第23話「集結!離れ離れの三兄弟」

再会を果たした初と千、そして蜜。

三兄弟が揃って、感動の瞬間だ。

と、思いきや。

「おまえらなぁに?蜜と私方に何の用?」

蜜は立ち上がり、威嚇するように尖った歯をちらつかせ、鋭い目で初達を睨む。

「み、蜜ちゃん...!ぼくたちだよ、忘れちゃったの...?」

「ぁあ?おい、兄に向かってその目は何なんだよ?」

初は泣き出しそうな顔になり、千は蜜の言葉に触発され苛立っている。

と、そこへ。

「よっ!初めまして〜!わい、初を育てた界や!きみえらいべっぴんさんやなぁ!よろしゅうな〜蜜ちゃん♪」

余裕綽々の界が割って入ってくる。呑気なにっこり笑顔で、蜜に手を差し伸べている。界のこの雰囲気で、場が少しでも和むだろう。

が。

「突然なぁに?そのきったなぁい手で触んないでくれる?」

蜜は苛立った表情で、界の手をぱしっと力強く叩いた。

「な、なんでそないなこと言うん......?」

界は泣きそうな顔になりながら、おずおずと引き下がった。

すると。

「蜜、この子達は僕の教え子だよ。いじめちゃだめ」

私方が、蜜の肩に手を置いて諭す。言い方はいつも通り優しいが、その中に圧があった。

蜜はぞっとしたが、顔を振って界達に向き直った。

「...ふん。私方が言うならいじめない。でもおまえらのことは認めないんだから」

「ム.....随分と攻撃的だな。何なのだ、こやつは?」

篝丸が怪訝そうな顔をして呟く。

緊迫した空気の中、初が前に出る。

「み、蜜ちゃんっ...!あの、そのお〜......やっと会えたねっ、ぼく嬉しいなあ...おにいちゃんも喜んでるよ、だからさ!えっと...これからははぐれないように、三人で一緒にいない?」

弱気な笑顔だが、必死の説得だった。初の心臓がドクンドクンと鳴る。近くにいた千も、真剣な顔で蜜を見ている。

が。

「いやっ、蜜は私方と一緒にいるもん」

蜜は鋭い目つきのまま、傍らの私方に抱きつく。

え?なんて?私方先生と一緒に?

一同がそう思った。あまりにも衝撃的な答えだった。

「おまえら、蜜を私方から引き剥がそうとしてるんでしょ?ぜったいいや、蜜は私方の飼い猫だもん」

「ちょちょちょ待ってや!」

蜜の言葉を、界が大声で遮った。

「そないなわけちゃうで蜜ちゃん!飼い猫ぉ?なんやようわからへんけど、なんか勘違いしてへんか〜?な〜んて...」

界がおちゃらけた様子で取りなす。しかし、蜜は落ち着く事はなかった。

「蜜は私方とず〜っと一緒にいるって決めたんだから」

「せやからなんで!?」

「蜜!」

突然、千が大きな声を出す。

「引き剥がそうってわけじゃねえ、ただ俺らと一緒にいようって言ってんだよ。離れ離れじゃ危ねえかもしれないって話だ」

と、千が必死に説得する。兄としての威厳を持って、真っ向から言葉を投げかける。

が。

「蜜は昔からお兄ちゃんが嫌いなんだけど。いいからさっさとどっか行ってくれない?」

「そんなぁっ.........!!」

蜜の冷たい一言に、千は涙目になりながら崩れ落ちる。千はメンタルがとても弱いのだ。

「そっ...そんな事言って、妹としてどうなんだっ...!?このっ...すっとこどっこい!!」

「ぁあ?何、やんの?」

「ちょっとまってよおにいちゃんっ、蜜ちゃん〜っ...!」

いがみ合う千と蜜を、初が慌てて取りなそうとする。が、二人ともその制止を聞こうともしない。

「はっ。お兄ちゃんってば弱いんだから、無理に歯向かおうとしなくていいんだけど?」

蜜が嘲笑うように言って、千を突き飛ばした。千は軽く吹っ飛び、善ノ介と知与のいる所に倒れ込んだ。

「うっ、うう........」

千が顔を赤くし、目に大粒の涙を浮かべる。

「ま、まあまあ。千くん、無理に三兄弟一緒にならなくても良いんじゃないかな?これ以上喧嘩になったら駄目だし、蜜ちゃんも嫌がってるならなおさらさ。ね?」

と、知与が崩れた千に優しく声をかける。

千は涙を拭きながら、知与の方を振り返る。

「そ、それもそうだな...。やはり俺の光はあんたかもしれない、知与。どうか俺と___」

「ワタシが言った事、忘れてはいないね?」

知与の手を取ろうとした千に、善ノ介が凄まじいオーラで声をかける。低い声と怪しく光る眼鏡に、千はびくりと怯えて引き下がる。

「そ。そのお姉さんの言うとおり。別に三兄弟一緒になったところで、意味なんてないでしょ?」

蜜が知与を指差して、またも冷たく言い放つ。そして私方の方を向いて、界達には見せそうにもない甘えるような笑顔で言った。

「帰ろ?私方」

私方は蜜の方を向いてから、近くの界に近付いて囁いた。

「まさか君の所にも子どもが来たとはね...気づいてるかもしれないけど、この子達は妖怪だよ。ないとは思うけど、君達の間に何も起こらない事を祈ってるよ」

そう言って、私方は蜜に手を引っ張られながら去っていった。

残された一同は、ただそよ風に吹かれていた。

「やっぱり妖怪やったか...永人の読み通りや」

界は小さく呟いた。そして知与達の方を振り返って問いかけた。

「ひとまず、もうしばらくは面倒見なあかんな。知与ちゃん達、また千の面倒見れるか?」

「うん、大丈夫だよ。善ノ介くんと頑張る」

頼もしい知与の返事に、界は明るい表情で頷いた。そして界は、傍らの初に声をかけた。

「またおまえの面倒見ることになったわ、これもなんかの縁や!よろしゅうな!」

「はいっ...!おせわになりますっ!」

それから、真っ直ぐな瞳で海舟達を見た。

「わいらもまだまだ初の面倒見るで!頑張ろな!」

「は〜い!がんばるお〜!」

「うむ、我も力を尽くそう」

界達、知与と善ノ介、そして私方。

三方の"妖怪の子育て"は、長引くのであった。

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