第14話 女神様、最後の日
今朝、セラフィーラさんは起きなかった。
珍しい。
いつも出社前にハグをしているから、物足りなく感じてしまう。
「行ってきますー」
起こしてしまわぬようにそーっとドアを開ける。
「いってらっしゃいませ……」
消え入るような声が聞こえてきた。
「あ、起こしちゃいました?」
「起きられず申し訳ございません」
「いえいえ。ゆっくり寝ててください」
「すみません。今日は疲れてしまっているようです」
「大丈夫ですか?」
「お気になさらず……」
「いやいや心配ですよ」
「私はこの通り、ピンピンしていますので」
セラフィーラさんはそう言って布団から立ち上がったが、明らかに気怠そうに見える。
「はやとさんはお仕事を」
背中を押されて部屋の外に追い出される。
「分かりました。お昼は無理してこなくて大丈夫ですから。あと、なるべく早く帰ってきます」
「承知しました」
それだけ言葉を交わして家を出た。
普段通り職場に向かった
が、今朝感じた違和感を拭いきれなかった。
胸に溜まった不安が大きくなる。
俺は道中の公衆電話で会社へ欠勤の連絡を入れ、急いで帰宅した。
「セラフィーラさんっ!」
ドアを開けると、セラフィーラさんが部屋で倒れていた。
慌ててセラフィーラさんを抱える。
体が熱い。息も上がっている。
「きゅ、救急車」
「いえ......人間用の病院に行っても意味はないかと。体の構造が全く異なるので」
気が動転した俺を落ち着かせるように、セラフィーラさんが弱々しく口を開く。
そうか。このまま連れて行って医者にびっくりされて研究対象になられても困る。
「天界に連絡する手段は?」
「ありません……。このままで大丈夫です」
「ダメですよ!」
セラフィーラさんをゆっくりと布団に寝かせる。
「と、とりあえず薬局行ってきます!」
俺は慌てて部屋を出て、冷えピタ、ポカリ、気休めかもしれないけれど、いくつか薬を買った。
しかし、午後になっても熱が下がらなかった。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしている。
セラフィーラさんの病状はどんどん悪化していく。
どうして急にこんなことに。
急に?
本当にそうか?
俺が見落としてたんじゃないのか? あるいは、これまで我慢をしていた、とか。
「私、下界を……この目で……見れてよかったです……。けっきょく……愛が……何かは分かりませんでしたが……」
「そんな最後みたいに言わないでください」
セラフィーラさんの手をとる。
「私……寂しいです……」
セラフィーラさんからこぼれ落ちた言葉が心に響いた。
俺は手を強く握った。
「セラフィーラさん、少しだけ待っていてください」
「はい……」
「絶対に助けます」
部屋を飛び出した。
天使を見つける。それしか方法はない。
天使は下界に紛れて情報収集をしているといっていた。現にリリムもほとんど容姿は人間と変わらなかった。だが、転生時にセラフィーラさんから授けられたスキル【賢者の目】なら特定することができるはずだ。
目に負担がかかるから使用を控えろ、とセラフィーラさんから止められていたが、背に腹は変えられない。
俺は目に意識を集中させた。
表示する情報は職業に絞る。
街中を走りながら、道ゆく人を全員解析した。
頭上にテキストが表示される。
職業:商人
商人と表記される人が多い。異世界準拠のスキルのため大雑把に分類されているのだろう。
無職も村人と表記されている。
運び屋、村人、技師、商人、放浪者......。
違う違う違う。
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佐々木公園にも行ったが、運悪くエリスは留守だった。
はやく、はやく。
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視界が歪む。頭が裂けそうなほど痛む。
止まるな。走れ。
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職業:天随使
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やっと、見つけた。
息を切らしながら、天使の肩を掴む。
「水谷颯人!?」
そいつは命を狙われたこともある天使、リリムだった。顔見知りなら話が早くて助かる。
「事情は移動しながら話すから。全速力で俺のアパートに向かって欲しい」
「急にそんなことを言われても。それよりもお前、目から血が……」
熱い涙が滴っていると思っていたが、どうやら血だったようだ。
俺は酸欠の頭で端的に伝える。
「セラフィーラさんが危ない」
「分かったわ」
リリムはその場で翼を広げた。
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