第4話 崩壊

落ちる。


 落ちる。


 落ちる。




 これが死か。




 漠然とアラヤはそう思った。謎の浮遊感に身を包まれながら。




 何が起きているのか理解しきれない。ただ、自身が血獣により死したことのみを覚えており、その後の記憶は一片たりともなく、気が付けば落ちていくような感覚だけを味わっていた。




 なにも見えない。


 なにも聞こえない。




 死とはこのようなものなのか。




 怖い。




 血獣に襲われるのとはまた別の恐怖がアラヤを襲う。




 そして、思考が生まれる。




 あの少女はどうなったのだろうか。うまく血獣を倒せたのだろうか。倒せていないかも。俺がなんとかしなければ。でも、俺は死んだ。死んだんだ。だから今こうしてる。何も出来ない。


 歯がゆい。


 力があれば。


 何かできるだけの力が。




 浮遊感を味わうと共にアラヤの思考にふと現れたのは、自身への無力感だった。


 思えばなにもしてはこなかったとアラヤは自身を振り返る。


 アラヤの家族が襲われたあの日も、その後の日々も。何もかも。アラヤにとっては何もできないと思える日々だった。


 アラヤが何も出来なかったと言える原因に、何かするために自分から行動することが出来なかった、という反省が根本を成していた。


 自身の所為ではないために、だれにも発散することできないあの日の公開をアラヤはひたすらに一人で抱えて生きてきたのである。




 それでもなお、アラヤはかかえたものを下ろそうともせずに、一人で理想を掲げ、さらにはそれを蛮勇ともいえる所業で理想を叶えるために面倒ごとにも飛び込むのである。


 その例に、大森先生の片づけを断る気配もなく面倒ではあるものの引き受けたのだった。




 アラヤは大きな矛盾を孕んだ人間であるのだ。




 それでも、最後には死を恐れず、少女を救って見せた。


それは称賛されるべきことであると同時に、自身の死を恐れずに、トラウマさえいとも簡単に克服して見せる一種の狂った人間の思想とも言えた。


さらに言えば、それを助長させているのは、ほかでもないアラヤの母の言葉であったのは、なんという皮肉だろうか。




 善であるがゆえに気付かぬ歪みだったのだ。






 話を戻すとしよう。


 アラヤの後悔は最後の人助けでは解消さることはなかった。もっと、もっと、というふううに欲深くさらに大勢を救えるようなことを心のどこかで望んでいたのだ。


 それはあの日の贖罪であり、後悔を取り除く果てのない旅路であるのだ。




 ああ、叶うなら、もっと他人を救えることがしたい。




 そう願うアラヤに、悪魔は嗤う。




 できるはずがないと。




 アラヤは言う。




 やって見せる。




 神は笑う。




 ならば見せて見ろと。




 そして、いつの間にか浮遊感は消え去って、アラヤは何もない空間で、椅子に座っていた。




 「どこだここ」




 「お前のなかだよ」




 「は?」




 辺りは一面真っ白な世界。何もない。


はずだった。


 アラヤの目の前には、もう一つ椅子があって、そこには一人の人物が座っている。




 その顔にはアラヤは覚えがあった。




 なにせ、それは自分であったからだ。何も変わったところもない、自分と同じ姿の人物に若干の恐怖を覚えた。


 自身の声らしきものはアラヤのイメージとは少しの相違があった。それは自分の声を客観的に聞いた際の相違によるものだろう。




 「お前は死んだ」




 「・・・知ってる」




 「それでも抗おうとするのか?」




 「ああ」




 「そうか」




 「何が言いたい?」




 「なんでもない」




 「これからお前がどうなるのか、見ていてやる」




 「さっきから何を言ってるんだ?」




 「わからなくてもいいことだ」




 「・・・」




 「せいぜい踊れよ?舞台の上でその狂った思想を発揮して見せろ」




