第28話 濡れ手で粟



清洲会議


 清洲城に織田家重臣の柴田勝家、丹羽長秀、豊臣秀吉、池田恒興が集まり織田家の後継者を決める会議を始めた。



秀吉

「当主の信長様が亡くなった今、新しい当主を決めなくてはならない… 私は信忠様の嫡男、三法師様を御名代にするのが良いと思うが…」


池田恒興

「確かに、次期当主の嫡男が跡継ぎに相応しい、私もそれが良いと思う」


丹羽長秀

「しかし、三法師様はまだ赤子…二男の信雄様が黙って無いだろう」


柴田勝家

「三男の信孝様もな… 信孝様は自分が正式な二男だと思ってる」


秀吉

「正式な二男…? みなも分かってると思うが信長様には実の子はいない、そうなると血筋じゃ無く、亡き信長様の意思を尊重すべきだ…信忠様を信長様が選んだと言う事実を… 二男三男を選んでない、ならば選ばれた信忠様の血統で継がすのが信長様の意思だ」


柴田勝家

「詭弁だな‼ 戦国の世を赤子に任せられるか!」


秀吉

「もちろん、三法師様が元服するまで我々で支えなくてはならない…」


丹羽長秀

「実質は重臣の我らが織田家を仕切る事になる…」


池田恒興

「そうなると、重臣の中でも決定権を誰が持つか決めなくては」


柴田勝家

「勝手に話を進めるな‼ 貴殿達は、赤子が当主で良いのか?わしは、認めんぞ」


秀吉

「勝家殿は信長様の意思を尊重しないと…」


柴田勝家

「当然、尊重するが…秀吉、お前の意見は尊重しない」


秀吉

「手厳しいですな、皆はどう思う…赤子とは言え信長様が決めた跡継ぎの嫡男だ」


丹羽長秀

「やはり、信雄様や信孝様の意見も考慮すべきだ」


池田恒興

「信忠様に跡目が決まった時から二人に後継者の権利は無いんじゃないか、もしあるなら四男の秀勝様も後継者候補になるな…」


秀吉

「弔い合戦の功労者である私の案が、無駄な争いの起きない最善だと分からぬか!」




 秀吉は、そう言うと苛立ちを露にして席を立ち清洲城を後にした…残された三人は話し合いを続ける。




池田恒興

「勝家殿は、信孝様を後継者に推すつもりですか…」


柴田勝家

「そうだ、名目上三男だが実際は信孝様が先に産まれた二男、嫡男の後を継ぐのに相応しい」


丹羽長秀

「そんな理由では、信雄様は納得しないで争いになるでしょう…」


 丹羽長秀と池田恒興は、口にはしないが三男の信孝を跡継ぎに推すのは信孝の実の父が勝家だからだと思っている。


池田恒興

「そうなれば、四男の秀勝様が加わり三つ巴の争いになり兼ねない、織田家が割れるおそれが…」


柴田勝家

「大袈裟な事を…跡目争いはどこの家でも当たり前の事、決まってしまえば元通りだ」


池田恒興

「織田家は他とはちがい、余りにもでかい…」


丹羽長秀

「今、織田家で争えば上杉や毛利が息を吹き返す」


池田恒興

「ここは、体制をまとめるのが先です。三法師様は織田の神輿だ担ぐのは我ら…細かい事は後で決めてはどうでしょう」



 残された三人で話し合った結果、確かに三法師以外で後継者を考えると織田家が割れる可能性がある、そうなると抑え込んだ他国が再び暴れ出す恐れもある…それらを鑑みて三法師を神輿とし、名目上の信長次男信雄と三男信孝を後見人にする事に決まり清洲会議は幕を閉じた。






