第82話 俺の過去、君の過去
「まぁ、そんな大したことじゃないですよ。
最初は、隣になった女子と仲良くなったことが始まりでした。それから、空から降ってきた因幡……あぁ、えっと悪友と知りあったり、暫くして転校生の男子が来たり、まぁまぁ賑やかに過ごしてる中で隣の席の女子に告白されて、色々あって付き合ってたんですけど……まぁ、その、その子は裏で他の男子と仲良くしてて、それが俺にバレてから自分が悪者にならないように、俺が酷い事をしたって根も葉もないうわさを立てられたりして……色々と揉めました。今となってはあの子が何を考えていたのかはわかりませんけどね、思い出したくもない事です。……随分嫌がらせもされましたよ、マーッハッハッハ!カバじゃない?」
あまり詳しく人には話さない事だけど、なんとなくアカ先輩には話してもいいような気がしたのだ……上手く言えないけど、そういう雰囲気がある女の子なのだ、と思う。
「バクバクの人再登場してたね……って違う違う、茶化していってるけれどもそれってすごくしんどいことじゃない?!」
おぉう、あまり重くならないように軽くいってみたけどアカ先輩には通じずツッコミを受けてしまった。気を取り直して話を続けよう。
「まぁ冤罪に関してはともちゃんやあきら……ほら、一緒にプールにいった友達や、頭の良い友達や荒事担当の悪友やらのおかげで無事解決したんですけどね。
ただ、時間がたってもそういう嫌な思い出って、どうしてもフラッシュバックしたり、思い出して身悶えたくなったりとかがあるっていうのは俺も理解しているので……だからアカ先輩を余計にほうっておけなかったんです」
そんな俺の言葉をゆっくりと受け止めているのか、アカ先輩からの回答はすぐには帰ってこなかった。
「私も……ううん、私の場合はタローくんよりは全然普通の、女子同士のいざこざみたいなものだったんだけどね」
そんな言葉と共に、中学時代にあった事をゆっくりと話してくれるアカ先輩。その話は前回聞いた時よりももっと生々しく、そして言葉を濁されていた部分にも言及されたものだった。
それは舞花ちゃんから聞いた話とも一致したので、事実だったのだな、と―――アカ先輩がそんな事をされていたんだなと悔しい気持ちになる。
「高校生デビューしたのも、そう言った事があったからで……男子が苦手だったからさ、派手なギャルメイクをしてたのは男子避けっていうのもあったんだ。うちの学校、基本的には真面目な生徒ばっかりでしょ?」
あー、そうね、確かにと言われて納得する。一部の変態元生徒会長とかをのぞいて、基本的には真面目な生徒が大半なので、どぼめ先生のような正統派美少女だと男子からのウケはいまよりもずっと良かっただろう。そうなると男子が苦手などぼめ先生にはつらいよね、……なるほど。
「もしかしたら、もうタロー君の事だから知ってたり……調べてるかもだけどね」
「それは……はい、すいません」
図星をつかれて答えに悩んだけれども、嘘をつくわけにもいかないので正直に答えた。
「……ううん、いいよ。タローくんになら」
アカ先輩の声色はとても穏やかで、慈愛に満ちたものだった。
夏休みになって、アカ先輩の本来の人間性というものがわかってきた。この人はきっと生まれ持って“お母さん”のような温かさ優しさがある人なんだな、と感じる。
それからアカ先輩とお互いの身の回りの話や些細な事を話していると、次第に瞼が重くなってくるのを感じた。うとうと、うとうとと舟を漕ぎだし、気づくと俺の意識は違う光景を見ていた。
放課後の校舎での告白、デート、そしてみたくなかった光景。
心無い言葉が投げかけられる。
仲の良かったはずのクラスの皆が俺を指さし責めるが、そんな視線から俺を庇うようにあきらが俺とクラスの皆との間に立ちふさがっている。
今とは違って髪が長いともちゃんが、あの女と激しく言い争って、そして――――
神社の階段で、ともちゃんと並んで座って街を見ていた。我慢しても涙が止まらない俺の隣で、ともちゃんがぴったりくっついて泣いている。
ともちゃんまで泣かないでほしいと思うのだけれども、その光景を俯瞰している俺の声は届かない。
……つらい、くるしい、思い出したくない。そんな気持ちでいっぱいになったところで、せっけんの香りと暖かさを感じて、目を覚ます。
灯りの消えた部屋ではわからなかったが、僅かに感じるのは鼓動の音。
柔らかく、あたたかな感触に俺はアカ先輩に頭を抱きしめるようにして添い寝されているのを感じて、思わず身体を硬直させてしまう。
その動きで目を覚ましたのか、俺を抱えていたアカ先輩の腕の拘束が緩くなる。
少し位置をずらして視線を動かすと、すぐそこアカ先輩の顔があった。
「先輩……?」
「……あっと、えっと」
アカ先輩は顔を真っ赤にしていたが、コホン、と咳払いをしつつゆっくりと俺の頭を撫でた。
「……タローくん、泣いてたから」
そう言われて自分の目元を触ると、確かに涙の跡があった。
「……すいません、恥ずかしいところを見せました」
夢の中で泣いていた俺は、現実でも同じように泣いていたのだ。アカ先輩はそんな俺を抱きしめて寝ていてくれたのだ。優しい人だなぁ、と胸が温かくなる。
「……あ、ご、ごめんね?!」
そういって、バッと体を半回転させて俺に背を向けるアカ先輩。考えている間ぼーっとアカ先輩の顔を見つめ返していたので、それは確かに気恥しかろう、である。
「い、いえ、こちらこそ!」
俺もアカ先輩にならって同じように背中を向けた。お互い無言で、狸寝入りをしたりして―――結局その日は一睡もできず、朝までアカ先輩と同じ布団の中で背中を向け合いながら緊張して過ごした。もしかしたら、それは、アカ先輩もだったかもしれないけれど。
カーテンの間から朝日が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえるようになったころ俺達は起きた。カーテンを開けると、昨日の土砂降りが嘘のような快晴だった。どうやら今日は晴れのようでなによりである。
それからアカ先輩が用意してくれたサラダとハムエッグトーストを食べてから、着替えて外に出た。
ちなみにアカ先輩が着替えている間は俺はきちんと玄関の外に出てたよ。覗きはダメ、ゼッタイ。逆に俺が着替える時は俺は寝室に閉じこもって着替えた。アカ先輩も外に出ようとしていたが女子にそこまでさせるわけにはいかないので、リビングでTVをみて待っていてもらう。
お互い夜の事が気恥しくて言葉が少なくなってしまったが、とりあえず今日は練習はお休みでお互い家に帰ってゆっくり休むことに……というところでともちゃん起こすの忘れてたと寝る前に気づいた俺は偉い!
家に帰ったのは10時過ぎだが、思い出してともちゃんを起こしに行くと口を大きく開けて花提灯をプースカ膨らませながらへそ出しで爆睡していた。かけ布団?寝てる間に蹴られてベッドから落ちてますが何か??夏休みになると起こさない限りスヤァ、……安定のともちゃんであった。
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