分の想いを壊れかけた喉で叫んだ。
しかし、誰一人としてこの場から離れようとする人はいなかった。
皆んな、
僕を見ながら突っ立ったままだった。
僕が叫び終えると、誰も動く気配などなく、数秒間沈黙が続いた。
「‥‥どうして?こんな所にいたら、全員、あの街と同じように消えてしまうんだよ?それでもいいの?!早くここから逃げてよ。皆んなだけでも助かってよ。」
次第に“時の崩壊”と呼ばれる現象は、僕らのいる山にまで浸透してきた。
そしてこの場所からは、街が消えていく様子がはっきりと見えた。それは、まさに地獄と言い換えてもおかしくは無い光景だった。
人も車も建物も、全てが粒子のようになって溶けていく。
それは、まるで星が欠けるように、溶岩が物を溶かすように。
ただひたすらに残酷な光景が広がっていた。
世界中で大混乱が起こっている。
人々は逃げ惑いパニック状態。しかし、“時の崩壊”には逆らえない。
この世に存在する全ての物を、チリ一つ残さずに消し去ってしまうのだ。
「皆んなは分からないのかもしれないけど、この世界は後数時間で終わるんだ。世界の終わりがやってきたんだ。だからここにいちゃいけないんだよ!!」
白髪の少女は、なぜか僕らを殺そうとする気配は無く、ただ静かに聞いているだけだった。
「チサトっち、何
そう言って、孝徳が後ろを振り向いた。
そして今度はニコッとした表情で言った。
「俺はさ“皆んな”で助かりてんだよ。誰も欠けちゃいけねぇ。だから、ちさとっちに何を言われてもずっと一緒だ。」
「 だって俺たち“友達”じゃねぇか。 」
孝徳は僕にそう言って笑顔を見せた。
すると今度はマヤちゃんが孝徳の言葉に乗せて言った。
「そうやで。ちさとっちと一緒やなかったらアタシは逃げたくない。」
今度はマヤちゃんが言った。
「私も、最後まで、この5人でいたいの。」
「悪いな知束、俺達は頑固者だからさ。お前を絶対に一人にはさせない。」
皆んなこぞってそう言い出した。
夜空にはまるで見下ろされているかのように無数の星達が並び、消えゆく世界は最後の輝きを見せる。
これまでも、ずっとそうだった。
誰も僕の言う事なんて聞いてくれない。むしろ、皆んな好き勝手して騒ぎばかり起こすのだ。
そんな最高な奴らだった。
「‥‥‥そんな嬉しい事、言わないでよ。それでも僕は、皆んなに生きていて欲しいんだ‥‥‥。」
僕は、言葉が詰まった。
飲み込むように自己犠牲を諦めたのだ。
彼らの表情を見て、僕もここに居る皆んなと一緒に“生きたい”と思ってしまった。
義也と孝徳はそのまま振り向く事なく、悪魔達の元へと駆けていく。
椎菜とマヤちゃんも、お互いに相談しながら鎖の解体を始めた。
「クッ‥‥!!」
僕は歯を噛んだ。この状況を解決しようとしていないのは僕だけだ。
ならもう一度考えよう。
この世界の何処かに時の崩壊から逃れる場所が、もしかしたらあるかも知れない。
分からない。最悪のケースを何度も考えてしまう。
でもさっきから感じるこの感情、湧き上がる気持ちに嘘は無いはずだ。
こんな状況でも、諦めなければどうにかなるかも知れない。きっと探せば希望はある。
『 きっと守ってくれる——。 』
そうだ、あの日の記憶。
さっきから夢のような記憶が脳裏をチラつく。
白い少年が僕を見ながら言っていた‥‥‥?
僕の“目の能力”、きっとそれがヒントだ!
探し出せ、もっともっと頭を使え、きっとこの現状を打開する“何か”があるはずなんだ。
この絶望的な状況を覆す“何か”が。
これまでの人生で、
僕に能力が生まれた瞬間と言えば、多分あの時だ。
確証は無い。確信も無い。けどやってみよう!
試す価値なら絶対にある!
皆んなを救えるのは僕だけだ。僕が皆んなを守るんだ!
僕は手錠をされた状態のまま鼻で大きく息を吸った。
そしてお腹に力を込めて、消えていく世界を前に、自分が持てる力の全てを使って叫んだ。
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!」
椎菜もマヤちゃんも義也も孝徳も、その瞬間僕の方を見る。
「ちさとっち‥??どうしたん?‥??」
息が続かなくても、何度も何度も叫んだ。
お腹に力を込めながら、大きく息を吸って、何度も叫んだ。
「はぁああああああああああああ!!!!!」
叫び続けながら大きく右目を見開いた。
すると少しずつ僕の体から、黄緑色の光が溢れてくる。
それは粒子のように細かく、夜を照らすイルミネーションのように綺麗な光だ。
少しずつ僕を取り囲むように光り始める。
やっぱり、僕の感は当たっていたらしい!
昔、誰かが言っていたんだ。お腹に力を溜めて叫ぶと、神権の鍵が少し緩むって。
きっとコレが僕の能力、あの少年が言ってた権能の力だ!!
僕は、お腹に大きく力を込めて、この力にありったけの想いを込めた。
『 どうか僕らを守ってくれ! 』
「うあぁぁあああああああああああああああ!!」
こんな力知らないはずなのに。
何故か懐かしいような気もする。
昔はいつもやっていたような?
