第20話 木の香る家で(葵side)⑥

 己の遺伝子を与えること。


 あの頃の俺にはとてつもなく恐ろしいことだった。

 父親から受け継いだ負の遺産を遺したいなんて思えるはずもなく。


 でも、そんな俺に、陽は言った。


 俺の遺伝子は唯一無二だと。


 あの言葉が、俺を救ってくれたんだ。


 だからもう、怖くない。


 俺はお前に俺の全てを捧げる。



 二人の汗が溶け合うほど、激しく互いを重ね合う。


 言葉は喘ぎに変り、影は一つとなり。


 登り詰めた快感の先に見えてきたのは、穏やかな平安の境地。



 そうか……


 ここが、俺達の居場所なんだな。



 今更になって、木の香りに気づいた。


「私達の家」


 ふいに陽が言った。


「私はずっとここにいるよ」


「ああ」


「幸せ」


「俺もだ」


 ふわりと微笑んだ陽が愛おし過ぎて、俺はまた彼女を抱き寄せた。


 一時も離したくない。

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