第15話 視聴者参加型狂人発掘企画

「今日は視聴者さん参加型の格闘ゲームをやっていこうと思います」

『出たな狂人発掘大会』『実質レイド戦』『アイヴィーに勝った奴が真の狂人』『被弾ゼロの悪夢が蘇る』『電気ネズミは禁止にしろ』『ペカテュウを見て悲鳴が出る体にされた』

「まぁ今回もペカテュウさんを使いますよ。この子が一番使いやすいので」

『うわっ』『ヒッ』『可愛いはずの電気ネズミが挑戦者を嘲笑する悪魔にしか見えなくなる』『もうだめだぁ、おしまいだぁ』『安全確認ヨシ!』『何を見てヨシって言ったんですか』


 おや、なぜか始まる前から阿鼻叫喚といった様子。おかしいですね……ペカテュウさんはリスナーさんたちの世界を代表するマスコットであったはずですが。

 そも、わたしがペカテュウさんを使うようになったのは、みなさんにご自分たちの世界のマスコットが華麗に輝く勇姿を見ていただくためだったのですが、どうしてこうなってしまったんでしょうか。可愛いですよ、ペカテュウさん。強いですよ、ペカテュウさん。どこにご不満が……?


「まずは1戦目。おや、こちらの方はいつも配信で待機時間から観てくださっている方ですね。ありがとうございます。対戦よろしくお願いします」

『ヒェッ』『リスナー全員の名前を暗記するダークエルフこわ』『信じられるか、この記憶力はアイヴィー限定じゃないんだぜ』『ダークエルフってこわい種族なの……?』

「心外な上にダークエルフ全体への風評被害が甚だしいですねぇ。このチャンネル8年やって未だに登録者1000ちょっとですよ? このくらい暗記くらいできますよ。対戦ありがとうございました」

『人間の記憶力を過大評価しすぎでは?』『ダークエルフ基準こわい』『対戦となんの関係もない話題で淡々と喋りながら撃墜される一人目の挑戦者に悲しき過去』『瞬殺で草』【ぴえん(\500)】『ちょっと女子ー! 挑戦者ちゃん泣いちゃったじゃーん!』


 ペカテュウさん、手軽な遠距離攻撃手段があるのももちろん魅力なんですが、何より機動力と復帰力が素晴らしいんですよね。小柄なので当たり判定が小さいのも嬉しいポイントです。その分、パワーが少し頼りないので撃墜力は低いんですけど……まぁそこは相手の攻撃を全て躱して一方的に攻撃を当て続けていれば必ずいつかは相手が堕ちてくれるので大丈夫でしょう。

 ちなみにわたしは咄嗟の防御があまり上手くないので、急な事態には回避で対応する派なんですよね。みなさんが「当たらない」と言っているのは、特にそういった緊急時の対応によるものが大きいと思います。いえ、もちろん被弾ゼロはよっぽど調子のいい時しかできませんが。今も多少のダメージは受けましたからね。


『2戦目も圧勝だったな』『誰かこいつを止めろ』『蔦の魔女の武勇伝コメントでデバフかけろ』『武勇伝デバフとかいう謎の盤外戦術』

「黒歴史コメントしたら容赦なくブロックしますのでそのつもりでお願いしますね」

『ヒェッ』『草』『黒歴史隠蔽のためには手段を選ばないダークエルフ』『そして三人目の挑戦者も散っていった』『撃墜ペースがエグいんよ』『ペカ様の勇姿がみんなに知られて俺も鼻が高いよ』『国民みんな知ってる定期』『やはりアニメ主人公と25年を共にした黄色い相棒は格が違った』

「アニメ、気にはなってるんですよね。通算1245話らしいので、観るならのんびりとしたペースにはなりますが」

『アニメ全話視聴は覚悟がキマりすぎなんよ』


 え、でも1245話ですよ? 1日2時間ほど視聴する時間をとって休憩込みで3話ほど見ればたったの415日で見終わるんですよ?


「一日3話くらいのペースで視聴したとして、ほんの415日程度で見られるのならちょうどよいのでは?」

『ほんの……?』『一年超えるんよ』『そうだこいつダークエルフだった』『長命種さては長編アニメ耐性バカ高いのでは?』『いつもの四人で長編アニメ鑑賞会してほしい』

「ああ、鑑賞会いいですね。今度リスナーさんたちも含めて同時視聴とかしてみましょうか。シーベットならいつでも誘えますし。ファングさんとスコックさんは日によりますけど」

『シーベットちゃん暇なの?』『相変わらずシーベットちゃんだけ扱いが雑で草』『男子組ってなんのお仕事なん?』『警備員とファングさんは警備員的なのじゃなかった?』


 そういえばみなさんのお仕事の話はしたことがありませんでしたね。

 とはいえ、話の流れでファングさんが森の警備兵をしていることは話したことがあったような無かったような。改めて、そのあたりのお話をしてみましょうか。


「シーベットは彼女自身が個人経営する図書館の司書をしているんです。この森で唯一の図書館なので、需要はあるはずなんですが……暇な時期は二週間以上誰もこないという時もザラだそうですよ。普段もせいぜい一日に7~8人ほど訪れるだけで、暇すぎて司書室の奥にかなり広いお菓子作り専用部屋を増設してお客さんの呼び鈴が鳴るまで引っ込んでいるくらいには暇みたいです」

