Kind of Labi

地獄の番犬は飼い主の夢を見る①

 俺が一度死んで、「帆船」として異世界に転生されてから、早一年が経とうとしていた。


 俺は今、元奴隷だった少女ラビと共に海賊船「クルーエル・ラビ号」として世界中の空を飛び回り、多くの冒険を繰り広げている訳なのだが……


 海賊業を営んでいると、遅かれ早かれどうしても直面してしまう問題が一つあった。


 それはずばり、資金不足問題だ。


「う〜ん……今回も赤字みたいですね、師匠」


 クルーエル・ラビ号の船尾にある船長室にて、机の上に置かれた算盤そろばんのような計算機を指で弾きながら、船長であるラビが眉間にシワを寄せてそう言った。


『だから、あの依頼クエストを受けたこと自体が間違いだって言っただろ。オイラーラビットの討伐二十匹で一万ペリア。野ウサギの毛皮二十枚で一万と聞いて、俺も最初は割に合う美味しい仕事だと思ったさ。だが実際討伐に行ってみたらどうだ? そのウサギは体長十メートルはある化け物ウサギで、ドラゴン顔負けの凶暴な肉食獣だったんだぞ! おかげで乗組員五人がウサギの下敷きにされて、三人は食い殺されたんだ。大砲までぶっ放してどうにか二十匹討伐できたかと思えば、破れたり穴の空いた毛皮は受け取れないってケチ付けられて、結局納品できたのは毛皮七枚でたったの三千ぺリア。とても俺たちの苦労に見合った額じゃないね』

「うぅ……確かに師匠の言うとおりです」


 俺とラビは、散々だった過去の討伐依頼のことを思い返し、落胆して溜め息を吐く。


 俺たちの加入している探検家船舶組合ボート・コンパニオンでは、船を持つ者なら誰でも加入することができるギルドのようなもので、組合公認の酒場で数多くの依頼クエストを受け、報酬を受け取ることができる。


 しかしここ最近、俺たちは儲けの無い依頼外れクジを引いてばかりだった。おかげで貯金はほぼ底を付きかけ、停泊代や修理代すらまともに払えなくなってしまう始末。これでは先が思いやられる。


依頼クエストを受ける以外で稼げる方法を考えなきゃダメかもなぁ……』


 俺がそうぼやいていると、突然船長室の扉が開いて、「ラビっち~! 号外! 号外だよ!」と声を上げてダークエルフのニーナが入ってきた。


『いきなりどうしたんだよギャルエルフ。こっちは今、これからのことをどうするか真剣に悩んで――』

「分かってるって、資金不足をどうするかって話でしょ? この私、ニーナ・アルハが金になる話を持って帰ってきましたよ~!」


 「金になる話?」と不思議そうに首をかしげるラビに向かって、「そ! それも当たれば一獲千金も夢じゃないかもよ!」とニーナはニヤリと笑みを浮かべる。


『また怪しい話を持ち帰って来たんじゃないだろうな? 一応聞いてやる。話してみろ』


 俺は訝しげに思いながらもそう答えると、「これ、酒場で聞いた噂話なんだけどね――」とニーナが経緯を語り始めた。


 ――ニーナの話を簡単に要約すると、トムレス子爵領の空域にあるシレジア中大陸にフーリンと呼ばれる小さな町があるらしく、そこはかつて炭鉱の盛んな場所として有名であったらしい。しかも採れたのは石炭だけでなく、珍しい鉱石や宝石なども見つかることがあり、一時期はその村に多くの貿易船が行き来し、大陸で最も栄えていた場所であったという。


 しかし、今はもうあまり採れなくなってしまったようで、数年前に閉山してしまい、それ以来は町も廃墟となってしまっているようだ。


「でも、実はその廃鉱にはまだ採られていない鉱石や宝石が眠っているらしくて、鉱山の中を探索しに来た奴らはみんな、大当たりを見つけちゃったらしいんだって! こんな美味しい話は他に無いでしょ!」


 興味津々になって語りが止まらないニーナ。……確かに、元々営業していた鉱山になら、いくらか採り残しが残っている可能性も無くはない。


 ただ、運良く大当たりを見つけられれば――の話なのだが……


「確かに美味しい話かもしれないですけど、ほぼ採り尽くされた廃鉱山で、そう簡単に珍しい鉱石とか見つけられるかどうか……」


 「う~ん」とラビが考え込みながらそう意見したが、ニーナは「ちっちっ」と人差し指を振る。


「ところがどっこい! これが見つけられちゃうんだな~」

「えっ? どうしてですか?」

「その鉱山には、鉱石や宝石まで案内してくれる案内人が居るんだってさ! 噂を聞いてやってきた奴らも、その案内人の示す通りに炭鉱の中を進んでいって、見事大当たりを見つけたんだって!」


『案内人だと? そんな地下深くに眠ってる鉱石をホイホイ見つけられるような鼻の効く奴が本当に居るのか?』


 俺が半信半疑にそう尋ねるが、ニーナは巷で聞いたその噂のことを信じて疑わなかった。


「だってそいつ、これまで一度も外したことがないんだよ! 必ず百発百中でその鉱脈を当てちゃうんだって! ……まぁそいつ、実はらしいんだけどね」


 最後にとって付けたような言葉を聞いた俺は、思わず『は?』と声を上げてしまう。「人じゃないって、どういうことなんですか?」とラビも首をかしげる。


「いやぁ……実はさぁ、その案内人ってのがね――」

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