第9話 つながり

 戦いにおいて、パワーが互角、またはそれ以上の相手と戦う場合、どうすれば相手を倒すことが出来るだろうか。


 答えは至ってシンプルだ。


 技術である。




 アラヤはそれを身をもって痛感していた。




 「どうした!?半血獣なんてはったりか!?」




 アラヤが苦しそうなのに対し相手は余裕の笑みを浮かべている。




 「くっ・・・!」




 流麗な動作で放たれる剣技が怒涛の勢いで迫り、アラヤの口から苦しい声を吐き出させる。


 素人同然であるアラヤがギリギリのところで対応できているのは、ひとえに半血獣となり、人よりも優れた動体視力を持っているからだろう。




 だが、対応できていると言ってもただ硬化した腕で剣を防ぐのみである。


 アラヤは上段から振り下ろされる攻撃に対し、クロスした両腕で対応しようとする。しかし、それをあざ笑うかの様に、攻撃はキャンセルされ、筋力強化システムにより強化された蹴りがアラヤの鳩尾を打ち据える。




 「ごはっ・・・」




 肺を下から押し上げる形で圧迫され、強制的に空気が外へと逃げだす。




 思わずうずくまったアラヤは思考を数分前へと遡らせた。




 (どうしてこうなったんだ)








 「改めまして、これからよろしくね、アラヤ君」


 「はい!よろしくお願いします!」




 アラヤと佐藤はカルミアとヒロカズとの面接を終え、佐藤とアラヤは言葉を交わしていた。




 「それじゃあ、早速だけど今ここにいる、ボクの隊、第七討伐部隊のメンバーに挨拶をしに行こうか」


 「了解です」




 にこりと笑顔のまま佐藤はアラヤの少しだけ前を歩き始めた。


 それにアラヤも従い、歩いていく。




 「緊張しなくていいからねぇ。


まあ、さっき局長と会ってきたんだしそれと比べれば霞んじゃうか」


 「あはは」




 ほんとにもうあんな緊張することは無いかもしれない、と心の中で呟きながらアラヤは苦笑する。


 そのなかで疑問が浮かび上がった。




 「そういえば、第七討伐部隊って言ってますけど、対策局にはほかに部隊とかあるんですか?」


 「うん、あるよー。全部で部隊は三つ」


 


 佐藤は指を三本上げて説明を始める。




 「主に後方支援及び、情報伝達、負傷者の治療なんかを担当する、支援部隊。


 主に血獣に関しての調査、および隊員たちの扱う武器防具の作成、新技術の開発を担当している、探求部隊。


 そして、ボク達、血獣の討伐、および民間人の救助、獣災への対応を担当する部隊、討伐部隊。


 まぁ、主にはこの三つだね。


 ほかにも、中央司令部とか、いろいろな部門があるんだけど、それはあんまり気にしないでいいよ」


 「もしかしてですけど、第七っていうように、討伐部隊の中でもいくつかに分かれてるんですか?」




 アラヤが新しく生まれた疑問を口にする。




 「その通り!すべての部隊は主に十部隊にわかれているよ。


 それぞれが一つの都市コロニーに一つの拠点があって、そこに支援、探求、討伐の三つの部隊が集まって、それぞれの番号の部隊を形成してるんだよ」




 佐藤はそうやって簡潔に説明を終える。


 その説明を聞いて、アラヤは自分が思っていたよりも対策局は規模が大きいということに気が付く。




 「すごい・・・」


 「ふっふっふ、すごいでしょ」


 「はい。なんというか、規模が大きいですし、それほどの人がかかわって、城壁の中を守ってくれてるんですね」


 「ああ。人が少なくなってしまったこの世界で、多くの人間がかかわり、一つの目的のために動くというのはとてもすごいことだと思うよ」




 アラヤ達の住む世界は閉ざされてしまった。


 本当の安寧というものが百年以上無くなってしまったこの世界では、人々は寄り添い、だがそのつながりは、命がいとも簡単に消えてしまうがゆえに本質的なもので希薄になりがちなのだ。


