第32話 武門


          【武門】



 秀吉軍は、勢いそのままに柴田軍本陣の勝家を攻めたてる!



柴田勝家

「打って出るぞ!槍を持って来い‼」


毛受勝照

「いま出れば秀吉の思う壺です…」


柴田勝家

「…最後に、一泡吹かせてやる!」


討ち死に覚悟の勝家を勝照が諭す…


毛受勝照

「勝家様の死に場所は、ここではありません… いちど北ノ庄城に戻って態勢を立て直して下さい…」


柴田勝家

「この状況で、逃げ切れると思うか…」


毛受勝照

「私が勝家様を装い敵を惹き付けるので、その隙に脱出して下さい‼」


柴田勝家

「ならん! 脱出するなら勝照、お前も一緒だ…… わしには、お前を見殺しに出来ん…」




闘将柴田勝家はイクサで勝照に何度も救われている、武将として家臣の命は自分の持ち物と理解している勝家だが、どうやら勝照だけは特別らしい…


毛受勝照

「勝家様の安全を確保したら、直ぐに後を追います…」


柴田勝家

「わしを逃がすために、死ぬ気か…」


毛受勝照

「…御安心を、私は死んでも勝家様を守ります‼」


 勝家は、これ以上勝照の気持ちを無下には出来なくて、北ノ庄城への退却を承知した。






柴田陣営本陣


 勝照は精鋭部隊500人を集結させた…屈強な兵士の中には勝照の兄もいる。



毛受家嫡男 茂左衛門

「地獄の道連れは、一人でも多いほうが良いだろう…」


毛受勝照

「兄上…待ってくれ、兄上は嫡男です。貴方が居なくなったら誰が母上の面倒を見るのですか!ここは私が兄上の分も働いてみせますから…」


 自分の命は棄てても、母を気遣う勝照…しかし、兄はすでに討ち死にを決めていた。


茂左衛門

「…我らの母が、それを喜ぶと思うか…主君のために命を棄ててこそ武門の誉れと喜んでくれるはずだ‼」


毛受勝照

「そっ、そうかも知れませんが…」


茂左衛門

「兄に恥を掻かせる気か…」


毛受勝照

「そんなつもりでは無い‼」


茂左衛門

「…武門に生まれ育ち、武士としての誇りを持って生きてきた、戦場で死ぬなら本望… だが!! 弟を死地に送り、敵に背を向け生き延びたなら己を恥、一生後悔するだろう…」


毛受勝照

「……兄上」


茂左衛門

「分かってくれ…」


毛受勝照

「…言葉を間違えてました…! 私と一緒に・死・ん・で・下さい‼」


茂左衛門

「無論だぁー!!」



 兄の言葉で、頭を戦闘に切り替えた勝照は、勝家の馬印を手に取り君主柴田勝家の身代りとして兵士達に号令を掛ける!



毛受勝照

「いいか!我らは、今から地獄に向かう‼ 討ち死にするために向かうのではない!!!!!

 全員鬼神と化して秀吉軍を殲滅する、我らはすでに人では無い…鬼になれぇー!!!! 鬼となって秀吉軍を喰らい尽くせぇーーー!!!!!!!」


ウオォー!!!

オォー!!!

殺せぇー!!!!


 狂ったように叫びだす兵士達、大声で魂を震わせ己を鼓舞し…鬼になる‼


毛受勝照

「いざ出陣!!」



 凄まじい殺気を帯びて秀吉軍に突っ込む兵士達、その勢いや形相に秀吉軍は怯みたじろぐ、勝照の精鋭部隊は次々に秀吉軍の兵士を血祭りに上げる…


 しかし、その勢いも長くは続かない…数に物を言わす秀吉軍に次第に討ち取られていく精鋭部隊、秀吉軍の兵士はその首を落とし手柄の取り合いを始める、腰に下げた首の数だけ褒美が貰える…


