第29話 対立
上杉と和睦した北条氏直は主力四万の大軍で徳川軍との戦闘に向かう。徳川軍は北条の大軍が来るのを知ると甲斐に撤退を始めた…
八月十二日日 北条氏忠隊
北条軍の進軍に合わせて後退する徳川軍を甘く見た北条家の武将が家康の首を狙う。
北条氏勝
「家康は居所を転々として逃げ回っているらしいな…」
北条氏忠
「やはり我々で討つか」
北条氏勝
「我らが一万の兵で、後ろに廻れば家康の逃げ道は無くなる…動くなら今だ」
北条氏忠
「よし…決まりだな」
北条氏忠は家康が逃げ回れないようにしようと本隊から離れ、徳川軍の背後を目指し進軍を始める…
北条軍の進軍に合わせて後退する徳川軍… その殿を任されている鳥居元忠隊は、家康を狙う北条氏忠隊一万の軍勢が後方に進軍してるのを察知すると、わずか二千の兵で一万の軍勢に立ち向かい北条氏忠隊を三百人以上を討ち取り撃破して徳川軍の強さを見せ付けた。
その結果に北条氏直に与していた武田遺臣や信濃諸将の北条離れが相次いで、戦局は徳川に傾く。
旧武田領の上野を死守したい真田昌幸も戦局を読み、武田遺臣で徳川軍に席を置く依田信蕃を通じて徳川方に寝返り北条軍との対立姿勢を露にした。
九月某日 徳川本陣
家康
「上野方面は曽根昌世と真田昌幸を組ませろ、武田遺臣同士、徳川のために働いて貰おう」
徳川軍 武将
「兵力差は今だ歴然、少しでも武田遺臣達に北条を削って貰いましょう」
北条氏直が求心力を失い出したとは言え、徳川との兵力の差は未だに歴然…北条軍は上野領を大軍で攻撃するが、真田昌幸率いる武田遺臣軍に手を焼き五分の戦いに持ち込まれていた…
家康は、ここが勝機と考え徳川全軍での総力戦を計画する。
後見人 織田信雄
清洲会議で乳飲み子の三法師が家督を継ぎ、その後見人になった織田信雄だが事実上の後継者は自分だと世間に認めさせたいと言う衝動から、荒れる旧武田領争いの仲裁に乗り出した。
十月某日 徳川本陣
織田信雄
「徳川と北条で旧武田領を分け合い和睦してはどうだ、私が仲を取り持とう…」
徳川家康
「このイクサ、徳川の勝利は明らか、信雄様の手を煩わすまでもありません…」
この局面でイクサの仲裁に来た信雄の腹を家康は読み取って、利用しようとする。
家康
「ですが… 事実上の織田家継承者の信雄様がそう言うのなら、徳川が二国、北条が一国の条件で和睦しましょう…北条も織田家が仲裁に入れば断れないはず」
信雄
「そうか、北条も織田家には逆らえ無いか…」
家康
「そうです…いかに北条でも織田家、いや信雄様には逆らえ無いでしょう」
このイクサは徳川軍が勝利するだろうが、三国取るには徳川軍も家臣の犠牲は甚大な物になり戦力ががた落ちする、それを考えれば二国を取り無傷は最善策と言える…
そして、北条氏直もこのイクサは簡単に領土を取れると思っていたのに思わぬ苦戦で弱気になっていたせいか、信雄の仲裁を受け入れ軍を引き上げた…
だか、領土を取り戻したい真田昌幸は、この和睦を認めない。
上田合戦
真田昌幸は上杉から北条、北条から徳川とその場その場で自身の立ち位置を変えて領土の奪還に尽力して来たが、北条と上杉を和睦させた時は両家のどちらから見ても与力として振る舞っていたので上杉からすると真田昌幸は上杉家の与力のままだ…
しかし、家康は北条から徳川に寝返った真田昌幸を自分の与力と考えているため北条との和睦条件を履行する為、真田昌幸に上野国から出て行くように要請する。
真田昌幸の目的は領土の奪還だ、家康の傘下に入ったのもその為なので同然家康の要請は飲めない、真田昌幸は改めて上杉と与して激しく徳川家康に反発する。
徳川軍 武将
「真田は上野の沼田領を渡すどころか、上杉に寝返ったようです」
家康
「なめた真似をしてくれるな…」
「出陣の準備は出来てます」
「よし、思い知らせてやれ!」
家康の命令で真田討伐に徳川七千の軍勢が真田昌幸が居る上野国の上田城に進軍を開始した。
上野国
上田城天守閣
小大名の真田家が大大名の徳川家に喧嘩を売ったのだから、同然多勢に無勢のイクサだが真田昌幸は堂々と僅か千二百の兵力で徳川軍を迎え撃つ。
真田軍 武将
「徳川の軍勢は七千との報告がありました」
真田昌幸
「上杉の援軍はあてに出来ないがここは我らの本拠地、地の利を活かして徳川を迎え撃つぞ!」
少数の真田軍を甘く見ていた徳川軍は本丸の上田城にたどり着く前の二の丸で真田軍の激しい攻撃を受けた…真田軍に歯が立たず徳川の先鋒が退却を始めると真田軍は総力で徳川軍を追撃した。
統率が乱れて退却する徳川軍は真田軍の地の利を活かした総攻撃で千三百の兵士を失い大軍に胡座をかいた徳川軍は敗走する。
家康は北条の手前、上野の隣国に重臣石川数正を残して真田の攻略を指示するも石川が豊臣家に鞍替えしてしまい徳川は完全に上野を撤退する…