 織田家が後継者問題などの体裁を整えている頃、信長によって支配されていた戦国の勢力図が動き出す…


〝殺しの螺旋は止まらない〟





天正任午の乱


 旧武田領の甲斐、信濃、上野の三国では、大量の一揆が起こり武田に替わり領地を納める織田勢力は河尻秀隆を討ち取られ窮地に陥る…


  旧武田領が混乱しているのを知った北条氏直は、領土拡大を狙い、四万の兵を集結して甲斐、信濃に侵攻を開始した…


 主君信長の横死に撤退する滝川一益を北条氏直が襲撃…滝川一益は領地の防衛より尾張への帰還を優先して敗走、これにより旧武田領の織田勢力は全て撤退した。






    【濡れ手で粟】



 徳川家康は織田勢力の撤退を確認すると、旧武田領への侵攻を秀吉に願い出て、織田家傘下として甲斐、信濃、上野の三国を確保する事の了承を得た。


徳川家康

「織田家との話はついた」


武田遺臣 依田信蕃

「これで我らが領土を取り戻せる…」


家康

「そうだ、武田遺臣達には安堵状を出そう」


家康は安堵状と言う戦国の契約書の様なものを出し依田信蕃に領土の保証する。


依田信蕃

「家康様ありがとうございます!」


家康

「だが、先ずは武田遺臣で武功を上げてくれ…北条氏直の大軍相手だが頼むぞ」


依田信蕃

「任せて下さい…」






 家康は武田遺臣達をまとめ、北条軍との兵力差を補い、戦闘を進めるが同時に北条軍の未知数の戦闘力を武田遺臣達で計ろうとしていた…




 織田家に許可を得て後ろ楯になって貰い、イクサでは武田遺臣を使い北条軍と戦わす…

 勝てば自らの手柄、負ければ秀吉に泣き付く…狡猾な家康は幾つもの状況を考えた戦略で甲斐、信濃、上野の三国を狙う。




六月某日 上野国


 元武田家臣の真田昌幸は武田敗戦後に織田勢力として組み込まれたが、今の主筋である織田家重臣滝川一益を逃がして領主不在となった上野を、領土奪還の好機と見なし、武田遺臣を集め領地の確保を始めた。


 しかし今や、旧武田領の三国は各国が狙う領地、大名とはいえ小勢力の真田昌幸が納めるのは困難をきたす…



 越後の大大名上杉景勝も旧武田領上野国を狙い進軍して来た、領土を守りたい真田昌幸は上杉景勝に臣従して戦闘を回避し上野統治を許された…


真田昌幸

「臣従して上杉景勝をかわしたが、すでに北条氏直の大軍が迫ってる…」


真田家臣 矢沢頼康

「徳川軍の侵攻もあります…どうでしょう先ずは北条と徳川で争わせては…」


昌幸

「出来るのか?」


頼康

「考えがあります…」





 矢沢頼康の作戦を実行すべく真田昌幸は北条軍が上杉軍と対峙すると直ぐに、北条氏直に面会を要請した…



真田昌幸

「上野領は我ら武田遺臣の悲願…上野に領地を頂けるなら、北条氏直様与力として上杉軍から上野を死守して見せます」


北条氏直

「私に与するのだな…」


真田昌幸

「そうです…我らが上野を守れば、徳川軍を蹴散らし易いかと…」


北条氏直

「確かにそうだな…だが無暗に敵を作るつもりは無い」


真田昌幸

「……!」


北条氏直

「上杉とは和睦したい」



 真田昌幸にとっては、予想外だが望んでいた展開になり上杉と北条の間を取り持つ約束をした。


 真田昌幸は上野は上杉領で甲斐 信濃は北条領として和睦したと北条氏直と上杉景勝に嘘の報告をして上杉と北条の対立を終らせ難を逃れる。




 上杉と北条と徳川、大大名がしのぎを削る旧武田領で真田昌幸の危ない綱渡りが続く。








天正任午の乱Wikipedia

真田昌幸Wikipedia

徳川家康Wikipedia

豊臣秀吉Wikipedia参照

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