 そんな世界で強固なつながりを感じることは、アラヤにとって感動的におもえたのであった。




 「君もその一員になるんだよ」


 「光栄ですね」




 しみじみとつぶやく。




 そしてアラヤには疑問がもう一つ浮かび上がる。




 「あれ?第七部隊も拠点あるんじゃないですか?」


 「うん、あるよ。本部があるこの第七コロニーにね」


 「そうなんですね。でも、拠点があるんなら、ミハルさんはどうして本部に?」


 「ううん。実はね、本部は重要な施設とか多いから、それぞれの部隊から討伐隊員を何人か交代で本部に回す制度が或るんだ。


 今回、ミハルちゃんが君の所へ来たのも、ちょうど本部付近のパトロール中だったから駆けつけたってわけだよ」


 「なるほど、そういうことだったんですね」


 「佐藤隊長もその為本部に?」


 「ボクは違うよー。隊長会議があったからそれに出席するために来てたんだ」


 「なるほど、そういうことだったんですね」




 二人はそんな会話をしながら歩いていると、何時の間にか目的の場所へとたどり着いたのだった。








 「みんなー、新人の子連れてきたよー!」




 ノックもせずに不躾に部屋の中へと入るなり大きく、陽気な声が部屋中に響きわたった。


 もちろん、そんなことすれば部屋中の人間の視線は佐藤のほうへと集中することになった。




 「新人ですか?今は採用の時期でもないですし、どんなつながりで?」


 「言うなれば、拾った?」


 「佐藤さんに拾われるなんてかわいそう」


 「ちょっと!?それどういう意味?!」


 「そのままの意味ですよ」




 いきなり、佐藤に対して毒をリットルでかけるかの如く毒を吐いたのは、眼鏡を掛けたスーツ姿の美人だった。ぴっちりと着られたスーツからは女性らしい凹凸がはっきりと強調され、長い黒髪と眼鏡の美人でとても魅力的な女性だ。




 「で、その新人さんは?」


 「ああ、こちら、『半血獣』の香月アラヤ君です!」




 アラヤは紹介され、部屋の中に足を踏み入れる。


 部屋の中には数人の隊員がいた。寛ぐもの、仕事をしていたもの、何やら武器の手入れをしていたもの、一様にアラヤを見つめている。


 アラヤは感じた。自身に向けられた冷たい警戒感を。部屋の中が凍り付いたように緊張されているのを。




 「半血獣、ですか。また佐藤さんはとんでもない方を拾ってきましたね・・・」




 先程の女性が驚愕の表情でアラヤの方を見る。




 「あはは、半血獣とは言ってもちゃんと人間だからね。それはわかってあげてね」




 ピンと張り詰めた緊張に針を刺すように陽気な声が響わたる。




 「アラヤくんも、自己紹介してくれるかい?」




 振り向いてアラヤの方を見た佐藤はそういった。




 「はい。


 香月アラヤです。半血獣ですがよろしくお願いします!」




 しん、と静かになった部屋。敷き詰められ静かさを全身に受け、アラヤは穴にでも隠れたい気持ちになる。


 (めっちゃ静かじゃん。え、なに、俺なんかやばいことした?というか、俺が半血獣って時点でやばいのか。


 あ〜、なんか言ってくれよぉ


 誰かぁ)




 アラヤが心の中でそう呟いた、その時だった。




 「アラヤさん!」




 緊張を一瞬で壊すような声が聞こえた。


 その声はアラヤも見知っている声の主であった。


 この時、アラヤの中では走って此方へとやってくるミハルが救世主に思えるのだった。




 「ミハルさん・・・!」


 「アラヤさん、隊員になられたんですね!」


 「はい!」


 「お互い、同じ年、同じ七番部隊で頑張りましょう!」




 アラヤの手を握りながらそういうミハルには、心底うれしそうな表情が浮かんでいる。




 「ミ、ミハルちゃん、離れたほうが、いんじゃない?」




 おずおずと声をかけるのは先ほどのスーツの女性で、その眼には明確な恐怖が巣くっている。


 声音が何より恐怖を訴えている。


 それを見て、アラヤの心には雨が降った。




 (覚悟はあった。でも、いきなり出会い頭でこういうのは、ちょっとくるな・・・)