この徳川の敗北は、織田信長の桶狭間の戦いレベルの結果を真田昌幸がやってのけた事になる…真田家が数々の小説の題材になるのはこの出来事が由来しているのだろう。
【対立】
秀吉は、信長の生前に四男織田秀勝を養子にしていたが、これは秀吉が送り込んだ側室の子で名目上は信長の四男だが実父は豊臣秀長で秀吉の弟だ…
その四男秀勝を喪主として信長の葬儀を仕切り、秀吉が織田家を継承したかの様に振る舞い、周囲の勢力を自分の配下にするための調略を活発にこなす。
一方、秀吉の勝手な振る舞いに異議を唱え敵対する柴田勝家も土佐の長曽我部や紀伊の雑賀衆を取り込み、秀吉との対決姿勢を露にする。
柴田陣営
滝川一益
「和睦の使者を秀吉に送ったと聞きましたが…」
柴田勝家
「あのサル(秀吉)の友達を使ってな、だが実際は春までの時間稼ぎだ、こっちが動けない冬場にサルが動くと厄介だからな」
勝家の領土は北陸が中心で冬場は雪深いため、敵の侵略には強いが出撃が難しい状態になる。
滝川一益
「…秀吉は卑怯者、それ故罠を嗅ぎ付ける嗅覚も人一倍あります…」
柴田勝家
「そうか…そうなったらなったで雪を掻き分けてでもサルを退治するまでだ」
滝川一益
「ハハハッ…秀吉討伐はサル退治ですか、頼もしいですな。 しかし、和睦を反故にして秀吉が暴れ出したら、地理的に攻めやすい私が先陣を切りますよ」
柴田勝家
「その時は頼むぞ」
春まで時間を稼ぐための和睦だが、その真意がバレようがバレまいが意にも介さない豪胆な勝家…そして秀吉は秀吉で和睦に来た三人を調略して取り込もうとするしたたかさだ。
11月某日 秀吉陣営
秀吉
「では、和睦成立で宜しいかな…」
金森長近
「はい、そうです」
不破勝光
「早速戻って主に報告致します」
秀吉
「いやいや今日は、泊まって行くが良い…なぁ利家、酒の用意をしてある」
前田利家
「……」
和睦したばかりで無下に断れず、酒の席に着く三人…
しかし卑劣な秀吉に毒でも盛られていそうで酒が喉を通らない…
秀吉
「どうした… そうかハッハッハッ」
秀吉は家臣に、でかい酒樽を持って来させ、それをがぶ飲みし毒など無い事を証明し酒樽の酒を勧めた。
秀吉
「これなら呑めるだろう」
前田利家
「相変わらずだな…よし、悪いが今日は昔に戻って呑まして貰うぞ、いいな秀吉」
秀吉
「俺もそのつもりだ、皆も無礼講で頼むぞ」
秀吉は、利家が信長と恋愛関係だった頃からの友人だ…昔話しをしながら楽しそうに呑む二人に、呆気に取られる金森と不破だが、いつの間にか秀吉と利家のペースにハマり若武者のように飲み出していた。
秀吉
「しかし良かった、利家と戦わずにすんだんだからな」
前田利家
「………」
考え込む利家に、偽りの和睦の事を秀吉にバラすのではと、慌てた金森が就寝を願へ出る…
金森長近
「秀吉様そろそろ休ませて頂きます、ほんとうに色々ありがとうございました」
秀吉
「そうか…勿論構わないが、その前に少し時間をくれ、大事な話がある…」
「………!?」
打って変わって真剣な表情になった秀吉に三人の顔も堅くなる…
秀吉
「…本題に入ろう、もしイクサになれば勝つのは俺だ何が起きようが間違いなく勝つ! 今日のこの宴は、実は皆に豊臣家に来てほしいからだ…俺がどういう男かは、利家に聞けば分かる、石(給料のような物)は今の三倍出そう働き次第で褒美は望む物を!」
そう言うと三人に土下座して願う秀吉…
「頼む利家!俺はあの頃を忘れないためにも、信長様が俺達の大将だったあの頃を…俺は信長様に受けた大恩を忘れる分けには行かない!それにはやはり利家、お前が必要だ」
信長暗殺の仕掛人だと言う事は、おくびにも出さずに信長信者の利家を取り込もうとする。
前田利家
「…何を言ってる、俺達は同じ織田家の家臣、今は少し離れているが、俺が必要な時は何時でも言ってくれ」
秀吉の土下座は利家には見馴れた光景、しかし金森と不破には天下の織田家重臣豊臣秀吉の土下座だ、動揺を隠せない…
金森長近
「そうです、こうしてまた結束を固めたのです心配は要りません…」
信長崇拝を演じて利家を、織田家重臣の土下座で金森と不破の心を、秀吉は揺らした…
秀吉
「みな、俺の配下に入ってくれるのだな…」
不破勝光
「……」
金森長近
「そっそれは、話が急過ぎて…
考える時間を下さい」
秀吉
「……そうか」
不破勝光
「……我々はこれで就寝させて頂きます。 秀吉様もゆっくりお休み下さい」
こうして宴は終わり、調略はうやむやのまま各々の寝床に就いたが…真夜中に金森と不破が利家の部屋に訪れる。
織田信雄Wikipedia
徳川家康Wikipedia
豊臣秀吉Wikipedia
真田軍記参照
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