第16話 木の香る家で(葵side)②

 静かに床に降ろすと、陽は即座に靴を脱ぎ捨てた。

 

 素足になって、木目をそうっとなぞるように歩いていく。


「あおくん、すべすべで気持ちいい!」

 

 弾けるように笑った。


「そんなの当然だろう」

「うふふ。あおくんの腕前、最高!」


 ウェディングドレスではしゃぐ奴がいるかと思いながらも、そんな陽から目が離せない。


 笑った顔。怒った顔。

 泣いた顔。嬉しそうな顔。

 びっくりした顔。焦った顔。

 いたずらっ子な顔。

 どんな陽も、俺は好きだ。


 ずっと見ていたくなる。


 でも、今日は―――もっと別の顔も見たくてしかたがない。


 後ろから陽を抱きしめた。



「陽」

「うん」

「俺は今まで、お前に甘えてばかりだった」

「えー、そんな事ないよ」

 

 振り返ろうとする陽を抑え込む。


 面と向かって言うのは、やっぱりハードルが高すぎる。


 火照る心を抱えながら、陽の耳元に囁いた。


「俺の気持ちを捧げたい。いいか?」


 あの頃の俺は、まだまだガキで。

 いつも陽からもらってばかりだった。


 でも、今なら……俺もお前にちゃんと伝えられるはず。

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