 「言われなくてもやってやる」




 「はっ・・・」




 突如、世界が崩壊する。




 どこまでも続いていそうな空間が、距離を無視して空間ごと剥がれ落ちていくような光景が広がる。




 アラヤに相対する『アラヤ』は張り裂けんほどにその口に笑みを浮かべていた。




 その顔はアラヤのものではなく、ナニモノかが嗤っていた。




 そして、再びアラヤの意識が深淵へと落ちていく。






 ***






 はっと、急激に浮上した意識に戸惑う。


 眠りから覚める感覚とはまた違った、今まで感じたことの無い感覚。他者から強制的に目を覚まさせられた感覚は決していいものではなかった。




 アラヤは違和感を感じる。


 自身が生きているということそのものに。


 自分の身体を見回してみると、そこには傷などもとからなかったかのような肌が、敗れた服の下に見えた。




 「なんだ、これ」




 確かに自分は死んだはずである。そういうことは頭で理解できていた。しかし、死を理解するなどという矛盾がアラヤに生まれていることは、アラヤはにとってどうでもよかった。いや、そこまで理解するに至らなかったというほうがいいだろうか。




 混乱する脳裏にははっきりと、真っ白な空間の出来事を記憶しており、あの空間での出来事は、実際に現実であったのだと理解できた。




 『グルゥァァァ!!!』




 矛盾に浸された思考は聞き覚えのある遠吠えによって引き裂かれ、今度は其方へと意識が向けられる。


 満身創痍。まさにその言葉がぴったりな惨状でありながらも、ケモノは地に伏すことなく、その四肢で確かに地面を踏みしめていた。




 「まだ生きてたのか・・・!」




 ケモノの眼光の先には、先ほどの少女がへたり込んでいた。




 けがを多少している様子で、体力も尽きたのか、息を荒くしながら力なく座ってい居る。身動きを取れないのは、恐怖か、はたまた疲労によるものなのかは不明である。


 ただ、ケモノの身体を大きく走る傷は少女が付けたものであるというのは、アラヤの眼にははっきりと理解できた。




 傷をつけた敵であるがゆえに襲われようとしているのかもしれない。




 アラヤは再び、思考する間もなく走り出していたのだった。








 少女は、予測不能な事態を前になすすべもなく屈するのみだった。




 アラヤの死に自身のふがいなさと、申し訳なさとを感じ、嗚咽を漏らしたのもつかの間、再び脅威は襲ってきた。


 倒したと思っていた血獣が再び立ち上がったのだ。


 今まで数々の血獣を相手にしてきた少女であったが、今までこのような事態は一件もなかった。ゆえに油断していたのだ。


 積んでいた経験が牙をむいた瞬間である。




 そこから少女は少しでも何かできないかと多少の応戦はした。しかし、やはりというべきか、機能を停止してしまった武器はただの重りにしかならず、ただ致命傷を避けるのみしかできなくなっていた。


 そして、それさえももはやできまい。


 少女の身体に刻まれた大小の致命傷を避けた傷は、多くの血を流し、重りとなった武器や身にまとっている防具類は疲労を蓄積していく。


双方により追い込まれた少女の身体はもうすでに立ち上がることすらできないほどにボロボロになっていた。




―――ここが私の死地ですか




少女は幼きながら、目の前に迫る血獣の牙を見ながらそう悟った。それがなんと哀れなことか。


場数を踏んで、死線を潜り抜けてきた歴戦の勇士であるが故だろう。しかし、何時の時代であれ、アラヤと同年代、高校生ほどの年の人間が生を諦める行為が発生するなど、間違っている。




そして、死を悟った少女を前に、狂人は自身の生を顧みず、再び身を挺す。








すでに血獣の口は少女をかみ砕かんと殺到している。


 今からでは、紙一重の差でアラヤの身体をねじ込むこともかなわずに、少女が食われるだろう。


 ただ、アラヤは自身の中にあふれる何かがあることに気が付いていた。




 (これは・・・)




