第33話 顕示



 三井寺の会見が決裂した織田信雄は、天正任午の乱の仲裁で恩を売ったつもりの徳川家康に泣き付き味方にした…

 徳川を取り込んだ事で勢い付いた信雄は秀吉に懐柔されてると言う理由で織田家の家老三人を無慈悲に処刑して、秀吉に宣戦布告する。

 これを知った秀吉は、織田信雄討伐を決断して進軍を開始し…それに合わせて徳川軍も直ぐ様、進軍を開始した。





小牧・長久手の戦い


三月某日


 家康軍は、秀吉軍で池田恒興が率いる森長可隊が全線を突出して孤立してるのに目を付けた、奇襲を仕掛け三百人以上を討ち取り森長可隊を敗走させる…

 しかし、後続の秀吉軍本隊が大軍で現れると、お互い迂闊には手が出せず膠着状態に陥った。




四月某日 秀吉軍本隊


池田恒興

「このまま戦っても、互いに消耗し合うだけで、良い結果を得られないのでは…」


秀吉

「それはそうかも知れんが、信雄の事だ直に隙を見せるだろ」


 池田恒興は家康の本拠地、三河国の襲撃許可を求める…


池田恒興

「…いま手薄の三河を攻めれば家康は慌てて軍を引き返す、信雄と分断出来れば一気に方が付くはず…」


秀吉

「…信雄、相手に焦る事も無いだろう」


池田恒興

「森長可隊の雪辱を果たす為に…三河出撃の許可を頂きたい」




 秀吉は、武士のプライドがイクサではマイナスの結果を招くと考えているが、池田恒興の作戦は理にかなっていると思い出撃を許可した。

 出撃には森長可隊の他に、堀秀政と豊臣秀次の二部隊を池田恒興に預けた。






四月九日


 織田徳川勢力に与した雑賀衆からの報告で、秀吉の軍勢が三河国に進軍したのを知った家康は二つの部隊で秀吉軍を追いかけ、三河方面に進軍する秀吉軍最後尾の豊臣秀次隊を襲撃する。



秀次家臣 木下祐久

「後方からの奇襲です」


豊臣秀次

「織田徳川の軍勢か…」


木下祐久

「秀次様は前に居る堀秀政隊まで退却して援軍の要請を頼みます」


豊臣秀次

「伝令を出せ!応戦する」


木下祐久

「なりません!敵が多すぎます、我々が殿として防いでるうちに退却を…小姓衆早く馬をよこせ!秀次様を堀秀政隊までお連れしろ!!」




 木下一族の命を捨てた攻防で、逃げ延びた豊臣秀次と敗走して生き延びた兵士達は、堀秀政隊と合流して織田徳川勢力を迎え撃ち撃破した。




 先発隊敗戦の報告を受けた後続部隊の家康は迂回して進み、池田恒興・森長可隊と堀秀政隊の間に入り秀吉軍の三河攻略隊を分断して戦闘を仕掛けた。



 池田恒興から援軍要請を受けた堀秀政は、織田徳川勢の中に家康の馬印を見て出撃を躊躇する。



堀秀政隊


堀秀政隊兵士

「間違いなく家康の馬印が見えます」


堀秀政

「家康が出陣してるとなると、敵の援軍が近くに来てるはずだ…」


 大将の家康が居ると言う事は、絶対に負けない自信があるはずだと考えた堀秀政は、池田恒興隊と森長可隊を見捨て本陣に撤退してしまった。




池田恒興と森長可は織田徳川軍と互角に戦い戦闘は熾烈を極めたが、森長可が狙撃され戦況は一気に織田徳川軍に傾き、体勢の立て直しを図る池田恒興も討たれて池田恒興・森長可隊は壊滅した…



 この戦いは、堀秀政隊が参戦して織田徳川軍を挟み込めば秀吉軍が勝利したかも知れない…

 しかし、戦況を見誤った堀秀政と決死の覚悟で挑んだ家康との差がでた結果、秀吉軍は池田恒興と言う名将を失い織田徳川軍に敗北した。






 徳川家康は信長包囲網の模倣戦を仕掛けて秀吉包囲網を作りあげる…


 時期的に、秀吉と柴田勝家の賤ヶ岳の戦い後で、反秀吉勢の取り込みが容易く、各地で秀吉軍は戦闘を余儀なくされ一進一退の攻防を繰り広げる…


 しかし、すでに大勢力の秀吉軍と互角に戦うのは難しく織田徳川勢力は徐々に劣勢に立たされた。






大坂城 秀吉軍 十一月某日



 秀吉は、標的を織田信雄の領土に絞りイクサの終息を図る。


黒田孝高

「やはり信雄を攻めますか…」


秀吉

「…家康は、いずれ配下に置きたい男だ、へんに溝を深めたく無い」


黒田孝高

「では、信雄の領土を集中的に攻撃して泣きを入れさせます」


秀吉

「頼む…」




 秀吉軍は、織田信雄の領土に大軍で押し寄せて砦を次々に落として行く…

 この集中攻撃に恐怖した織田信雄は、領土を割譲する条件で連合国に無断で秀吉と単独の和睦をした。





十一月某日 徳川軍


 家康に、織田信雄が秀吉と和睦した事が知らされる。


徳川家臣

「どうやら、信雄様は領土を割譲する事で和睦したようです」


家康

「勝手な事を…」


徳川家臣

「しかし、三河の状態を考えると…我々も和睦してはいかがですか…」


家康

「そうだな…イクサに巻き込んだ大名達の事もあるが、今は三河の立て直しを優先するか」



 家康の領土三河国は地震や大雨による災害で飢饉に悩まされ、多くの領民が死んでいた…同盟国織田家当主織田信雄と言うイクサの大義名分を無くした家康は自国立て直しを優先して織田信雄に続き、秀吉と和睦する…

 その結果、各地に拡がった秀吉包囲網は瓦解した…


 織田徳川勢力と優位に和睦した秀吉は反旗を翻した勢力の制圧を開始する。




            【顕示】



 反秀吉勢力の根来衆と雑賀衆を殲滅するため、秀吉軍は進撃を開始した。



 豊臣秀次が先陣を切って攻め込むが根来衆の鉄砲隊に苦しめられる…


豊臣秀次

「怯むなぁー!攻めろー!」


秀次隊兵士

「全力で攻めてますが鉄砲隊の数が多すぎてとても進めません」


 豊臣秀次は徳川軍との戦闘で敗北した前回の汚名を晴らすためにも単独で戦果を上げようと必死になっている…


秀次隊兵士

「城はすでに取り囲んでいます、ここは兵糧攻めで落とすべきでは」


豊臣秀次

「…攻めろ」


秀次隊兵士

「しかし…」


 すでに勝敗は決している、無理に攻め込んでも悪戯に兵士を死なせるだけと、兵糧攻めを願い出る家臣に豊臣秀次は無慈悲な言葉を投げつける…


豊臣秀次

「秀吉様の命令は殲滅だ…攻めろ、徹底的に叩けぇ!!」



 千石堀城を落とすのに豊臣秀次は千人以上の兵士を死なせ、城内に居た者は女子供から馬や犬猫まで全てを殺し根来・雑賀衆達に恐怖をあたえた。


 秀吉の指示通りの過激な城攻めに根来・雑賀衆の大半が逃げ出し城は次々に陥落して紀州は秀吉の軍門に下った。








小牧・長久手の戦いWikipedia

豊臣秀吉Wikipedia参照

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