第30話 対立
利家は二人が来る事を予想していたかの様に部屋に招き入れる…
不破勝光
「秀吉をよく知る前田殿は、あの態度をどう見る…」
前田利家
「秀吉は本気で引き抜くつもりだと思う。石の話も本当でしょう」
金森長近
「そうか、それと…今回の和睦の罠を勘づいている可能性はどう思う」
前田利家
「勘づいてこその、我らの調略だったと思う… だからあの場である程度本当の事を言って騙した方が良いのではと悩んでいた…」
金森長近
「そうだったのか…しょうじき前田殿が、仲が良い秀吉に寝返るのかと慌てましたよ」
不破勝光
「では、金森殿は石三倍に惑わされ無かったと…」
金森長近
「…確かに良い話だ、だがあの柴田勝家に勝てるか?私は勝家様が勝つと思う」
前田利家
「ロクヨンで秀吉が勝つ‼ ましてこの三人が寝返ればハチニイで秀吉だ、どうする?」
不破勝光
「あんな簡単に頭を下げる奴を、ずいぶん買ってるな」
前田利家
「あんな奴だから強い、今の大名達は殆んど生粋の武士、卑怯な事や敵前逃亡などを嫌う…秀吉は土下座して許しを請い敵が背中を向けたら切りつける」
金森長近
「卑怯な行為を厭わないと言うわけか…」
不破勝光
「…なるほど…そんな男に偽の和睦など通用する筈が無いな」
前田利家
「秀吉にとって勝負は強いか弱いかではない、生きてれば勝ち、死んだら負けだ…」
不破、金森
「…………」
前田利家
「純粋にイクサの強さで言えば勝家様が遥かに強い、だが奴との戦いでは勝家様のような真っ直ぐな武士は不利だ… それでも、本質を見抜く信長様には子供の様にあしらわれていたがな」
金森長近
「それで、信長様に執着するのか…」
前田利家
「そうかも知れんが、腹の底が読めん奴だ」
不破勝光
「…油断出来ないと言うことか」
利家の話を聞き、金森と不破はそれぞれに秀吉の調略に対する対応を考えつつ、翌朝早くに柴田勝家の下に向かった。
柴田陣営
不破勝光
「秀吉は和睦を受け入れましたが…約束を守る気はないかと…」
柴田勝家
「ハハハッ…一益もそんな事を言ってたがな、何故そう思う」
不破勝光
「勝家様にバレても良いような、誘いかたで調略を受けました…」
柴田勝家
「なるほど…」
前田利家
「三人ともです…秀吉は、少しでも味方が欲しい… そして、織田家継承を勝家様と争うつもりだと思います」
柴田勝家
「サルが図に乗りおって…やはり、わしが動けない冬場に暴れるきか」
前田利家
「その可能性が高いかと…」
柴田勝家
「そうか…だが何にしても、今はまだ憶測にすぎん、しばらくは秀吉軍の動きを警戒するか」
12月某日柴田陣営
勝家腹心の家臣 毛受勝照
「秀吉が大軍で近江に向かってます」
柴田勝家
「予想通りと言えば予想通りだが、この雪では動けないな…」
「目的は、勝豊様の長浜城…」
「勝豊か…仕方ない、間者として働いてもらうか、戦力を落とさないよう直ぐ降伏するよう伝えろ」
連絡を受けた柴田勝豊は命令通り降伏して、秀吉軍が次に織田信孝が居る岐阜城を攻める事を勝家に伝え間者としての役目を果す。
勝家は、信孝にも偽りの降伏をさせ戦闘は柴田軍の到着を待つよう指示した。
年が明け正月を迎えると滝川一益が柴田勝家与力として秀吉討伐を表明、勝家との約束通り先陣を切って秀吉の領土に侵攻する。
柴田陣営
柴田勝家腹心の家臣 毛受勝照
「滝川殿が伊勢を調略して決起しました、秀吉を迎え撃つ構えです」
柴田勝家
「そうか、雪が深いとは言え動けない訳じゃ無いが…どう思う、サルは直ぐ一益を攻めると思うか?」
毛受勝照
「滝川軍は強い、秀吉もそれは承知のはず、迂闊には手を出さないかと…」
柴田勝家
「…しばらく様子を見るか」
勝家は悩んだ…出撃出来なくは無いが雪を掻き分けての進軍では疲弊してしまい戦闘では部が悪い、かと言って滝川軍だけに秀吉の相手をさせるのは武士の名折れ…大将としては戦局を見極めるべきだが、勝家の武士としてのプライドが揺れ動き、決断を決めかねていた。
そんな折、滝川一益から柴田勝家に伝令が来た。
内容は〝雪解けまで時間を稼ぐ〟と言う事だが、一益のその心意気に柴田勝家の男気が呼応する。
柴田勝家
「出陣の用意をしろ」
毛受勝照
「滝川殿が言う通り、雪解けを待つべきです」
柴田勝家
「サルが大軍で伊勢に向かった、これ以上黙って見ておれん‼」
勝家は、家臣の反対を押切り出陣を決めた、その勝家の判断で前田利家がある決断をする。
二月某日
前田利家 隠れ屋敷
勝家の出陣命令を受けて前田利家が不破勝光と金森長近の秀吉に調略を受けた二人を隠れ屋敷に呼び出した。
前田利家
「人払いは済んでいる、間者などの心配は要らない」
金森長近
「この三人で内密な話と言う事は、前田殿は秀吉に寝返るのか?」
前田利家
「寝返るとは、棘のある言い方だな…」
不破勝光
「まぁ落ち着け、お互い皮肉など無しでいこう無駄な時間を費やすだけだ…」
金森長近
「………」
前田利家
「さすが不破殿話が早い、二人が察してる通り俺は、秀吉に与力する」
金森長近
「やはり…勝家様を見限ると」
不破勝光
「私はまだ、決めかねるが…」
前田利家
「前にも言ったが、この三人が秀吉に与すればハチニイで秀吉…俺だけ与するとしても、秀吉の勝ちは揺るがない」
不破勝光
「前田殿が柴田軍として最後まで戦えば勝てるのでは…」
金森長近
「そうだ、早まった考えは捨てるべきだ」
前田利家
「違う…早まった考えじゃない、深く考えての答えだ…」
金森長近
「ほぅ…その考え…聞かせてもらえないか…」
前田利家
「…勝家様は、この雪の中を出陣すると決めた、戦地に着く頃には兵が疲弊していてイクサは不利な展開に成るにも関わらずだ… だが、二人が言うように俺がこのまま柴田軍で戦えば秀吉に勝てるかも知れないが、二つに割れた織田軍の戦力はがた落ちする…そこを他国は見逃さないだろう、不利な戦いを力で回避しようとする勝家様の戦いではいずれ滅びる…」
不破勝光
「先のイクサを考えての結論か…」
金森長近
「前田殿の考えは分かった。しかし、私は勝家様に与する」
「………」
無言で不破勝光の答えを待つ二人
不破勝光
「私は、まだ先を読みきれん…」
前田利家
「そうか、しかし二人は俺の部隊とほぼ一緒に行動するだろう…俺が秀吉側に回ったら、直ぐ退却して戦闘に関わるな…後の事は悪いようにはしない、心配するな」
利家は勝家に与する二人が自分の裏切りを勝家に報告しない様に、負けた時は拾ってやると言う約束をして密談を終らせた。
賤ヶ岳の戦いWikipedia
柴田勝家Wikipedia
豊臣秀吉Wikipedia
前田利家Wikipedia参照
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます