第17話 いつもの四人と同時視聴
「今日はいつもの四人でアニメの同時視聴をしつつ、いい加減この四人のユニット名を決めようと思います」
『だいぶ放置してたな』『ファングさん来てからもう半年経ってるしな』『今更感はあるが確かに欲しい』『あった方が何かと便利なのはそう』
みなさんの同意も得られたので、ひとまず今日観るアニメの準備と、同時視聴のためのタイマーを用意するので、バトンをスコックさんに渡しますね。
「ひとまずアイヴィーさんが色々準備してるから、僕らで話すね。といっても、僕は特に案とかないんだけど」
「冒険していた時とは、メンバーが、異なるから、あの頃のチーム名を、そのまま流用するわけにも、いかないな」
「ちなみにその時のチーム名は?」
「チームメンバー、全員の、イニシャルからとって、
ああ、懐かしいですねぇ、チームINFY……最初はわたし一人で冒険するつもりだったのが、森の精霊からの啓示でファングさんを用心棒に連れていくことになり、しばらく二人旅していたら成り行きで奴隷解放のお手伝いをすることになり、そこで剣士の少年を一人仲間に引き入れ、さらに「
全ての旅路を終えた後、祈り手の少女が剣士の少年と共にわたしの故郷の森に暮らすと言った時は本気でびっくりしましたが。
そこからは怒涛の勢いでしたね。気付けば婚姻の誓約の場に仲人として呼ばれたり、二人の子供に名前をつける大役を任されたり……目まぐるしく進む時の中、瞬く間に少年と少女だった彼らは成熟していき、大人になり、そして老いていった。そして来たる運命の日、わたしとファングさんは子や孫に囲まれながら逝った彼らを思いながら声を殺すこともできず泣き続けました。
「その二人は今どうしているんだい?」
「あいつらは、人間だ」
「あぁ……」
『あぁ……』『寿命の差かぁ』『そういえばアイヴィーの冒険譚って…』『短命種、ほんとに短命』『長命種って人間の生をどう見てるんだろうな』『一瞬で消える命だもんな』
そう、本当に一瞬で消えていく。本当に短く儚く……でもだからこそ、そんな一瞬の輝きを次の世代へと託し、託された世代もまたさらに輝いて未来へと繋いでいく。そんな、とても非効率な営みが、とても尊く美しく思えてしまう。
長命種は短命種を侮る。長命種は短命種を嘲る。長命種は短命種を見下す。でも、それは長命種の弱さの裏返しだと、短命種と関わった長命種たちは痛感している。
短命種と関わった者はみな、口を揃えてその恐怖を語る。「彼らはいついなくなってしまうのか」と。そして、いなくなってしまってから、「あの時ああしていなければ」「あれをしていたら」と後悔ばかりが口から洩れる。だから……長命種は短命種と積極的に関わろうとしない。彼ら短命種が見せる一瞬の輝きの尊さ美しさを知った長命種は、その輝きに身を焼かれながら一生を過ごさなければならないからだ。
「関わりが薄い者を、判断する時、誰もが、
『めっちゃ愛してくれるじゃん』『その愛に報いることのできない人間ですまない』『まずは親の愛に報いるとこから初めるか』『初手ハードル激高ニキおるな』
ファングさんの言葉はいちいち仰々しいとは思いますが、だけれどわたしも、きっと彼がここにいなければ同じような言葉を洩らしたことでしょう。
正直、わたしたちはまだいい方です。わたしたちが人間と積極的に接していたのは、あの冒険の日々と、その後も交友の続いた彼らだけですから。
だけども、人間たちの街とこの森の境にある教会で、祈り手として人間と何百年も接し続けてきたスコックさんは……。
「ファングさんはすごいね。みんなへの愛を、そんな風に言語化できるんだから。僕は……もう、そういうのを考えることさえなくなっちゃったからなぁ」
「祈り手がそれでいいのかい?」
「うーん……よくはないと思うよ。でも、僕にとっては人間を愛することに、もう理由なんてないんだ。もうずっとそうしてきた。僕だけじゃなく、祈り手は大地と森がもたらす命すべてを愛しているからね。人間だからとか、そうじゃないとか、もう関係ないんだ。今、僕らの祈りが届く限りのすべての命を愛し、それを脅かす全てから守り抜き、あらゆる生が紡ぎ続ける正しい営みを見守っていく。人間の命は確かに一瞬だけれど……そうして時代を次代に繋ぐ彼らは、間違いなく「正しい営み」を全うしたんだ。だから僕はそんな人間たちを誇りこそすれ、哀れみ悲しむことはないよ」
