第3話 ホラゲ適正0%のダークエルフ 

「はい、今日はホラーゲームをやろうと思います」

『出たなこのチャンネルで一番伸びないやつ』『ノーリアクションで最短ルート行くのはもうただのRTAなんよ』『ホラゲ配信の楽しみを全抜きするかのごとき所業』

「やはりというか、ホラーをやるとみなさんの反応がよろしくありませんねぇ……」

『わかってるならなんでやった』『最初見た時はTASさんかと……』『ちょっとダークエルフー! 恐怖心ちゃん泣いちゃったじゃーん』『ダークエルフすぐ恐怖心ポイ捨てする』


 恐怖心ちゃんというわたしの知らないところで勝手に生まれたわたしの自称友人さんはひとまず置いておき、今回のホラーゲームはわたしもほとんど触れたことがなく、前情報はゼロに等しいのでRTAとはいきません。それに今回のホラーゲームは道中の行動によっていくつかの結末に分岐するマルチエンディング仕様ですので、そうそう一発でグッドエンドなどということはないはずです。加え、グッドエンド到達後にクリアデータを保存して最初からプレイしなおせばトゥルーエンドへの選択肢が増えるらしいので、どちらにせよ二周目が確定しています。


「前情報では『二周前提のホラーゲーム』とのことでしたから、今回は長時間プレイが予想されますが、みなさんお付き合いくださいね」

『ほんまか?』『長時間プレイ(当社比)』『タイムアタックはじまったな』『せめてフリでもいいから怖がって』『ちゃんと悲鳴あげて』

「……あ、今のがたぶんこのゲームのホラー演出ですね。確かに奇襲性もあり、悲鳴の演技もかなりサマになっていて……あっ、"きゃー、こわいですー"……これでいいですか?」

『そういうとこだぞ』『ホラゲ開発者くん泣いてるよ』『全ホラゲーにケンカを売っていくスタンス』『二度と悲鳴あげるな』

 

 ご要望にお応えしただけなのにどうして……。

 

「ああ、出ましたねホラーアドベンチャー恒例の謎解き要素。これは……こう、こう、こうすれば……はい次に行きましょう」

『秒速で解かれる謎解き要素くんに悲しき過去』『こいつがホラゲやっちゃいけない理由の九割』『せめてなんでそうなったか解説しろ』『これで攻略サイト見てないのバグだろ』

「え、見たまんまを解いただけなので特に解説とかいらなくないですか? ……今度は追いかけっこですね。一定時間逃げ切ればいいタイプでしょうか? あるいは特定の場所に行く必要があるんでしょうか? ひとまず逃げ回って……これこうしてれば捕まらなくないですか?」

『無限回避ルートを一瞬で見つけ出す有能ダークエルフ』『無限回避ルートを一瞬で見つけ出す無能配信者』『有能と無能が合わさり最強に見える』


 しばらくこうしていても消える雰囲気がないので、特定の場所に行かなければならないタイプのようですね。ではさっき進行ルート上であからさまに「ここに来い」と言わんばかりの雰囲気を放っていた部屋に入りましょうか。となると、二周目はこの時間をもう少しショートカットできそうです。

 なるほど、部屋の中のクローゼットが不自然に開いていますね。ここに隠れろということでしょう。開発者さんの良心が見てとれます。


「……どこか行きましたね。いやぁびっくりしました。さぁ進めていきましょう」

『びっくりisどこ?』『そのびっくりをちゃんと表現して』『淡々と逃げていたようだが?』『さては表情というものをご存知でない?』

「また来ましたね。……あっ、今度は部屋に入っても追いかけてくるんですね。じゃあ一回外に出て……これって部屋に入ってから幽霊が入ってくるまで2秒くらいラグありますけど、このタイミングで同時に部屋を出ようとしたら捕まるんでしょうか。ちょっと試してみますね? ……捕まりませんね。次からこれでいきます」

『やってることがデバッガーのそれ』『これタイミングゲーじゃないんだわ』『初見で入室バグを見つけるのひどすぎて草』『もはやホラゲへの冒涜では?』


 今度は金庫の暗証番号ですね。さっき下二桁は見かけましたから、上二桁を探せということでしょう。図書館という場所での出題も加味して、本棚をいくつか……明らかにひとつだけ飛び出ている本がありますね。これは……今は関係ないと思いますが覚えておきましょう。さて、ここでないとすれば……あとは机の引き出しでしょうか。ゲームの仕様とはいえ他人の机の引き出しを開けるのは少々抵抗がありますが、こちらも幽霊に命を狙われる身ではありますので四の五の言う暇はありません。この表……なるほど、金庫のあれは点字だったんですね。点字という異世界の文字については以前調べたことがありますので暗記済みです。