 今更隊員を辞めるなんてことは、一切浮かんではこないが、自身が半血獣であるが故に疎外感を感じるのはかなり厳しいものがあった。




 しかし、それでもその感情に負けてやるものか、となんとか表情には出さないのはアラヤの覚悟の現れである。




 「え?アラヤさんは、いい人ですよ?全然怖くないし、危なくないですけど?」




 それは純度百パーセントの言葉。隠す必要のないとミハルが心の底からくみ上げた言葉であった。


 アラヤの心に光がさす。




 (今日は幸せな日だな・・・)




 心の中で呟く。


 アラヤの心の雨は、たった一人の少女の言葉ですべて晴らされていくのだ。




 「そうそう、彼はほんとにいい子だよ。今は無理でも、ちょっとづつ彼の心を見て、ひとりの人間として見てあげてくれ」




 その言葉に再び沈黙する一同。


 その沈黙がアラヤにとっては何よりも痛かった。




 「さて、挨拶はこれまでにしよっか」




 パン、と手を鳴らし話をそう切り替えた佐藤は、アラヤの心境を呼んだのだろう。




 「じゃあ、アラヤ君は本部内の施設見学にでも行ってもらおうか。ミハルちゃん案内頼めるかい?」


 「はい!」


 「ボクはちょっとこの後用事があっていけないからね」


 「あれ、じゃあもう一人いるんじゃないです?」


 「あ、そうだった」




 アラヤは監視のため、隊員二名以上が付くことが義務付けられている。そのため、ミハルとは別にもう一人、別の人物が同行する必要があった。




 「それ、俺が行ってもいいっすか?」




 その時、一人の男が名乗り出る。


 しかし、その声は部屋の中に存在する人間ではなかった。


 アラヤと佐藤が後ろを振り向くと、笑顔を浮かべたアラヤと同じ年くらいの子が立っていた。




 「お疲れ様です、佐藤隊長!」


 「ああ、お疲れ様、アサヒ君。今帰って来たのかい?」


 「はい、パトロール中だったので。いやぁ、そとさむいっす」




 佐藤とはまた違う陽気な声で目の前の少年はそういう。


 パトロール中であったということは討伐隊員の一人なのだろう、とアラヤは推測する。


 目の前の少年は背丈はアラヤと同じか、少し高いくらいで、長めの髪の毛を後ろで括っている。髪色は少し茶色ががっており、好印象を持たせる明るい顔付をしている。




 「こちら、半血獣のアラヤ君。君と同い年の新人だから仲良くしてあげてね」


 「了解でーす!」




 軽く少し崩した敬礼をするその少年はにこにこと笑顔でアラヤに目をむける。




 「俺、宮浦アサヒ!よろしく!」


 「香月アラヤ、です。よろしく」




 元気いっぱいのアサヒに対し、アラヤはおずおずと自己紹介をする。




 「同い年なんだよな?ちなみに十六歳~」


 「俺も十六歳です・・・」


 「にゃはは!じゃあ、なんで敬語なんだよ!敬語なんてやめようぜ!」




 キラキラと元気の塊のような笑顔を向け、そうやってアラヤに言う。


 つられてアラヤも笑顔になり、そして言葉を返す。




 「じゃあ、敬語はやめる。これからよろしくな、アサヒ!」


 「おう!よろしく!」




 アラヤが握手を求めると、すぐにアサヒがその手を取った。




 「うんうん、いい光景だねぇ」




 なんて、しみじみとおっさんくさいセリフを佐藤が吐いたが誰も反応はしなかった。




 「じゃあ、いこうぜ!案内してやるよ!」


 「おう!」


 「むぅ」




 すこしミハルがむすっとしているが、原因がわからないのでアラヤはどうにもできないのだった。






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