第13話 鎮圧


【鎮圧】



元亀二年


秀吉は信長との約束通り反勢力を次々に制圧して織田家の軍事力を誇示する… 当然この鎮圧は織田軍全体で動いている。各地で武将たちが指揮を取り反勢力を制圧していた…




安土城 天守閣


秀吉

「浅井長政と長島一向一揆衆が手を組んで攻め込んで来ましたが、姉川でまた敗走して行きました…」


信長

「…また姉川で逃げたのハハッ よくやった」


「この調子で、反織田勢力を潰して行きます」


「徹底的に恐怖を植え付けてやれ!私の名前だけで震える位な… なるべく殺さずいたぶれ…」


 自分に逆らう者をとことんいたぶる信長の陰湿さを、秀吉は支配者として必要な事だと考えていた… そして、従う者には褒美を惜しまない信長の方針を秀吉は見習っていた。


「…分かりました」




 次々と反織田勢力を鎮圧する織田軍、六角義賢と近江一向一揆衆の拠点となった志村城では柴田勝家が指揮を取り問答無用で皆殺しにすると“鬼の柴田”と呼ばれる様になり世間にその恐ろしさを示し己の存在をアピールした。



柴田隊 本陣


「志村城の皆殺しに恐れをなして小川城に続き金ヶ森城も戦わずに投降して来ました、勝家様の狙い通り… 」


「金品は皆で分けろ… 志村城はお前に任せる」


褒美に寛大なのは信長の手法を取り入れた懐柔方法だが、信長はたいした考えも無く従順な家臣に与えているだけだった…


「ありがとうございます」




織田軍 軍義


 これまでイケイケで来た織田家が和睦を余儀なくされた信長包囲網の集中攻撃、各国のタイミングや手際の良さに織田家重臣達は不審を抱いていて内通者など裏切者が居るはずだと思い諜報員や忍に探らせていた。


「やはり秀吉殿の読み通り、将軍が絡んでます…」


明智光秀が、調べたところ浅井、朝倉、六角、武田、延暦寺などに御内書を送り信長の勢力を弱体化させようとしていた事が分かった。



「あの傀儡の木偶が‼

義昭を殺して、他の将軍を立てるか?」


柴田勝家の言葉に秀吉が口を開く


「その必要は無いでしょう…幕府はそのうち要らなくなる、それにあの将軍には大した事は出来ません」


「しかし腹の虫がおさまらんな‼」


「柴田殿の怒りを、今は反勢力鎮圧に向けて腹の虫を納めて下さい」


優先事項は反勢力の鎮圧かと、頭を切り替える勝家。


「そうだな…取り敢えずは、反織田勢力の鎮圧を済ませて磐石を計るか…それが済めば義昭などどうにでも出来る」


「その通りです… 念のため将軍に釘を指すよう信長様に言っておきます」





 信長が各国の大名から総攻撃を受けた時に一番ネックになったのが攻守の要となる比叡山だ…比叡山延暦寺は北東の交差点になっていて大軍での攻防では合流や別れて敵を挟み撃ちするなど戦略的重要拠点だったが信長に敵対した為、信長に不利な状況を生み続けた。

もし比叡山延暦寺が信長に付けば和睦をしなくても危機的状況にはならなかっただろう。


 信長は織田家に付くよう延暦寺に働き掛けたが延暦寺は従わなかった、これも今思えば将軍足利義昭の影があったからだ、和睦をする事でプライドを傷つけられた信長は比叡山延暦寺を焼き討ちして皆殺しにしろと命令した。


 この命令に流石の織田家家臣達の中にも神仏を守る神聖な山を焼き討ちするのに反対する者が出たが、信長をはじめ重臣達は異議を唱える者を一喝し比叡山焼き討ちを決定する。






 比叡山延暦寺を織田軍三万の兵が取囲んだ… これに気付いた延暦寺は三万の兵に驚き抵抗を諦め金を積んで攻撃中止を懇願したが織田軍は一切を聞き入れず拒否した…

 もはや戦うか逃げるしか道は残されていない延暦寺だが、織田軍と戦うには強国の大名と一緒でなければ話しにならない… 延暦寺の僧兵だけで戦うのは自殺行為に等しい、僧兵達は必死に逃げ道を模索した。




