第31話 誘い水



密談の帰り、人目の無い場所で話し合う金森長近と不破勝光…



金森長近

「不破殿は、迷いがあるようだな…」


不破勝光

「…武士として死ぬか、恥を忍んでも人として生きるか…など、考えてしまい迷っている」


 織田家の覇権争いは、目的の為には手段を選ばない秀吉と武士としての尊厳を重視する勝家…それは大名同士のイクサにして〝武士道対下克上〟のイクサだと不破勝光は考え、己の生きざまをどちらにするか決められずにいた。


金森長近

「…深く考えているようだな、私はどちらにしろ利家殿が言うように戦闘を極力避ける選択を勧めますよ…」


不破勝光

「…いずれにしろ、この事は他言無用だな」




 金森も不破も秀吉に負けた時の事を考慮して、利家の言葉を信じ寝返りを黙認する。








近江国柳ヶ瀬


 近江に柴田軍が布陣した…それに対して秀吉軍も大軍で現れ布陣したが、戦闘にはならず両軍睨み合いながら陣地や砦を構築してイクサに備えた。



 勝家が近江に布陣した事で、偽りの降伏をしていた織田信孝が滝川一益と連携して挙兵…秀吉軍は、それらに対応するため多くの兵を近江から移動させた。




      【 誘い水】


 柴田勝豊からの伝令が柴田陣営に駆け込んで来た。


伝令

「申し上げます!秀吉は大軍を引き連れ信孝様の攻略に向かいました。近江占領は今が好機‼」


勝家の腹心毛受勝照

「よく知らせてくれた。勝豊様にもよろしく伝えてくれ」


 この知らせに色めき立つ柴田軍だが、勝家が苦言を呈する。


柴田勝家

「あの小賢しいサルが、無策で軍を引くとは思えん…罠の可能性もあるな」


毛受勝照

「先ずは、忍に偵察させて見ます」


柴田軍武将 佐久間盛政

通称 鬼玄蕃

「いや、佐久間隊に任せてもらおう」


柴田勝家

「…先ずは偵察だ」


佐久間盛政

「もちろん、確認して罠があれば直ぐ撤退します…」


柴田勝家

「撤退だと… 鬼玄蕃と呼ばれる男が敵を前に撤退などするか?」


佐久間盛政

「……どうやら、見透かされてますな…だがこの鬼玄蕃、必ず砦を落として見せましょう!」


柴田勝家

「…言って聞く玉じゃないか、良いだろう…しかし攻撃は前線の大岩山砦だけ、落としたら直ぐに撤退すると言う条件付だ」


佐久間盛政

「御意‼」





 手薄になった秀吉軍の大岩山砦を宣言通り落とし守将の中川清秀を討ち取った佐久間盛政は、その勢いで勝家との約束を無視して次の砦の攻略に掛かった…



柴田軍兵士

「賤ヶ岳の守将が退却を始めてます」


佐久間盛政

「ハハッ…近江占有も同然だな」



 砦を二つ落とされ形勢不利と判断した賤ヶ岳砦の守将は退却を始めたが、その途中で家臣の反対を押し切り琵琶湖から上陸して参戦を試みた丹羽長秀と奇跡的に合流して戦闘は新たな局面を迎える…




賤ヶ岳砦


守将

「相手は、佐久間盛政です」


丹羽長秀

「鬼玄蕃か、噂通りの勇猛ぶり…いや、無謀か敵は連戦で疲れてるはずだ…一気に押し返す」



 丹羽長秀の参戦により賤ヶ岳周辺の柴田軍を撃破して、秀吉軍は賤ヶ岳砦を確保した。




美濃 秀吉陣営


 美濃に居る秀吉に、大岩山砦が陥落した事が知らされる。


秀吉

「やはり、動いたか」


秀吉軍 家臣

「すでに引き返す準備を始めてます」


 織田信孝攻略で美濃に出陣すれば、手薄になった近江を勝家が攻めて来ると予想していた秀吉は、事前に引き返す道のりにある村には炊き出しや松明などの用意をさせて迅速に戻れるようにしていた…

 秀吉軍本隊の参戦を予想して無い柴田軍に対して優位に戦えると考えた戦略だ。


 そのため秀吉軍は、大岩山砦陥落の知らせを受けたその日のうちに、賤ヶ岳砦まで大軍で戻れた…

 これは異例の速さで、柴田陣営は秀吉が戻って来てるのは知っていたがすでに賤ヶ岳まで戻っているとは考えもしなかった。







大岩山砦 佐久間隊



 夜明け前に突然大軍の襲撃にあい、狼狽える佐久間隊兵士…


兵士

「敵が大軍で攻めて来ました‼」


佐久間盛政

「丹羽か?」


兵士

「秀吉の大軍です」


佐久間盛政

「何だと!秀吉が?美濃から…速すぎる!?」


 盛政は秀吉が予想以上の速さで戻って来たのに驚かされるが、一瞬で鬼玄蕃の顔になり家臣に檄を飛ばす‼


佐久間盛政

「秀吉ごときに狼狽えるなぁー! 迎え撃てぇー!」




 不意を突かれ慌てた佐久間隊だが、鬼玄蕃の一声で直ぐに体制を立て直し秀吉軍を迎え撃つ…


 大軍で攻める秀吉軍を相手に佐久間隊は一歩も引かない勇猛な戦いぶりで両軍の戦闘は激化する。





柴田軍 前田隊


前田利家

「潮時か…」


前田家 近臣

「やはり、秀吉様と…」


前田利家

「ここで、俺が引けば一気に方が付く…秀吉への良い土産だな」




 佐久間隊の後方支援をしていた前田利家の部隊が、激戦の最中に突然撤退した…それに習うように金森長近、不破勝光の軍勢も撤退する…


 前線の佐久間盛政の部隊は、本陣との間に構える前田利家が急に撤退したため、勝家との連携が絶たれ孤立する…


 四方を秀吉軍に囲まれては、いかに勇猛果敢な佐久間隊もなす術なく敗走した。









賤ヶ岳の戦いWikipedia

佐久間盛政Wikipedia

豊臣秀吉Wikipedia参照

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