第14話 アラヤの武器
「アラヤ君。この武器なんだけど、使ってみない?」
一か月前、アラヤが入隊した二日後に渡されたのは、やたらと大きいハンドガンだった。
アラヤが入隊したに伴い、隊服が支給され、そのうえで武器も支給される運びになった。だが、アラヤが武器のことなどわかるはずもなく、ミハルとアサヒで頭を悩ませていた時の一幕だ。
「これ、銃、ですよね。ハンドガン?にしては大きすぎません?」
手に取ってアラヤは理解した。その銃がいかに重いかを。
黒い銃身に赤いライン。銃身は人の前腕ほどあり、重量も体感で3㎏ほどは有りそうだった。
「これはね、倉庫の奥の方に眠ってたんだけど、ちょっと特殊な武器でね。
持って分かったと思うけど以上に重い。ハンドガンなのに取り回しが異常に悪いし、長い。
それに加えて致命的なのは、燃費の悪さなんだ」
佐藤はそう言うと、アラヤから銃を取って、弾倉を外した。
通常の弾倉ではないことが見て分かった。グリップ部分に収納されていたものが下方向にスライドし、その姿を現した。箱状であるという点はいたって普通の弾倉とは変わりない。ただ、その弾倉は透明だった。そして、弾丸を上部に押し出す機構も備わっていない。ただの透明な箱であった。
「この中に血液を流し込むんだけど」
佐藤が弾倉を指さしながら言った。
「この弾倉一つで一発分しか打てないんだ」
対血獣決戦兵器『BCW』には、血獣の肉体が使われているのだそうだ。
その血肉を励起させ、血獣本来の能力を武器として扱う。それが『BCW』の本質だと佐藤は説明してくれた。
そして、銃型の武器であれば、様々な形で血液を弾丸として飛ばすことも出来る。
「その銃は重いし、かさばるし、燃費は悪い。
だが、其れは一つのことに特化させたからなんだ。それが、言うまでも無いだろうけど、威力なんだ」
威力特化。
それは銃の外見からだとよくよく納得できた。
「撃ってみるかい」
楽しげに笑う佐藤はまるで魔王の様に見えた。
アラヤと佐藤は移動し、早速試射をしてみることとなった。
「はいこれ、満タンにしておいた弾倉ね」
血液が入っているものを弾倉と言っていいのだろうかと疑問を浮かべながら、アラヤはそれをグリップの中へと押し込んだ。
そして、打ち方は全く分からないが、右手でグリップとトリガーを掴み、反対でグリップの下方を支える形をとった。
「・・・」
心臓の音がうるさい。
深呼吸でさえ、今はしてはいけないように思えた。
ただ、的を狙い、撃つ。それだけであるが、妙に胸が騒いだ。
意を決し、トリガーを引く。
刹那、衝撃波がアラヤの腕から顔を駆け抜けた。
放たれた血液は、音速をはるかに凌駕し、空間を貫いて奔る。
最早人間の眼では視認すらできない。
そして、圧縮された血液は、弾丸の着弾と同時にそのエネルギーを開放する。
的が消失していた。
跡形もなく吹き飛ばされた的は、かけらも残さぬほどに破壊されたのだ。
そして、その衝撃は止まらず、後方の壁を大きく破壊した。
「・・・。や、やばいだろ」
アラヤは若干軽くなった銃を下ろして、そう零していた。自然と零れた言葉がその場に落っこちたかのように場が静けさに包まれた。
皆、威力に愕然としたのだ。
「大砲じゃん・・・」
アサヒがその惨状を見ながらそう言った。
「なんてもの持ってきたんですか・・・」
「いやぁ、相変わらず凄まじい威力だねぇ」
戦慄を覚えたアラヤ達に対して佐藤はものすごく呑気である。
「これが、その銃の威力だよ。アラヤ君が撃ったからその程度で済んでるんだよ?本来なら衝撃で方から腕の先までの関節が外れるから」
なんでそれを教えてくれなかったんだとアラヤは心の中で嘆く。
対して佐藤はとても楽しそうである。
「ま、それは現時点でアラヤ君しか扱えない代物なんだよ。
どうだい?こちらで少し調整を加えるから使ってみないかい?」
アラヤは一瞬迷った。凄まじい威力。反動。悪い燃費。それらを総合すると悪い部分が目立ち、実践向きではないのがわかる。
だが、其れをアラヤに渡した佐藤には何か意図があるのだろう。
それをアラヤは感じ取っていた。
「その調整って何ですか?」
「いい質問だね。
僕が想定してる調整ってのは三つ。威力の調整、消費血液量の調整。最後にアラヤ君の血を弾倉に組み込めるようにする。この三つだ」
なるほど。アラヤは心の中で納得する。
確かに、理にかなっている。扱いやすく、されど攻撃的に、そして汎用性を上げるための調整。
アラヤが扱うことによって武器の性能を十全に引き出せるようになる調整だ。
「せっかくの半血獣の血だ。まだ、その能力を引き出しきれないんだったら、血の出せる量を訓練しながら、武器も扱えるようになった方がいい。
一石二鳥さ。
ここまで聞いて、どうする?アラヤ君。君の意思に任せるよ」
アラヤの心はすでに決まっている。
なにせ、自分の力を安全に使えるであろう手段だ。
まだ発展途上の半血獣の能力を伸ばしつつ、戦力にもなれる。アラヤには断る理由が見つからないほどだった。
「この銃を俺にください」
心底楽しそうに佐藤が笑みを浮かべる。
「うん。いいよ」
それから、銃だけではアラヤの筋力を生かすことが出来ないとの理由で、銃と剣の二刀流になることとなった。
それが今のアラヤが剣と銃を使い分けるに至った経緯だった。
アラヤは覚えている。
完成された銃と剣を握ったとき、妙に高揚し、二つの武器が異様に手になじんだことを。
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