まるでお母さんの子宮の中にいた頃を覚えているかのように不思議な感覚だ。
少し経つと、叫ばなくとも光は自動的に僕の周りを囲い始めた。
どうやらこの光は、力を込めれば込めるほど強く大きく輝きを放つようだ。
そして徐々に“崩壊”のスピードが遅れていくような気がする。
「ちさとっち?!え、ちょ、なんだ?!」
「急にちさとっちの体が光り始めたんやけど‥‥!」
白髪の少女はそんな僕を見て、目を丸くしながら驚いていた。
何故か僕らを殺す気配は感じられない。彼女はただその場で立ち尽くしているだけだった。
僕がお腹に力を込めると、体の奥底から強い倦怠感に襲われていく。
だが、このまま力を使い続けたら、きっと皆んなを助けられる気がするんだ。
だからもっと頑張れ。僕、
こんな事が出来るなんて想像もしてなかった。
しかし、きっとコレが僕の答えなんだ。僕が諦めさえしなければ、皆んなを守る事だって出来るはずなんだ!
そうだ、頑張れ!!頑張れ!!頑張れ!!
僕はさらに力を込めた。
『 己の正義を振り翳してはならない。 』
「はぁ‥ぁ‥‥‥!」
その時、あの貫禄のある声が僕の脳裏を過った。
僕は叫ぶのを止め、少し考える。お腹の力を緩めると次第に光は薄くなっていった。
「どうした?知束?」
「‥‥‥」
僕は何か恐ろしい事が起こる予感がした。
この“時の崩壊”以上に、とても嫌な物が近づいてくる気がする。
全身が鳥のようになり、悪寒が走る。
もしかして、まだ見落としがあるのか‥‥?
このまま僕が力を使い続ければ、時の崩壊は止まるんじゃ無いのか?
なんだろう。とても嫌な予感がする。僕は何かを忘れている気がするのだ。
そして、さっきから聞こえるこの大きな音は‥‥‥‥?
なんだ‥‥‥??
まるで隕石のような何かが近づいてくるような‥‥‥‥?
「ッ‥‥‥ハッ」
☻
その瞬間、
そして大きな爆発音がその場に鳴り響いた。
ギュチャバリバリバリバリ!!!
耳鳴りが激しい。何も聞こえない。
衝撃が強すぎて何が起こったのか何も分からない。
本当に
その勢いは凄まじく、その場に居た全員が一斉に吹き飛ばされた。
僕の体も拘束されていた手錠と共に飛ばされていた。その影響で手錠は壊れ、僕の右腕は骨折してしまっていた。
キーンと鳴る耳から、徐々に周りの音が聞こえ始める。
「‥‥ゲホッ‥‥ゲホッ‥‥!!」
あたりは砂煙に覆われて何も見えない。
しかし、皆んながそれぞれの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
どうやら皆んな無事に生きてる様子だった。
「みんなー!!無事かー?!ゲホッゲホッ」
「ちさと〜!俺達は無事だぞー!」
遠くの方から義也と孝徳の声もする。
「ウチらも大丈夫ー!!!」
椎菜やマヤちゃんの声も聞こえた。
「‥‥はぁ、よかった。」
僕が安心していると、煙の奥から断末魔とも呼べる程の生物の声が聞こえて来る。
「ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!!!」
そして、
その爆風の中から現れたのは、人でも悪魔とも思えない悍ましい姿だった。
「ギギギギギギギギギギ、グァァァァァァアアアアアアア!キュキ‥ノォクガ‥‥」
真っ白な煙の中から奇妙な声が聞こえて来る。
そしてその中には、この世の物とは思えないバケモノが存在していた。
「キギギギギギギギギギギキキ‥キクチクククヌク‥‥クガヶニ‥ゴ‥‥‥ァ、ゴカ、キガァ、が、がぁ。がぅ。くかん。かおがは、せジいぜぃィィイざれれレないの、かガ。」
そのバケモノはまさに異様な姿をしていて、煙の中からもハッキリとシルエットが見えた。
そしてバケモノは少しずつ意味のある言葉を話し始めた。煙は次第に薄くなっていき、その姿が露わになった。
「オオオルオオ、キカキキおれぉェのぉ、がルゥらァだ‥。ガrタぅか、ドコココだぁ?、にニちゅノ」
そのバケモノの姿を見ると、誰もが恐怖に苛まれた。
僕の右目に映ったのは、まさに怪物と言い換えてもいいほど最悪な生物である。
腕の他に9本の大きな触手がそこら中を行ったり来たりしていて、背中には羽のように見える大きな骨が何本も突き刺さっていた。
頭には無数の目玉が僕らを睨みつけてる。
カラダ全体に黒いオーラを纏っていて、その中には剥き出しになった心臓や脳みそが見え隠れしていた。
そしてなにより、奴は引き裂けた口で長い舌を伸ばしながらニッコリと笑っているのだ。
「な‥‥なんだ、コイツ‥‥‥。」
「ぃや‥‥‥」
孝徳達はその姿を見るなり、憎悪と悪寒に体を支配されていた。
「いや‥‥いや‥‥‥いやぁ!!気持ち悪い!!」
皆んなの恐怖の声が聞こえて来る。
コイツがまさか、あの男が言っていた“あのお方”なのだろうか?
そしてバケモノは僕を見つけると、気持ちの悪い笑みを浮かべ始めた。
「‥ニニニギギニニチ‥‥ャチヌ‥リニ‥‥ャチャ」
奴と目が合った瞬間、体の奥底からゾクッと言う音が聞こえてきた。
それは、まるで僕の心臓を握り潰されてしまうような気持ちである。
僕は、さっきから体の震えが止まらなかった。
そんな僕を見て、バケモノはさらに笑い始めた。
「カカ‥キュ、ごんにぢは、ちさとぐん。キキ」
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