 脳が理解している程度のことではない。自身のDNAに刻まれているかの如くその正体をアラヤは感じ取っていた。


 アラヤは走る、体全身を躍動させて。その速度は、尋常ではない。普段のアラヤでは到底出せない、否、人類では到底出せない速度で駆けた。




 時間にして一秒にも満たない時間で数メートルの距離を詰めた。




 エネルギーとは速度と重さである。




 「うおらぁぁ!!!」




 気迫のこもった声をくちからはきだしながら硬く握った拳を前方へと突きだす。




 そして、握られた拳はアラヤから滲み出した赤き液体を纏い、黒く変色する。


それは血液が変色し、硬くなる現象に似ており、アラヤの拳も非常に硬くなっている。




「は・・・?」




間抜けな声をだしたのは少女だった。




 その証拠に、アラヤが放った凶暴なパンチは完成の法則にしたがってパワーが上がったことを差し引いても異常な威力になっていた。


 アラヤの拳は達人であるかのように正確に血獣の顎を打ち抜く。


 硬化した拳は血獣の顎の骨をいとも容易に砕いたのだった。




 血獣は何が起きたのかそれを理解することすらできないまま顎を砕かれ、苦しそうに喉を鳴らしながら壁に激突する。


 そして、アラヤはその光景を見ると、自身の身体能力の向上率に驚く。


 そして、自身の身に何がおきたのかを深く考えこもうとした瞬間に、別の思考が侵入する。




 「大丈夫ですか?」




 「・・・え。え。あ、は、はい」




 少女の思考は限界を迎えようとしている。


 無理もない。自分の眼で死亡を確認したはずの少年は自分の目の前にいて、さらにはありえないほどの膂力を用いて、血獣を殴り飛ばしたのだから。




 ただ、思考がはっきりするまでもなく、次の危機は襲ってくる。




 アラヤは本能的に感じ取った殺気にいち早く反応し、少女を抱えて後ろへと大きく飛んだ。




 血儒はまだ生きていた。


 泥臭く、種着的に生存を目的に抗い続ける。


 殺す。


 ケモノの思考にあるのはその一点のみ。ただ純粋にそれ以外の思考はなく、目の前の敵を排除して生存することが唯一の希望。逃亡したとてすぐに死に絶えることが目に見えている。すぐに目の前に立つエサを食べて回復しようと本能で思考しているのである。