その場がしんと静まる中、その静寂に耐えきれず声を発したのはシーベットでした。
「この場の誰よりもまっとうに愛している上に、この場の誰より大人じゃないか」
『それな』『ほんそれ』『最年少……?』『最年少はシーベットちゃんやぞ』『そういやスコックくん900でシーベットちゃん680か』『種族によって成熟度が違うから……』
ハルピュイアは他の種族と比較しても成熟するのが早いですからね。
獣人はモデル種にもよりますが、だいたい50~60年で人間にとっての一年分になりますが、ハルピュイアは40年で一年分成熟します。
なので年齢自体は900歳と680歳ですが、人間換算ですとスコックさんが15歳で、シーベックは17歳。なのでこの四人で集まった場合、実年齢と人間換算の両方においてファングさんが最年長、続いてわたしとなるわけですが、この二人だけ逆転するんですよ。まぁスコックさんが基本的に年下ムーブするのでだいたい人間換算の方で接してますが、たまにシーベックがとんでもなくおバカなことをした時はスコックさんが年上としてお説教したりします。
……ちなみにスコックさんの本気の説教を受けるとわたしでもしばらく大人しくなるので、最年少のシーベックが叱られた時などはギャン泣きしてました。
「おっと、そんなこんなで準備できましたけど、まだ雑談を続けますか?」
「いや、あんまりしんみりしても後に響くだろう。お茶とお菓子の準備もいいし、そろそろ本題に入ろう」
「え、ユニット名は?」
「彼らにとって、おれたちは、幻想の存在、なのだろう? なら、ひとまず「FantasyStars」で、よくないか?」
『パッと出た割にしっくりくるな』『さてはファングさんセンスいいな?』『略してファンタジスタか』『ファンタジスタいいな』『略した奴のセンスもたいがいだな?』
確かに、ファングさんの案もいいですが、リスナーさんの略称もなかなか捨てがたいですねぇ。
「では、今後は「FantasyStars」と書いて「ファンタジスタ」と読む方向で」
「いや、そうは読まないだろう」
『おっけー』『いいとこどりヤッター』『それでいこう』『次のコラボから呼びやすくなるな』
「えっ? ……えっ?」
「シーベック、実は彼らの世界では「明らかにそうは読まないだろうけどそう読むんですよ」みたいな振り仮名がけっこうあるんですよ」
『本気と書いて「マジ」とか』『宇宙と書いて「そら」』『運命と書いて「さだめ」ならいい方』『運命は場合によって「レール」になる』『そうはならんやろ』『なっとるやろがい!』
未来が「あす」ならまだ理解できたんですよ。でも未来が「ゆめ」で奇跡が「あす」だって聞いた時は頭の上に疑問符が3つくらい浮かびましたよ。
人間の発想力ってたまにちょっと本気で理解不能なレベルで突飛というか天才的な時がありますよね。
「あ、今日はアニメ「ZZZZ.BRIGHTMAN」を見ていきますよ。全12話だそうで、まぁ2回に分けてみようかなと思います」
「いっそ全話見てしまえばいいんじゃ?」
「すまない。全話だと、途中から、おれが抜けることに、なってしまう」
「ファングさん忙しいもんね」
「いや、お前にだけは、言われたくない」
そうなんですよね。ファングさん、
今日もこの同時視聴のために無理やり時間を作ってくれたみたいですし。というか森のみなさんファングさんに頼りすぎでは? たまに警備兵となんの関係もない雑用とかも頼んでますし。いや、まぁそれだけ慕われているということでもあるんですけどね。薄闇の森で一番の力持ちですし。
でもこれだけ忙しそうなファングさん以上に多忙なはずのスコックさんが「忙しいもんね」とか言うとそれは「ツッコミ待ちですか?」となるんですよ。この人こんな可愛くのほほん顔してますけど、あの教会では祈り手のまとめ役と宝物院の管理と聖歌隊のリーダーを務めていて……いやいつか絶対に体を壊しますよ。
「じゃあ同時視聴はじめますね。まだ視聴ページに飛んでいない方は下記URLからジャングルプライムビデオの該当ページに飛んでいただくか、公式サブスクからZZZZ.BRIGHTMAN第一話の準備をお願いします。……それでは、時間になりましたので5秒前からカウントしますね。5、4、3、2、1――」
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