サイハテの部屋3
一睡もできないまま迎えた朝、お母様の部屋を訪れて紙束を渡すと、彼女は微笑んだ。
「懐かしい。これね、大切なお友達と、三人で書いたのよ」
「……サイハテの部屋で見つけました」
「知ってる。あなたたちが絵画の裏に入ったところから、ずっと、見てたもの」
――ああ。見える、んだ。
「お母様が、西の魔女なのね」
彼女の金色の瞳が、優しく細められる。
「お母様が、オズパレードの魔法爆発事故を、起こしたのね」
金色のふわふわとした髪が、朝の陽の下で、きらきらと輝いていた。
「カノン、ブランくん。そこに座って」
ベッドの傍らには、椅子が二脚、既に用意されていた。
「あの日は、すごくいいお天気で、オズパレードがよく見えたわ」
窓の外からは、春の気配がしていた。さわやかな風が吹いて、お母様の髪を柔らかく揺らしていく。
「カノン」
お母様が、私の頭を撫でる。その瞬間、とろん、と瞼が重くなった。
「こうしてカノンを眠らせたの」
もともと眠そうだったけどね、と微笑んで、彼女は窓の外へと目を向けた。
「眠るカノンの傍らで、私は、オズワルド殿下を探したわ」
――ああ。何が、オズワルド殿下を絶対に死なせない、だ。
「子どもの魔法が暴発した、不幸な事故に見えるように、彼に向かって魔法をかけた」
最初の瞬間から、バカみたいに眠っていて、彼を守れていないのに。
「私の魔法は、正確に、彼の胸元のエメラルドを射抜いた」
窓の外を見つめる彼女の表情は見えない。けれどその声は、何かを堪えるように掠れていた。
「――その瞬間、王都中が緑の光に照らされていた」
あのオズの日――目が覚めたら、世界は一変していた。エメラルドグリーンの光の洪水が、部屋を染め上げていた。
「壊れそうなほど家が揺れて、必死で、カノンを守った」
お母様は、私を庇うように覆いかぶさっていて、その体は、震えていた。
「王都の方に目を向けたら、たくさんの人が死んでいくのが見えた」
彼女が私たちの方を振り向いた時、背後で、ドアが開く音がした。
「イザベル、その話は本当か」
お父様が、驚愕の表情を浮かべ、そこに立っていた。
「そんな、恐ろしいことが……」
青ざめた顔で、信じられないものを見るように、お母様を見つめている。
「――ニコラ」
お母様はひどく優しい声で、お父様を呼んだ。
「何でも拾ってくるのは、あなたの悪い癖よ」
彼女はいつものように、穏やかな笑みを浮かべている。
「やっぱり西の悪い魔女なんて、外に出しちゃいけないのよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます