第7話 女騎士の引越し祝い
引越しによるドタバタがようやく落ち着いてきたので、俺たちの数少ない友人、女騎士エリスをアパートへ招待した。
魔王の陰謀で異世界転移してしまったエリスは、今も佐々木公園で暮らしている。
帰還の手段が見つかり次第、すぐに帰るつもりのため、家は探していないのだという。
ぜひとも、今日はこの世界の家がどんな感じなのかも知ってもらいたい。
お茶とお菓子を用意してエリスを待っているのだが、何やら外が騒がしい。
ベランダに出て外を見る。
「銃刀法違反です。刃渡り5.5cm以上ありますよね。これ禁止されているんですよ」
「何!? 貴様ら騎士の誇りであるこの聖剣を愚弄するのか!」
「愚弄とかではなくて、法律なんですよ」
あの銀髪と鎧は……。
エリスが職質を受けていた。
「おい、勝手に触るな」
「あれ、でもこの剣抜けませんね」
「当たり前だ、聖剣ジルベールは正当な継承者にしか抜くことができない」
「抜けないということは、剣じゃないのか」
お、セーフ?
「なら、銃刀法違反ではなく凶器携帯の罪ですね」
「む。さっきから何を言っているんだ」
「身分を証明できる物を出してください」
面倒くさいことになってるな。さすがに俺が行かなないとダメか。
「私にお任せください」
と、部屋で座っていたセラフィーラさんが急に服を脱ぎ出した。
「え? ちょ、え?」
慌てて視線を逸らす。
何をする気なんだ?
バタンッ。
「バタンッ!?」
部屋を出てったぞ。どういうことだ?
「お疲れ様です。増援にまいりました」
婦人警官のコスプレをしたセラフィーラさんが、職質に凸った!?
いやいやいや流石に無理でしょ!!
「あっお疲れ様です」
行けた!?
「何か事情がおありのようですね。ここは同じ女性の私が引き継ぎいたします」
「あぁ。ではお願いします」
お願いされた!?
本物の警察官たちは会釈をしてその場から去っていった。
◇
着替えを終えたセラフィーラさんが口を開く。
「先日の買い物が役に立ちましたね」
「まさかですよ。あんなコスプレが通用するなんて」
「強力な誤認魔法も使わせていただきました」
なるほど……。
「全く、何なんだったんだあいつらは。切り伏せてやる」
エリスは怒りがおさまらないようだ。
「一旦落ち着いて? 怒りのピークは6秒っていうし」
「なら6秒以内に仕留めなくてはな」
発想が怖い。
「あれは警察といって、この世界の治安を守っているのです。先ほどのように声をかけて犯罪防止につとめているのです」
「そうだったのか。ならば、ルテリア騎士団団長として私も協力するべきだったな……」
無知だったセラフィーラさんがエリスに教えている。感慨深い。
エリスは自分が間違っていると気づいたら、すぐに非を認められる性格のようだ。
「ところで二人とも、その服に描かれているのは何だ? 魔物か?」
俺たちのペアルックに指を差す。
「くまさんです。魔物だと思います」
テキトー言うな。
「そうか、くまさんというのか。強いのか?」
「肉食だし。まぁ、強いほうだとは」
「戦ってみたい!」
やめとけって。変なキャラ付けすんなよ。
「ここがお前たちの部屋か」
エリスは部屋を見渡す。
「こじんまりとしているが、うむ、温かみがあっていいな。しかも丈夫なつくりだ」
「この国は地震が多いから、耐震性に優れた家を建ててるんだ」
「地震!? まさか地下に封印されし、バハムートが!?」
「ないない」
エリスからはタメ口で話すように言われている。形式ばったのは苦手なのだそうだ。
「この花は?」
視線の先には、花瓶に入った一輪の花。告白の時に渡した花だ。
「はやとさんが私にくださったのです」
「良いセンスだな」
「造花だけどね」
生命を扱っていたセラフィーラさん的に問題があったらまずいと思って、造花にしたのだ。
「あぁ、そうだった。この世界には引越し祝いというものがあるそうだな。これを渡そう」
セラフィーラさんは大きな瓶を受け取る。
「これは?」
「アイテムポーチに入れていた王国の名産品の酒だ。特殊効果つきだぞ」
「良いのですか? 貴重な品をいただいて」
「お前たちは特別だからな。引越しおめでとう」
「ありがとうございます!」
「特殊効果っていうのは?」
「飲んだ物の本心を暴く効果があるのだ。酔いが覚めるまで、本音でしか話せなくなるらしい」
「うわぁ、危なそう......飲むのは今度にしましょうね」
セラフィーラさんは落胆した。俺まだ19だし。
それから俺たちは、お菓子を食べ、お茶を飲みながら談笑を楽しんだ。
話の流れでエリスの昔話になった。
将来を誓い合った幼馴染が魔王になってしまった、というのはどんな気持ちなのだろう。
気になりはするが、触れづらいな。
「エリス様はその方を愛しているのですか?」
「うぅ」
あっ、それ聞くんだ。
厳格な女騎士は赤面しながら、答える。
「そうだ、愛している」
「魔王になった今も?」
「あぁ。なぜそんなことを聞くんだ?」
「実は私、愛を知りたいのです」
「そういえば、お前はサキュバスだったな。人間の恋愛に興味を持ったのか。うむ、不純はダメだしな、良いことだ」
は?
セラフィーラさんに耳打ちされる。耳がくすぐったい。
「女神だと明かすわけにはいかないので、サキュバスということにしているのです」
「なんでまたそんな面倒を」
「翼を見られていますので」
なるほど。でも翼のある種族って他にもあるでしょ。
「では、エリス様は愛する方を殺めようとしているのですよね? なぜですか? 愛しているのですよね?」
「愛ゆえに私は殺す」
セラフィーラさんと目が合う。
え、なんでこっち見てんの?
殺さないで。
「はやとさんは、私を殺したいのですか?」
「はぁ? 殺すわけないじゃないですか」
「セラフィーラ殿、愛の形は人それぞれだ。無理に当てはめようとしなくて良いのだ」
おぉ。めっちゃ良いこと言うじゃん。
「なるほどなるほど」
セラフィーラさんは熱心にメモをとり、「良いことを思いつきました!」とでも言いたげな顔をしていた。たぶん良くないことな気がする。
「そろそろ頃合いだな。水谷殿、最後にあれを頼む」
エリスは転移と同時に魔王によって、呪いがかけられてしまっている。
そのため、鑑定スキル【賢者の目】を持っている俺が定期観察をしているのだ。
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【基礎ステータス】
状態異常
呪いLv3
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「今回も変わらず、呪いはLv2……あれ、Lv3になっている」
Lvに応じて何が起こるのかはわかっていないが、間違いなく状態は悪化している。
「そうか……。Lv5で最大だったな。私はもう長くないのかもしれないな。覚悟を決めてできるだけのことをしよう」
「エリス様……」
「セラフィーラ殿、引き続き転移の魔法陣の研究を頼む」
「はい……。お任せください」
「一刻も早く戻らなくては」
エリスは自分に言い聞かせるように呟き、アパートを後にした。
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