『ド暇じゃん』『それで生計はちゃんと成り立ってるの?』『お菓子作り用の部屋を増設できるくらいには儲けてるみたいだが』『副業で稼いでるんでしょ(震え声)』

「副業というか、ハルピュイアには独自のネットワークがあるので、人間や冒険者を相手にその筋の情報屋みたいなことをやってるみたいですよ。あと、森の住人は基本的に自宅でお野菜や果物を育てていたりもしますし、お肉が欲しければ自分で狩りをしたりするので、お金の使い道があまり多くないというのも大きいですね」

『森で自給自足生活とかちょっと憧れるな』『農家は大変だって聞くけど自分で消費する程度の野菜なら難しくないのかな』『やってみな、地獄みてーな沼だぞ』『アッハイ』『畑仕事民の悲痛な叫びを聞いた気がした』

 

 5戦目、6戦目もなんとかクリア。ここまでの対戦だと3人目の方が一番手ごたえがありましたね。


「ファングさんは森の警備兵をしていますね。警備兵というのは自警団のようなもので、元々は森の有志たちが集まって盗賊や密猟者から森の住人を守る少人数のチームだったんですけど、それが何百年と続いた結果、組織化して「お仕事」になった経緯があります。特にファングさんはその立ち上げ時から今に至るまで警備兵団に所属し続ける大ベテランです」

『立ち上げメンバーが未だに最前線で現役やってるの新人はド緊張するのでは?』『新人的には「地元の兄ちゃんが実はすごく偉い人だった」って感じなのかな』『地域密着型ならまぁ』

「スコックさんは森と街の境目にある教会で祈り手をしていらっしゃいますね。祈り手というのはこの世界アマルガムの自然に祈りを捧げ、春には森と大地への感謝祭をしたり、秋には紫群果ヴァイングレイプの収穫祭をしたりしますね。特にスコックさんが所属する霊宝教会の紫酒ヴァインは薫り高く奥深い味わいで人気だそうですよ」

『ワイングレープ?』『ワイン用のぶどうかな』『そういえば機械なしでどうやってワイン造るんだろ』『確か足踏みとかで果実を潰すんじゃなかった?』『エッッッ!?』『スコックちゃんくんの踏んだ果実でお酒を……?』『飲みたい』『落ち着け変態』

 

 どうやらリスナーのみなさんはスコックさんの踏んだ果実で盛り上がっていらっしゃるようですが、収穫祭の紫酒ヴァイン造りで果実を踏むのは信者の子供たちだけですよ。

 そもそも森と大地から授かった果実を踏むのは穢れを持たない幼子の足でなければなりませんし、スコックさんああ見えて900歳越えてますからね。それに、作った紫酒ヴァインは大地と森に捧げるために教会が管理しなければなりませんから、スコックさんはお祭り中ずっとあっちへこっちへ奔走していて、とても一ヶ所に留まれる状況ではありません。わたしも何度かお祭りに参加しましたが、少なくともスコックさんとおしゃべりできるような時間は全然ありませんでしたよ。シーベックと一緒に街の人たちと軽い雑談をして子供たちの紫酒ヴァイン造りを見ながら食事をする程度の、慎ましい収穫祭でした。


「次で10戦目……そろそろゲームに意識を向け直しましょうか」

『もしや手癖だけで戦ってた……?』『ここまで9戦やって通算被弾数が20いってない』『どうして……』『諦めるな、まだ絶望はある』『救いはないんですか……?』

「……おや? この方は前の対戦でもお会いした……」

『きた! 勇者きた!』『これで勝つる!』『おいィ?』『魔王討伐の流れ』『お前調子ぶっこきすぎてた結果だよ?』『謙虚な勇者が湧きまくってて草』

 

 一気にリスナーのみなさんが沸き立ちましたねぇ。いや、わかりますよ。前回の視聴者参加戦でわたしこのガオンドロワ使いの方に負けてますからね。

 しかしわたしも何も学習していないわけではありません。ここしばらくリベンジのためにガオンドロワ対策を講じてきました。今日こそはその執念が結実する日となりま――、



「上には上がいるんですねぇ……」

『やはり謙虚な勇者は格が違った』『見事なプレイだと関心はするがどこもおかしくはない』『ガオンドロワすごいですね』【それほどでもない(\999)】

「やはり人間の底力は侮れませんね」

『人間のハードルを上げるな』『狂人を標準にするのやめろ』『そんなだから狂人発掘企画なんだよこの視聴者参加戦』『一気に扱いが勇者から狂人になってて草』


 手のひらくるっくるじゃないですか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る