第5話 数の力
【数の力】
尾張を統一した織田軍は、その内戦の勢いで今川家に落とされていた砦なども取り戻していた…
しかし、これには今川も黙って無い、怒った今川義元は二万五千の大軍を率いて尾張に侵攻を開始する。
今川義元軍二万五千人行軍の知らせを受け、凍り付く様な空気の中で軍議は行われていた。
織田軍の武将達が勢揃いでの軍議!この中に場違いの美少年が一人居る。 信長の小姓がだ実質は愛人の様なもの、今で言えば会社の重役会議に社長が愛人と同席すると言うあり得ない状況だが、時は戦国 小姓は、いざとなれば信長の盾になる若武者だ…要するに信長の小姓は殿様(ホモ)の愛人と殿様の盾……実に恐ろしい職業である‼
そして軍議は、今川の大軍にどう対処するか方法が定まらず一向に話が進まない…それに痺れを切らした信長が、叫び出した!
「今川義元の首を、私に差し出すのは誰だぁ~‼ 」
家臣達はうつ向いたまま考え込む。
圧倒的な 兵力の差、誰の目から見ても勝ち目の無いイクサ…降伏か全滅か二つに一つ…重臣達の大半が降伏を 思案していたが、信長は納得しない…する訳がない現に今も “今川義元の首を取れ!”の一点張りである
家臣達は腹をくくった!!!
・武・士・と・し・て・死・ぬ・
「信長様 このイクサ余りにも兵力が違い過ぎます我らに、もはや勝ち目は無いものと…… 」
信長の顔がイビツに歪み怒りに震える!
「勝ち目は無いだと…?
負ければ… 私は殺される……
お前… 私に死ねと言うのか‼
私は死なん…
死んでたまるかぁ~っ
死ぬのは今川義元と!
おまえだぁ~!」
叫ぶと同時に、手に取った刀を抜いて切り付けた。
慌てて家臣達が信長から刀を奪おうとする!
信長様!!
何卒お許し下さい!
お許しを!
やっとの思いで刀を取り上げた家臣達は、必死になって信長を落ち着かせる。
さいわい切り付けられた武将は重症だが、信長の剣術が未熟なため命は取り留めた。
ヒステリックな信長は激昂したかと思えば、今度は怯えた眼差しで家臣達に問う 。
「お前達!このイクサ今川義元には勝てないと…言うのか?」
「 …… 」
黙り込みうつ向く家臣達…
「負けたら私は殺される… くっ… 兵力が違うだと? 織田の兵士が弱いのかぁ…?」
「兵士の数が同じなら勝てます、いや倍の数でも必ずや勝って見せましょう…ですが 今度の敵は二万五千…我が兵多く見て五千、数が違い過ぎます……」
無念の表情を浮かべる家臣。
「数が同じか倍 ならば勝てる……
ならば… ?」
何かを言いかけてから、なにやら考えて下を向く信長…
「後は、任せる」
そう言うと、軍義室を後にした。
軍議は、砦でギリギリまで踏ん張ってから籠城する。なんとしても本丸は守り抜く作戦で話し合われた。
織田信長 私邸
その日の夜中に信長は、小姓や馬廻りなどの側近達数人と密談をする。
感情を剥き出しにする信長だが警戒心が人一倍強くあらゆる場面を想定する判断力があった…
軍議では今川の内通者が居る可能性を考えて、作戦を言いとどまったのだ。
戦国時代でもやはり戦争は情報戦が重要だった…そのためスパイが横行している、いわゆる忍者などその類いだ。
「いいか これから 私が言うことは内密に…隠密行動です。
これから貴方達にやって貰う事は我が軍の兵を増やし、敵兵の数を減らす……今川義元にバレずに!」
みなが、考えを巡らす…単純に言えば敵将などの寝返りだ、味方が増えて敵が減る。しかし、それは並大抵の事ではない。
「いったい、どの様にすれば良いのか…」
「家康を覚えてない? 向こうに居るのよ…奴は家を取られ今川領にされた事を今でも怨んでいる…
他にも家康のように、今川に怨みを持つ者を見つけ出せ!