 『グルゥ・・・』




 静かに、低くうなるその姿はもはや引くことを辞めた破壊者の姿勢であった。




 「・・・」




 アラヤは静かに構えを取った。




 そして。




 『グルォァァァ』




 血獣が決死の覚悟をもって走り出す。全開であった時ほどの速度は出ていない。しかし、普通の人間であれば反応することが難しい速度だ。


 しかし、アラヤはもはや普通の人間というのは疑わしい状態に陥っていた。その動体視力は一度死ぬ依然とはくらべものにはならない。


 とはいえ、どれだけ超人的な力を手に入れたとしてもそれを使う本人の技量は一般人以下である。


 だから、ただ単純にアラヤは行動した。




 力の使い方は理解している。




 後はそれを使う度胸と、勇気と、過剰なまでの正義感。




 稚拙な構えのまま、全身に力を入れる。




 集中し、倒すべき敵をしっかりと見据える。




 眼前に迫る巨大な悪を前にして、アラヤは恐怖のひとかけらもなかった。それはケモノも同じである。


 互いに生存戦争をしている中、恐怖をした方がさきに折れ、死ぬのは明白だ。


 極度の集中状態に入っている両者を止めるものは誰もいない。


 ただ、ぶつかり、片方が散るのみである。




 アラヤは力の使い方を感覚で理解しながら、最後の一手を放つために集中する。




 ケモノは生存するために何が何でも目の前のエサを捕食するために前足を大きく振るう。




 『ガァァァァァ!!!』




 「・・・フン!!!」




 咆哮を上げるケモノに対し、アラヤは静かに動いた。




 先ほど同様、黒い拳が血獣に肉薄する。


 ただ、先ほどのパンチとは明確に違う点があった。




 禍々しい、まるで悪魔のような腕を赤黒い血液が形成していた。




 その腕からは尋常ならざる力の奔流を感じさせ、後ろで見ていた少女を恐怖させるほどであった。




 得体も知れない力を、人を助けるためだけに躊躇なくつかうさまは、アラヤの善人性が溢れていることを証明するかのようだった。




 ケモノの爪は空を切る。


 一歩、アラヤが全身し、血獣の巨体にもぐりこんだことで爪がアラヤに当ることがなかったのである。


 そして、アラヤは力を開放する。




 無防備な血獣の腹を悪魔の腕が襲い掛かる。


 凝縮された力の塊である悪魔の腕は、血獣の体毛の装甲をいとも簡単に貫通し、内側に大きなダメージを与える。


 しかし、それだけでは終わらない。




 人間ではありえない程の威力で放たれたパンチが炸裂すると、それに遅れて腕に纏った力のカタマリが躍動した。




 凝縮されていたエネルギーの均衡が拳が物体に当たるエネルギーによって崩壊を与儀無くされる。


 崩壊した凝縮エネルギーは指向性を持たず発散されるはずだった。しかし、凝縮されたエネルギーの元はアラヤの血である。


 本能で理解している、力の使い方。その理解についてアラヤの技能が試されるのである。


 アラヤは爆ぜる力に指向性を持たせた。


 血球一つ一つを理解するのでは無く、血液をひとつの大きな括りとして捉え、その全てを支配する。


 脳が焼き切れそうな痛みを感じながら必死に力を制御する。これに失敗すれば辺りに凶暴な血液が撒き散らされ、アラヤもろとも地に伏すことになる。それをアラヤも理解出来ていた。


 そのため、脳が焼き切れそうな、ぐちゃぐちゃになってしまいそうな痛みに耐えているのだ。




 「ぐ、ぁぁぁぁ・・・」




 喉の奥からアラヤの苦痛を代弁するように、自然に苦悶が溢れ出す。




 力の乱流は一様に指向性を持ち始め、血獣の肉体に殺到し始めた。




 そして、力に満ちた血液たちは血獣の硬質な細胞を喰い破り、蹂躙し、ついには体を通り抜け、背後から突き出ることになった。


 そのプロセスが一緒にして行われた。


 エネルギーとは、速度と重さである。


 細胞を蹂躙しつくすだけでは飽き足らず、アラヤの血液はその周辺の細胞を巻き添いながら通過した。




 血獣の体には大穴があき、その真ん中には、真っ赤な石のみが残っていた。




 かくして、戦闘は終わりを告げる。アラヤの勝利という形で。




 そして、アラヤは力を使い果たし、その疲労で意識を手放した。




 その直前にアラヤは、見ていた、この場にはいるはずのないスーツを着たヒトの姿を。




 災禍は加速する。






 ***






 「おーおー、こりゃまた随分派手に暴れたねぇ〜」




 アラヤが意識を闇に放り出し、思考がまとまらないために、自分が所属する組織に連絡した後は、ただ漠然とするしか無かった少女のもとに1人の人間が現れた。


 建物の屋根からその光景を見た人物は、少女に似たロングコートのような物を着ている。男は、身長が高く、それでいて細すぎない。がっしりとした体形ではないものの、纏う雰囲気は、隙の一つもなく、強者の風格を漂わせていた。そこまで若くはなく、と言っても老いてはいない。大人な雰囲気をまとった男だった。年齢で言えば、二十から三十代くらいだ。



