第14話 魔女

「はい、じゃあ今日はシーベットが見てみたいと言っていた幻想生物をテイムして生き残る無人島サバイバルゲームをやっていきますね」

『何気に今まで触れてきてないジャンル』『ラインクラフトとかもやってなかったなそういや』『まぁこのゲームにクリア条件ないしこれはいいチョイスでは?』

「……初めてみたのはいいんですが、本当に何もありませんね。これ何すればいいんですか?」

『まずは木を殴れ』『木はサンドバッグ』『木を殴らんことには始まらん』『でも石は殴るな』『石は殴れんから諦めろ』


 石を殴るな、はギリギリ理解できます。手が痛いだけですからね。石は殴れない、もわかります。ゲームシステム的に石にはダメージが行かないんでしょう、たぶん。

 でも木を殴れはどういうことなんです? 木を殴らないと始まらないゲーム? えっ、これ幻想生物を仲間にして無人島を生き残るゲームなんですよね?


「木を殴ったら藁が出てきましたね。……なんで?」

『なんでやろなぁ』『樹皮みたいなもんでしょ』『異世界の木なら藁くらい出るだろ』『異世界ナメすぎでは?』『まぁ幻想生物おる世界やししゃーない』『樹木まで幻想なの草』

「木材もちょっととれましたね。枝を折ったものと思いましょう。あとは石を拾って……ひとまず5、6個くらい拾いました。これをどう……ひとまずメニューを開きましょう」


 メニューを開いてみると、キャラクターの外見や基礎能力、所持品はもちろん、現在の時間や気温などの細かい数値も表示されているのには少し驚きます。

 所持品を表す「インベントリ」の隣に、「製作」のタブが表示されていますね。何が作れるかわかりませんが、ひとまず見て見ましょう。


「あ、ピッケルが作れますね。なるほど、こうやってアイテムを集めて道具を作って、その道具でさらに効率よくアイテムを集めて、ということですね」

『相変わらず呑み込みが早い』『早すぎて指示厨すら湧かない』『指示厨はもう何年も前から見切りつけてる』『指示厨が逃げ出すチャンネル』

「ふんふん、ピッケルは石も殴れるんですね。……火打石? ……いえ、気にしないようにしましょう。木から藁が出るなら普通の石から火打石になる石英や黒曜石が出てもおかしくありません。……あ、斧が作れますね。ピッケルとどう違うんでしょうか。適当に木を殴って比較してみましょう。……ピッケルなら藁、斧なら木材が多く取れますね。なるほど、こうやって使い分けるんですね」


 ピッケルと斧以外に、素手でなければ入手できない果物や繊維もありますね。

 先ほどレベルアップした際に建築用の設計図をとったので、最初は藁と木材と繊維があれば簡単な土台や壁が作れるみたいなので、ひとまず素材を集めてベースポイントを作りましょう。

 

『まずは拠点作りからかな』『さて完成までに何回死ぬかな』『小型で弱いとはいえ割と近くに肉食幻獣もいるしな』『ヨー……よそう、俺の勝手な憶測でみんなを混乱させたくない』

「あれ? なんでしょうあの奥の……あっ、ヨーウィーですかね。まぁ肉食とはいってもヨーウィーくらいなら……ちょっと待ってくださいこのヨーウィー強くないですか!?」

『世にも珍しいアイヴィーのガチビビり』『人間は幻想生物に勝てない、いいね?』『ダークエルフ基準の弊害』『S.H.ARK始まったな』


 このゲーム人の命がシャボン玉よりも軽く儚くありませんか? 

 これに『聖なる楽園の方舟Sacred Heavens ARK』という皮肉しかないような名前を付けた製作スタッフの悪意を垣間見ましたよ。えぇ……人間のみなさんの視点だとヨーウィーってあんなに脅威なんですか? あんなの魔法で火炙りにすれば……いえ、そういえばリスナーさんたちの世界に魔法を使える人間はいないんでしたね。代わりに科学技術の進歩が著しいと、活動初期に聞いた気がします。

 え、じゃあこれドラゴンとか出てきたらどうするんですか? ゲームの紹介画面にドラゴンいましたよね? あれを魔法も使えない平凡な人間が倒したりテイムしたりするってことですか? 控えめに申し上げて「無理ゲー」というやつでは?