体制が整った織田軍に、信長が比叡山延暦寺への怒りを剥き出しにする。


「コイツらのせいで、浅井朝倉のような奴らが現れ私がナメられる… クソ坊主どもは絶対に許すな!一匹残らず叩き殺せ‼」


怒る信長に延暦寺壊滅を誓う武将…


「夜が明けてから攻撃してネズミ一匹残さず焼き払って見せましょう」


「…女子供も逃さず殺しなさい」


「御意」


夜明けと共に火を放ち襲撃を開始した、僧兵は勿論、老若男女から子供までを無慈悲に殺し神聖な山を焼き払わせた信長の残虐性を人々は悪魔の化身として怖れる様になる。










【暗躍】



 将軍足利義昭が御内書などを送り信長包囲網を構築したのは、義昭を懐柔した松永久秀の陰謀だった…

 信長討伐を掲げる松永久秀は、石山本願寺の顕如を信長包囲網に参戦させようと本願寺にやって来た。


「武田信玄様から将軍に届いた書状です、信長包囲網に加わるとの事です」


自分の後ろ楯は戦国で絶大な力を持つ武田信玄だと言う証の書状を顕如に見せる久秀…


「…確かに甲斐の武田様の書状」


「将軍足利義昭様は石山本願寺のお力をお借りして信長を討伐したいとの事です。今や織田信長は共通の敵…」


「確かに… 分かりました、私たちも共に戦いましょう将軍様に宜しくお伝え下さい」


幕府の下で三好政権の復活を目論む久秀は信長討伐に加わる様に有力大名に呼び掛けて廻り着実に勢力を伸ばしていた。





阿波国 三好長逸 邸


各地の大名に信長包囲網の根回しをする松永久秀は三好政権時代に主導権争いで敵対した三好長逸の所にも信長包囲網参加を呼び掛けた。




「“三好政権復活”それが私の望みだ」


長逸の言葉に答える久秀…


「それは私も同じ… 我々がまた手を組めば政権も奪還出来るはず…」


 三好長逸は松永久秀の言葉を額面通りには受け取れない… 一度は互いに殺し合った仲だ…

 しかし、三好政権復活と言う願ってもない久秀の話に長逸は真剣な眼差しで聞き入る。


「今の私は将軍足利義昭様の家臣、幕府の命で各国の大名が集い信長包囲網は完成間近だ、織田家を滅ぼせば…三好政権の復活は夢でわない、今が政権奪還の時…」


政権奪還の為に力を合わすべきと言う久秀を信用は出来ない長逸だが、政権復活の可能性に欲を出す。


「我々が組めばそれが出来ると…」


「…三好家当主とは言え義継様と私だけでは正直なところ求心力に欠ける、我ら四人で三好政権… この言葉覚えて無いか…」


「もちろん覚えている… しかし将軍は兄義輝の仇の私を受け入れるのか?」


「将軍は幕府権威の復活が最優先だ、遺恨があるとしても幕府の権威を取り戻すのに三好政権が必要なら文句は無いはず… 信長に将軍にさせて貰ったのに今は信長が邪魔らしいからな…」


「我々が三好政権復活を目指す様に将軍も幕府権威の復活のためなら手段は選ばないと言う事か…」


「…だが所詮はお飾り将軍、実権は三好がもらう… そのためにも三好家が纏まらなければ」


こうして久秀はまた反織田勢力を増やし信長包囲網を強化する。





松永久秀邸


「久秀様また織田の間者と思われる者を捕らえたのですが…」


「思われるとは…口を割らんのか?」


「毒を飲んで自害しました」


「そうか…たぶん明智光秀の手の者だろう、さすがに我等の動きに感付いたか」


「織田に見張られています…大丈夫でしょうか」


「気にするな…もう事態は動き出している織田は終わりだ。

私は義継様の所に行く、織田に寝返る者が出ないよう気をつけろ」




三好義継 邸


三好家当主三好善継に現状の報告をしに来た久秀。


「石山本願寺顕如も信長包囲網に加わりました」


「流石は久秀、もうじき三好政権が復活するな」


「我々の事を、織田が嗅ぎ回ってますがここまで事が進んでしまえば心配は無いでしょう」


「久秀の読み通り各国の大名が将軍に付いた…信長もこれまでか」





信長包囲網は武田信玄、浅井朝倉連合軍、石山本願寺、三好長逸、六角義賢、甲賀衆、伊賀衆、一向一揆衆… など大小30余りの反勢力が集まった。

これに対し織田家の諜報員も活発な動きを見せ松永久秀に警戒される中、寝返る者を確実に増やしていた。






    【捨て駒】



 松永久秀は信長討伐で三好長逸とも手を組む事になるが長逸は、久秀と三好家当主義継にとって許しがたい敵である事に変わりは無かった。


「長逸も使うのか? …将軍がよく許したな」


「私が両者を言いくるめました。 長逸には我らがまた手を組めば三好政権を復活させられると…」


「長逸と手を組む……久秀はあいつを許せるのか?」


「許す気はありません、将軍も兄の仇の長逸を許す気はない… そこで将軍に三好長逸の軍に先陣を切らし織田軍と死ぬまで戦わせる…逃げるようなら殺しましょうと言ったら承知してくれました」


「…捨て駒として使うと言う事か」


「あんな男ですが最後くらい役に立って貰いましょう」




始めから殺す予定の三好長逸を織田軍と殺し合わせる一石二鳥の作戦だ、しかし長逸も同様に信長討伐の後は久秀を殺すつもりでいた。





阿波国 某所


松永久秀の腹の中を疑う岩成友通が長逸に久秀との共闘に反対する。


「…俺は松永を信用出来ん、奴と組むのは反対だ」


「もちろん信用はして無い、だがこれは幕府と寄を戻す良い機会だ、松永を利用して将軍をまた傀儡にする」


「その後、松永を殺すと…」


「そう言う事だが、早いほうが良いだろう奴は危険な存在だ、織田軍との合戦で討ち死にに見せ掛け殺す… もしくは好機があれば合戦の前でも殺す犯人は織田の間者にしとけば問題無いだろう…当主の義継さえ居れば将軍は何とかなるはずだ」



久秀と長逸の二人はお互いに利用して殺すと言う考え方だ、所詮は同じ穴のムジナと言う事だろう。







信長包囲網Wikipedia

松永久秀Wikipedia参照

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