 首を切られ槍を刺され切り刻まれる精鋭部隊の兵士、餓鬼の集団が人間を引きちぎり喰らう様な地獄絵図が繰り広げられる…



 やがて毛受兄弟も武士道を貫き戦いの中で殺された〝武門に生まれ〟戦場で死んだ兄弟の見事な最後は、主君の柴田勝家の脱出を成功させた…



 織田家を二分したイクサは秀吉軍の大勝、柴田勝家は北ノ庄城に逃げ延びたが秀吉と戦う力は失なっていた。






豊臣軍 本陣


 前田利家が秀吉に柴田勝家討伐の先方を任される。


秀吉

「先方で出陣してくれ…他の重臣達の手前、仕方がない…寝返った者が信用を得るためだ、そうすれば皆納得するだろう」


「ふっ…気にするな、きっちり方を付けてやる」


「まぁ…あれだけの武将だ、利家に取られる前に…たぶん切腹すると思うが…」






 柴田勝家の居城、北ノ庄城を包囲する秀吉軍…先方は勝家元与力前田利家だ、家臣から利家が先方で攻めて来たと聞いて憤る勝家を近臣が天守に連れて行く…



 城に乗り込んだ利家隊は、中に居る勝家の家臣達と殺し合う…利家が寝返る迄は仲間だった者どうしの殺し合い戦国と言う狂った時代の象徴だ…



皆殺しだぁーー!


ウオォォーー!!!






 勝家は200人程の家臣達と天守で防戦するも、次第に追い込まれ天守の最上部で生き残った家臣達に守られる…



柴田家 家臣

「降伏して再起を図るべきではないでしょうか…」


勝家

「わしは今まで数々のイクサで、多くの敵を殺した…それだけでは無い、多くの家臣も死なせ、その屍の上に今の地位を築いた… そのわしが、敵に頭を下げては地獄で奴等に会わす顔が無い…」


 降伏すれば秀吉は、強力な手駒として重用するはずだ…命は助かる…

 だがそれを、良しとしない勝家は自ら切腹を決意する…



勝家

「わしはここで最後を迎える、先を見る者は降伏しろ…」


 そう言うと近臣に介錯を頼み声を荒げる。


〝後学にするがいいー!

  これが正式な切腹だぁー!!〟




 勝家は、腹を十字に切り裂き見事な自刃を遂げた…戦国で鬼と言われた猛将柴田勝家は自らの意思で、戦国の悪魔が回す殺しの螺旋を降りたのだ。







 織田信孝は勝家の後ろ楯を失ない秀吉軍に降伏したが、秀吉に与する織田信雄に引き渡された…任された信雄は当然の如く信孝に切腹を命じた…


 最後まで抗った滝川一益もやがて秀吉軍に降伏…秀吉からは、強く豊臣家に仕官するよう勧められたが武士を廃業して仏門に入る…滝川一益もまた、柴田勝家同様自ら殺しの螺旋を下りた。


 このイクサの結果、諸国の大名は秀吉が織田家を継承したとして、次々に祝勝に訪れ秀吉のご機嫌を伺う…


 秀吉は事実上の天下人に成るため殺しの螺旋を突き進む。






     【身の程知らず】



 敵対勢力を駆逐した秀吉は、織田家を継承するために利用した織田信雄を、もはや要済みとばかりに安土城から追い出した…


 この対応を不服とした織田信雄は秀吉と会見して直接抗議をする。




天正十二年正月 三井寺


織田信雄

「何の手違いか、伊勢の長島城に移されてな…尾張に戻るぞ」


秀吉

「何の手違いも無い、信雄殿は伊勢の領主として働いて貰う」


信雄

「ふざけるな‼秀吉!」


秀吉

「口を慎め、解らんのか…もはや立場は逆転してる。 俺は信長様を越えた、この国に敵はいない」


信雄

「貴様ぁーー!」


秀吉

「黙れぇ!!すでに時代は、この秀吉の物… 織田家はこれから、俺の配下で働け…それとも領土を没収されたいか」


信雄

「話にならん‼ 帰らせて貰おう」



 激昂する信雄は秀吉とのイクサを覚悟して、会見の場を離れる。



 柴田勝家を葬って、豊臣家として権力を築いた秀吉に、織田家と言う看板はもう不必要だった…


 高圧的に豊臣と織田の格差を信雄に知らしめた秀吉の態度が新たなイクサを生み出す。









毛受勝照Wikipedia

柴田勝家Wikipedia

豊臣秀吉Wikipedia

秀吉事記参照

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