「さっき金庫に上二桁のところには赤と緑のシールがありましたので、点字で赤と緑にあたる部分の数字は……2・7ですね。では金庫の場所に行って……先ほど手に入れた下二桁と合わせて2785、と……。はい、新しい部屋の鍵を手に入れました。ですがこれが使える場所はまだ蔦が邪魔で進行不可能だったはずなので、何かしらのイベントが入るはずですが……あっ、イベント入りました。……あー、なるほどぉ。ここでライターが手に入るんですね。うわぁ、幽霊いっぱいで怖いですねぇ。じゃあ次行きます」

『「じゃあ次行きます」が無感情すぎてひどい』『こんなに実感の籠もってない「怖いですねぇ」初めて聞いた』『グロ人形くんは所詮ダークエルフに負けた敗北者じゃけェ……』

「このライターで蔦を燃やせばいいんでしょうね、おそらく。……あっ、セーブポイント。まぁセーブする暇があったら次に行きましょう。最悪どこかでゲームオーバーになっても最初からここまで20分も経ってませんし、むしろ探索開始前の会話の方が何もすることなくて暇だった気がします」

『セーブポイントの意味わかってる?』『やっぱ人力TASさんは言うことが違うな』『ホラゲRTA配信者の鑑』『幽霊が今ごろキレ散らかしてる』


 ……これ、雰囲気的にもうすぐエンディングじゃないですか? さっきの幽霊たちの本体ってこの西洋人形ですよね? あっムービー入りました。……ああ、ここからは初期地点までひたすら逃げ続ければいい感じですね。ここまでけっこう長い道のりでしたが、まぁ最短ルートは暗記してますからなんとかなるでしょう。


「ここからは逃げるだけみたいなので消化試合ですね。お疲れ様でした幽霊さん。グッドゲーム。……エンディング入りましたね」

『消化試合(煽り)』『お疲れ様でした(煽り)』『グッドゲーム(煽り)』『煽りスキルが高すぎる……』


 さて、ここから二周目です。ここまでの流れは把握しました。問題はどこで分岐になるのか、それを見逃さないように進めていきましょう。


「では二周目を始めます。先ほどのプレイでショートカットできそうな場所や時短できそうなポイントは把握しましたので、ストレスなくさくさく進めていきますね」

『ストレスなくさくさく進むホラゲー……?』『ホラゲーの楽しみ方が根本的におかしい』『ちゃんとストレスを楽しめ』『ちゃんと恐怖を楽しめ』

「楽しめるほどの恐怖が出てくれればいいんですけどねぇ……。ひとまずリアクションする時間がもったいないので、早めにエンディング向かいますね」

『さては恋愛シミュレーションで会話スキップするタイプだな?』『ちゃんとリアクションして』『おいやめろバカ』『このゲームは早くも終了ですね』

 

 プレイ開始から中盤までは先ほどまでと特に代わり映えもなく、さっくり進むことができました。むしろ、一度見ているルートなので、謎解きに必要なアイテムを先回りできそうな場所は済ませておいて、幽霊から逃げるにしてもリスナーさんの言うところの「無限回避」と「入室バグ」を駆使して早々に終わらせることができました。

 どうやら入室バグを使って回避すると、その部屋を出たらもう幽霊は次の追いかけっこポイントまで追いかけてこないみたいなんですよね。助かります。


「あ、分岐ですね。この西洋人形を燃やすか、持ち帰るか。さっきは燃やしてたんで試しに持ち帰ってみましょう。……あっ死にましたね。なるほど、燃やしはするんですね」

『そこが一番のビビりポイントやろがい!』『「あっ死にましたね」じゃねぇんだわ』『冷静に分析するな』『ゲームの自キャラに対する思い入れが耳クソほどもないダークエルフ』

「いや、びっくりはしましたよ。あー、死ぬんだぁ、って感じで。これたぶんあれですね、複数の選択肢が連続してて、なおかつ燃やすのは確定なんですよね」

『本当にびっくりしてるならその切り替えの早さはゲーマーの鑑』『プレイヤーとしては理想的なんだよね』『3DアクションRPGとかの方がまだ適正高い』


 ああいう反射神経の必要なゲームは得意じゃないんですよねぇ……。あれはむしろエルフ族の方が向いてるんじゃないでしょうか。彼らは魔法に振り切っているダークエルフと違い、弓やサバイバル技術に秀でている種族ですから、そういう反射神経や動体視力を必要とするゲームには向いていると思います。わたしはどちらかといえばじっくり考えながら行動するシミュレーションゲームの方が性に合っているのですが……リスナーさんからの受けが悪いんですよねぇ。うーん、一度くらいアクションゲームも手を付けてみましょうか……。

 

「では二周目をまた最初からやっていきますね」

『なんでこのダークエルフ毎回セーブ縛りしてるの?』

 

 死なずにゴールすればセーブいらないので……。

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