万が一にも今川には悟られない様にね」
家康は幼少のころ、尾張に捕らわれていた時期があるので、家康が今川に人質として行くなどの因縁がある事を、信長は知っていた。
「今川を怨む者を探すのですね……」
「そうだ…他にも、弱味を握るとか人質を捕るとか何でもいいし…必要ならば金は惜しまない」
大量の金貨を見せ家臣を煽る信長…
負け戦に、寝返る者を探すなど至難の技だが信長には逆らえない、側近達は直ぐに行動を開始した、逆らえないのは権力への恐怖だけでは無い…
みな知っているのだ、信長を喜ばせれば大抵の物は貰えると、褒美が欲しいからだ。
【狡猾】
信長からの密書を読んで考えを巡らせる家康… その結果 信長に良い返事をよこす。
内容は、家康が努める先発隊が織田軍の砦を制圧したと見せ掛け籠城して待機する…
各所にある砦にも次々に今川軍は出撃するはず、そして半数以下になった今川義元本陣を 織田徳川連合軍で総攻撃して義元を討つ!と言う作戦だ。
しかし 実際の所、家康は動くつもりはなかった信長に寝返ったところで勝つ!と言う保証は無いのである、むしろ信長の勝つ可能性が出ただけの事だ。
どっち付かずで高みの見物と洒落こむのみ、結果がどうあれ 後の事は〝連絡が無いために出遅れた〟とでも言い訳すれば良い、これで何もせずとも両軍に良い顔が出来る事になる。
しかし家康は、信長が勝つ可能性が低いと思うのに、何故信長にも良い顔をするのか? それは、きっと今川を未だに怨んでいると言う証だ。
家康は このころから敵を作らずに 甘い汁を吸う事を覚え始める。
これも幼少期の長い人質経験の 影響だろう…戦国時代の人質とは、同盟国や領土にした国が裏切らない為の仕組みだ…
同盟では無く領土にされた家康からすれば占領して来た敵の家で生活をする様なもので、自分の感情に
〝好き嫌いがあっても〟
〝敵でも味方でも〟
家康は、相手に自分を仲間だと思わせる必要があった。
強い者になびき勝てない勝負はしない!! ハイエナの様に狡猾に立ち回る家康は戦国時代をその嗅覚で強い者を嗅ぎ分けて生き延びて行く。
家康寝返りを信じた信長はギリギリの所で活路を見い出した…正確には信じた訳では無いが、家康を信用してもしなくても結果的に信長のやるべき事は同じ、信じた方が士気が上がると言う事だが不安は振り払えない… そのため藁おもすがる作戦を立てる。
農民に扮した小姓達に大量の酒を持たせ今川義元本陣に差し入れさせた…
どうか信長の大うつけを倒して尾張をお救い下さいと芝居をさせ酒を差し出す。気を良くした今川軍はその酒を飲みフラフラになると言う作戦だ。
本来 戦国の武人なら、こんな幼稚な策は考えもしない〝殺るか殺られるか〟のイクサ中にいくら有利でも酔うほど酒を飲む バカが居るはずがない。
圧倒的不利なイクサに 怯える信長が考え模索した結論は、可能性が低くても出来る事はやるだ。
だが それが、項をそうした 何とバカがいた、しかも大量に今川本陣のほとんど…
家康を始めとし次々と今川軍の戦果が 義元に伝わる。
勝ちイクサとタカをくくった家臣が半笑いで義元に話す。
「 殿、織田の砦は全て陥落、信長は、城に閉じ籠ったまま との事です
降伏するのも 時間の問題ですな」
「ふっ ここで寝てる間に 降伏の書状が届くか……だがな、殺せ!
あんな男狂いの傾奇者は要らんヘドが出る‼織田の血筋は女子供全て根絶やしだ!
先発隊に伝えろ、城の中で震える信長の首を持って来いと!
わしらは、信長を嫌う百姓が持って来た、酒でも飲むか…酒の肴はじきに届く信長の首だ!」
イクサ半ばで、気を良くした今川義元はまさか?まさかの?
酒 差し入れの術にハマった!
参考文献
織田信長Wikipedia
桶狭間の戦いWikipedia
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