第9話 天使の処遇

 セラフィーラ様に連れられてやってきた公園の広場には、一人の鎧を纏った人間がいた。

 セラフィーラ様より背が高く出立からして、異世界人だろうか。整った顔をしている。セラフィーラ様の方が1000倍美人だけれど。

 人間に興味はないので、これ以上のコメントは控える。


「いつも助かる。何も礼ができなくてすまないな」

「いえ、私がしたくてしていることです。それに先日はお引越し祝いもいただきましたし」

「セラフィーラ殿、その子は?」

「リリムといいます。私の後輩です。魔法陣構築の見学をさせようかと」

「リリム、よ」

「ははっ、緊張しなくていいぞ。とって食ったりはしないからな」


 『私を子供扱いして失礼な人間ね。体はこんなんでも、お前よりは長生きしてるのよ!』と、つい言いたくなるのを我慢する。


「ふん!」

「すまない。名乗るのが遅れたな。私は、エリス=シャルロット・ジルベール、ルテリア騎士団の団長だ」


 女は頭を下げる。やればできるようだ。


「ということはリリムもサキュバスか」

「はぁ?」

「リリム、リリム」


 セラフィーラ様に手招きされて、小声で説明を受ける。

 セラフィーラ様が0距離! 近い! セラフィーラ様のお声は半分も頭に入ってこなった。


 つまり、セラフィーラ様は追放されていながらも、転移してしまったエ、エリ......人間のために正体を隠して天界の仕事を遂行してる、ということらしい。

 (※もう名前を忘れた)

 

「では、早速始めましょう」

「あぁ、頼む」


 セラフィーラ様は木の棒と塗料を用いて、描きかけの魔法陣を書き足していく。

 続いて、魔法陣に手をかざし、奏でるように魔力を送り、魔法陣を調律。


 少し待つと、魔法陣から淡いエメラルドグリーンの光が放たれ、すっと消えた。

 完璧な仕事に見惚れてしまった。


「成功です。ではまた、数日漬けた後に調律の続きを行います」

「いつもありがとうな」

「どういたしましてです。お身体は大丈夫ですか?」

「あぁ、今のところは大丈夫だ。このままレベル3で呪いの進行が止まってくれるといいのだがな」

「どうか、ご無理なさらずに。よろしければ私の家に泊まっていきますか? 野宿ですと大変なのでは?」

「いや、大丈夫だ。お前たちの邪魔をするつもりはない。私に遠慮せずに、お前たちの時間を大切にしてくれ」

「......承知しました。では、また何かあれば、いつでも申してください」

「あぁ」


 私よりもセラフィーラ様とたくさん話している。ずるい。


「では、リリム。私はそろそろ、はやとさんのお迎えに上がります」

「あっ、はい。そうですね。セラフィーラ様とご一緒できて嬉しかったです」

「はい。では、また会いましょう」

「…………あの」

「はい、なんでしょう?」


 私はセラフィーラ様はもっと厳格な方だと思っていた。でも腰を据えて話してみると想像よりもずっと暖かくて優しい方だった。 

 セラフィーラ様はどこにいてもセラフィーラ様だ。きっと、この輝きが失われることはないだろう。

 理解はできないが応援したい。


「嘆願書の件ですが、私でよければお力になりたいです」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「ふぇっ!?」


 セラフィーラ様から両手を握られた。

 あぁ、セラフィーラ様。お美しい。もう無理、しんどい。


「では、嘆願書をお願いしますね!」

「がんばりましゅ」


 日が落ちた頃、


「愛、見つかりませんでした」

「はぁ!? 愛が落ちてるわけないじゃないですか!!」

「自分で確かめないと納得できません!」

「全く……」


 というセラフィーラ様と人間の楽しそうな会話に聞き耳を立てながら、天界へ帰っていった。



 ◇



 天界の庭園には、7柱の女神たちが私を待ち構えていた。

 石造りの地面に草花が咲いており、青空が庭園全体を照らしている。


「ここは通しません。2077番、なぜ私たちに無断で接触したのですか?」

「立派な掟破りです」


 今日のことがバレてしまったらしい。

 どのみち、報告日だから変わりはしない。


「私たちに説明しなさい。納得できない場合は、天界議会へ身柄を引き渡します」

「はい……」

「最終的な判断は私、44番が行います」

「44!?」

「えぇ、初めまして。ヒソカの受験番号と同じ、で覚えてください」


 ひそ?

 まさか序列二桁の女神が姿を出す事態になるとは。


 私は自分の愚行を包み離さず、打ち明けた。


「な、なんということ!?」

「2077番、私の手であなたを処刑します!」

「いけませんわ! 天界で騒ぎを起こしてはいけません!」

「セラフィーラ様が、じ、自害未遂!? あぁっ」


 ショックで、その場に倒れ込んでしまう女神もいた。


「それと、セラフィーラ様からこれを託されました」


 私は、嘆願書を差し出した。


「セラフィーラ様が!?」


 ざわつく女神たち。

 女神たちは嘆願書を食い入るように熟読し、円になってコソコソ話を始めた。


「えぇ。ではそうしましょう」

「44番様がそうおっしゃるのであれば」


 結論が出たようだ。


「会員番号2077番、この団体の目的を述べなさい」


 恐らく忠誠心を問われている。


「はい。の目的は、セラフィーラ様に尽くし、全力で応援することです」

「よろしい」


 どんな罰を与えられるのだろうか。体が震える。


「この嘆願書を持ち帰った功績を讃え、今回、セラフィーラ様に無断で接触したことは不問といたします」

「!?」

「勘違いしないでください。これはセラフィーラ様のためです。今回だけですよ」

「ありがとうございます!!」


 ボロボロと涙が出てきた。死ななくて済んだ。またセラフィーラ様を推せるんだ。


「今すぐ議会へ嘆願書を提出しに行きなさい! 天界議会の反対派を捻り潰し、今度こそセラフィーラ様を優位にするのです!」

「はい!」


 私は、翼を広げ、全速力で天界議会へ飛んだ。



 ◇



「44番様、本当にこれで良かったのですか?」

「えぇ、セラフィーラ様のご希望ですから。ですが、当初の予定を変えるつもりはありません」

「では!?」

「はい。セラフィーラ様救出作戦の計画を進めましょう」

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