第11話 女神様、居酒屋デビュー
セラフィーラさんの体温が伝わってくる。
俺は今日も、セラフィーラさんと行ってきますのハグをしている。
至福のひとときであることは間違いないのだが、
「「はい! 3、2、1!」」
掛け声で体を離す。
「はやとさん、今日もいい流れでハグできましたね! この調子で練度を上げていきましょう!」
なんか違うんだよなぁ。
◇
「で、最近どうよ? 愛しのセラフィーラさんとは順調なのか?」
「うーん、順調といえば順調ですけど……」
俺は現場で施工をしながら、バイトの先輩である橘先輩と雑談をしている。
ぱっと見は茶髪でチャラそうに見えるが、話してみると案外常識人である。
今みたいな恋バナのウザ絡みを除けば、だが。
「はっきりしないなぁ。良いだろ、教えてくれても。この前だって俺が告白の仕方をレクチャーしたじゃんか」
「その節はありがとうございました」
「でもまさか、愛が分からないから教えてくれって展開になるとはな」
「俺も想定外でした」
「そんなピュアな人が実在するなんてな。まるで女神だな」
「あはは……」
ちょくちょく核心をついてくるの怖いんだよな。
「まぁあれだ、愛を教えることになって進展こそしたが、次のアクションが分からない、違うか?」
「その通りです」
「なら、いつもと違うことをしてみるんだよ。季節イベントに参加するとかさ」
「どうしてですか?」
「ハヤトはセラフィーラさんとずっと一緒にいるだろ? 同棲してるし、今日も昼飯一緒に食うんだろ? 変化が必要なんじゃねーの?」
「たしかに……」
「そこで季節イベントだ! 夏なら花火大会、冬ならイルミネーション! 定番の季節イベントが沢山あるわけよ」
「なるほど! 引越し周りが忙しすぎて失念してました」
セラフィーラさんもきっと喜んでくれるはずだ。
「おうよ、自称・恋愛マスターの俺にいつでも相談してくれ」
それ自分言うんだ……。まぁ本当に参考になってるからいいか。
やっぱり経験豊富な人は違うんだな。
「ところで、橘先輩って彼女いるんですか?」
「ん? いねーよ」
え?
「最後にいたのはいつ頃ですか?」
「うーん、何年前だったっけなぁ……」
「その知識ってどっから仕入れたんですか?」
「少女漫画だな」
「はぁ……」
急にうさんくさくなったんだけど。
ふと、現場の外でセラフィーラさんが手提げを持っているのが見えた。
「噂をすれば、だな。そろそろ昼飯か。あぁそうだ。今度の飲み会、ハヤトはくんの? もしくるなら正式にバイト入りした歓迎会も兼ねようと思ってたんだけど」
「あーまだ決めてませんでした。家にセラフィーラさんがいるので、遠慮しておこうかなぁ」
「呼んじゃえよ」
「え?」
「別に良いだろ、どうせいつも昼飯食いにきてんじゃん。柿本社長も顔見知りなんだし、誰も気にしねーよ」
「分かりました。セラフィーラさんに聞いてみます」
「おーう」
そう言って、橘先輩と入れ替わる形でセラフィーラさんが入ってきた。
「お仕事お疲れ様です!」
「ありがとうございます」
いつものようにレジャーシートを敷いて、二人で座る。
「私、おむすびを作ってまいりました!」
「すごい! 手作りなんて初めてじゃないですか!」
「頑張りました!」
「じゃあ早速、いただきますー!」
おにぎりを頬張った。
おぉ、圧縮された米と謎の甘みが口いっぱいに広がって
「おえぇぇ......」
「大丈夫ですか!?」
慌てて水筒の水を飲み干す。
「なんか、すっごい、あまいれすこれ」
「ふふ、試しにお砂糖を入れてみました」
「どうして……」
「お塩と同じ形だったので、行けるかなと思いまして」
とりあえずやってみようの精神、恐ろしすぎる。
「砂糖と塩は別物なので、絶対に変えないでくださいね」
「申し訳ございません。承知しました」
「他は全てお塩なので、ご安心ください」
別のおにぎりを恐る恐る、口に運ぶ。
「よかった……普通の味だ」
米の圧縮率にさえ目を瞑れば美味しい。
具は昆布と梅干しだった。セラフィーラさんは間違いなく成長している。
「いつか、セラフィーラさんの他の料理も食べてみたいです」
「…………」
「あれ?」
照れながらそれとなく希望を伝えてみたが、セラフィーラさんはおにぎりを持ったまま、目を瞑ってうとうとしていた。
昨日もゲームセンターに遊びに行ったりしたから、疲れが溜まっていたんだろうか。
「あっ! すみません! 私、寝ていました! 何かおっしゃいましたか?」
「いえ、別に。あぁそうだ、今度、カキモト建設のみんなが俺の歓迎会をやってくれるらしいんですけど、来ま」
「行きます! ご一緒させてください!」
顔が近い……。
◇
「それでは、水谷くんの戸籍取得とアルバイト入りを祝して、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
居酒屋で飲み会が開かれている。
当たり前のように俺の横にセラフィーラさんが座っている。ノリノリである。
「甘くて美味しいですね。オレンジジュース」
セラフィーラさんは神生初のオレンジジュースを堪能。
「セラフィーラさんはお酒は飲まないの?」
向かいの席から橘先輩が疑問を呈する。
「実は私、お酒を飲んだことがないのです」
「え? 成人してないの?」
「星人ですか?」
いや、ガ○ツじゃないんだから。
「セラフィーラさんは一応、成人してますよ。18歳以上を成人って言うんです」
「なるほど! 私は、ひゃくきゅうじゅ」
「20歳以上なら日本ではお酒を飲んでいいんですよ〜!!」
大声でセラフィーラさんの戯言をかき消す。
「飲んでみたいです!」
「おっ、じゃあ、とりあえず生いっとく?」
「火を通すのですか? ミディアムでお願いします!」
「まっじっかっ。セラフィーラさん、ギャグセン高すぎ」
開幕早々、ツボに入って大爆笑する橘先輩。
結局生ビールを頼んだ。
この調子でやっていけるだろうか……。やらかす未来しか見えないのだが。
次回、セラフィーラさん、初めての飲酒。
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