 飄々としているその人物は、音もたてずに屋根から飛び降りると、辺りを吟味するように見回した。




 「ミハルちゃん、お疲れさまー。ケガしてるね。本部で治療受けておきなさい」


 「お疲れ様です!佐藤隊長!」


 「あーあー、別に畏まらなくてもいいよ。そんなの気にしないって言ってるじゃん。ケガしてるんだから楽にしてな」




 佐藤といったその人物を見て、即座に少女、柊ミハルは立ち上がろうとした。それを急いで佐藤は諫める。




 「すみません」




 上司にあたる佐藤にはいつも敬う気持ちは忘れない。それは真面目なミハルの性格からいえば正常な態度だった。


 しかし、ミハルの上司、佐藤は敬う気持ちなど欲してはいないし、堅苦しいことは自分には必要ないと判断している。そのことはミハルも理解はしており、それでも畏まった態度はやめない。ミハルの矜持の一つであるためだった。


 だが、そんなミハルは疲労感には抗えなかった。


 ミハルは現在、今までにないほどに疲弊していた。その為、佐藤の言葉に甘え、楽な体勢で休むことにした。


 余りに多くことが起こりすぎた。すでに考えをまとめることを後回しにするほどに、今日起きたことはありえなかった。




 (なんなんですか、あれ)




 自身と同じくらいの少年に二回助けられた。


 一回目で確かに死亡したはずのその人は再び自分の下に現れて、今度は血獣に大穴を開けて倒して見せた。


 さらに言えば、あそこまで生命力の高い血獣も見たことがなかった。


 自分の硬い頭では深くまで思考しても、固定概念にとらわれてしまうことはわかり切っていた。なので考えることを後回しにしたというのもあった。




 「ほー。すごいなこれ」




 その辺のいい具合の瓦礫にミハルが腰かけて休んでいると、現場を見た佐藤がそう呟いた。


 佐藤が見ているのは、血獣の亡骸であった。




 「これ、ミハルちゃんが、んなわけないか」




 佐藤が振り向いてそういった。


 自分の実力をきちんと顧みて、大穴を開けた原因ではない評価を下されたのは少し嫌ではあったが、事実なので仕方がないと受け入れる。




 「ほかの血獣と争った痕跡はないね。


 となると、原因はこの子かな?」




 佐藤が視線を映した先、そこには意識を失い倒れているアラヤの姿があった。すでに腕はにはなにもなくなっており、傷も一つもついていなかった。


 アラヤはミハルによって、意識を失った後に、安全な場所をさがして、寝かされていた。




 「ミハルちゃん」




 佐藤が振り向いて、ミハルを視界に入れた。




 「本部で何が起こってたか、ボクに話してくれる?」」


 「・・・はい」




 その眼は真実を見定める様な目をしていた。




 「どうやら、これからすこしだけヤバいことが起こりそうな気がするよ」


 「それは・・・」


 「うん、ボクのよく当たる勘だね」




 ミハルは戦慄する。


 いままで、一度も佐藤の勘は外れたことはなかった。


 今回も当たるとは限らないが、それでも信用に値する。もっとも、嫌な予感など信じたくはないのだが。




 「まあ、なるようになるさ」




 小さな佐藤のつぶやきは、夜の風に流されて消えていった。






 ***






 「面白いことがおきたね」




 アラヤと少女が血獣と戦っていた場所から数百メートル離れた上空。そこから眼下の光景を見おろす人物が一人。


 スーツを着ており、さらにその顔を電子機器で構成された仮面をつけている。


 空をどういった原理で飛んでいるのかは分からないが、数百メートル上空から眼下を見おろし、状況を確認できているのはつけている仮面が理由であろう。




 「試作品を投入してみたけど、それ以上に興味深いな、彼は」




 仮面の奥で薄く笑っているその男は、嬉しそうにそう呟く。




 「これからが楽しみになってきたぞ~」




 ふふふ、とひとりでに笑う男の姿は邪悪な気配を漂わせており、この場に他人がいたのならば恐怖を感じて身を引くだろう。




 「さて、そろそろ帰ろうか。これからの準備もあるし。


 ね?ハルト君?」




 男が後ろを振り向いた。そこには、学生服を着た一人の学生が立っていた。


 顔はありえないほどに整っており、それは、アラヤがよく見るものだった。




 「ああ。ここからは、もう止まれない」




 そういうと、夜に溶けるように二人は消えていった。




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