 

「ひとまず暗くなってきたので光源になるものを作りましょう。たしか松明が作れたはずです。未だ天井すらないベースポイントですが、ひとまず壁と土台はできました。食料を確保して……またどこかでヨーウィーの声が聞こえましたね。このままだと先ほどの二の舞になるので、夜が明けるまでベースポイントで籠城しましょう。さっきは驚いてやられましたが、ここは初期リスポーン地点、さほど強力な幻獣として設定されてはいないはずです。斧を構えて冷静に対処すればなんとかなる……と、思います」

『まぁ実際どうにかなる』『ゲームシステムのメタ視点から相手の強さを計測するのやめろ』『ヨーウィーの声も二回目となると全然ビビらなくなってて草枯れる』

「これ今度シーベットにやらせませんか? 絶対わたしよりいい反応しますよ」

『自分からチャンネルをジャックさせていくスタンス』『次回からシーベットチャンネルになってそう』『お前それでええんか』


 そうは言いますがねみなさん、これ絶対にわたし向きじゃありませんよ。

 音や演出でびっくりさせよう、という方向性で肉食幻獣が配置されていて、対処できればそれが味方になるというシステムなら、わたしは今後もう驚かないでしょうし、先ほど設計図を全てに目を通しましたが、何か罠のようなものもありましたから、必ず対処法があるはずです。あとはそれを成功させるまでトライアンドエラーを繰り返すだけ。そして強力な幻獣を手に入れれば入れるほどわたしの恐怖心は薄れる……と、長期化すればするほどわたしの反応は薄くなり作業化していく気がします。


「序盤におススメな幻獣とかいます?」

『装備が整ってない内はアルミラージかな』『素手で殴って気絶してる間に果物突っ込むだけ』『2、3体もいれば小型の肉食幻獣くらいなら撃退してくれる』

「ああ、いいですよねアルミラージ。見た目は可愛らしく、自分の何倍も大きい相手にも果敢に立ち向かう性格なので魔女のペットとして大人気です。まぁ魔女でないと懐きもしないどころか割と獰猛で攻撃的なので人間からは怖がられていたりもしますが」

『そうなんだ……』『幻獣が実在する世界って羨ましいような怖いような』『可愛いから飼いたいけど魔女にしか懐かんのか』『なんで魔女にしか懐かないの?』

「魔女は「魔法使い」から「魔女」になる段階で森や風や水の精霊から祝福を受けているからですね。祝福を受けた森に住居を置き、その生涯を全うするまで永住しなければなりませんが」


 とはいっても、旅行やお出掛けをするくらいなら問題ありませんけどね。長期の旅に出る場合でも、いつまでに戻ってくると森の精に誓い、その期限を守れば大丈夫です。まぁ一日でもズレたら森の精による「罰」が待っていますから絶対に守らなければなりませんが。森の精霊に誓いを立てるということは、森そのもの――大自然の一部と誓いを立てるということ。いくら強力な魔女であっても、たった一本の蔦が森に敵うはずがありませんし、大自然の倫理と我々の倫理はかけ離れていて、軽いおしおき感覚で末代まで呪われることもありえます。いえ、わたしの直系の血族だけなら本当におしおきなのでしょう。自然の怒りに触れるということは、それが一個人の失態だとしても当たり前のように身の回りの全員、あるいは種族単位、あるいは地域一帯、あるいは――全知的生命を刈り取ることも、彼らには容易いのですから。

 以前、リスナーのみなさんが「神」を恐れていましたが、わたしたちにとって「神」はさほど恐ろしくはありません。最も恐ろしいのは「精霊」であり、わたしたち魔女は精霊と契約し、大自然のほんの一部の力をお貸しいただいているだけなのです。その「ほんの一部」で、力の行使としては十分なのです。


「精霊の祝福を受けている魔女は、その森においては「力の代行者」と言い換えることもできます。わたしは森に力を借りる代わりに、森が求める働きをしなければなりません。森に脅威が迫るのであれば親や友であっても皆殺しにしなければなりませんし、森に住まう動植物の声を聞き、彼らを助けながらも彼らの営みが森への奉公として相応しい行いであるかを監視する。それが魔女の役割というわけですね」

『森と森の生き物たちの調停役か』『森の使いみたいな?』『え、じゃあ魔女って大自然の代理人ってこと?』『おそらくは』

「ただ、大自然からどれほど愛されているかは、行使する力によって顕著に見てとれます。中には魔法使いの頃はなんでもできたのに、魔女になったせいで花を咲かせることしか許されなくなった方とかもいますからね。わたしは蔦や樹木や花々を中心に、植物に関連した魔法を許可されていますし、魔法使い時代の魔法も全て許されていますよ」

『めちゃくちゃ愛されてて草』『猫かわいがりされてて笑う』『森の精霊さてはアイヴィー大好きだな?』【イツモミテルヨ(\20000)】『ひぇっ』『精霊スパチャこわ』


 精霊スパチャはさすがに誰かしらのジョークでしょうし大丈夫だと思いますけどね。

 ……ジョークですよね? あの、いきなりウルがそわそわしながら画面を凝視し始めたんですけど。

 ウル含め竜種と精霊は互いを敏感に感じ取る力を持つんですけど……ジョークですよね!?

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