第21話 木の香る家で(葵side)⑦

 互いの肌を預け合って、しばし余韻に浸る。

 ぽつりぽつりと語り合えば、穏やかな時が流れて、無防備な幸福感に包まれた。


 だが、一気に燃え上がったモノを昇華しきることは簡単では無い。

 くすぶる想いを持て余す俺の頬を陽の指先がなぞってくる。


「笑って」


 不意打ちの言葉に、照れが蘇った。


「もっと見たいの。陽の大好きなあおくんの笑顔」


「……」


 ふふふっと笑った陽。


 今度はつつーっと俺の胸を人差し指で撫ぜた。


 先程バレたばかりの俺の弱点。


 くすぐったいし、落ち着かなくなる。翻弄されて余裕を失う。


 馬鹿だな。そんなことしたら、余計に笑えるわけないだろうが。



 悪戯な指先を掴んで再び押し倒した。


「手加減できないぞ」


 不敵な笑みで見下ろしたはずが、陽は満面の笑みを浮かべていた。


「素敵。あおくんのそんな顔も好き」


 ああ、もう!

 こいつはやっぱりポンコツだ。


 無自覚に煽ってくるからたまらない。



 やっぱり、今も俺はお前の手の平の上で踊っているのかもしれない。


 でも、それでいい。

 

 最高の幸せだから……



 それからも俺達は、何度も何度も。


 互いを語り合い、与えあった。



 暁の光が、夜と昼とを分かつまで―――



「あおくん、愛してる」


 それが、陽の最後の言葉だった。


 俺の耳に優しい音を遺して……



 俺の体に溶け込むように、彼女の肉体は再び消えてしまった。


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