第80話 大あらしの夜に
次の日から、俺の日課にアカ先輩との練習がはじまった。
朝起きてともちゃんとラジオ体操して、日が昇り切る前にマンションに移動してアカ先輩が来たらダンスの練習のはじまりだ。
アカ先輩は自分で言っていた通りダンスの初心者ではあったけれど、根は真面目なのか俺の細かい説明を聞いたり、メモを取ったりと真剣に練習に取り組んでくれているので理解が速く、この調子だと大会当日までに結構な上達をするようにと思わせてくれた。
俺はそんなアカ先輩の上達に合わせたエスコートを頭の中で組み立てながら一緒に練習していき、本番のイメージを仕上げていく、という寸法だ。
とはいっても一日ダンスの練習をしているわけでもなく、練習の合間の休憩にアカ先輩は漫画を描いていたりもする。なんでも夏のイベントで出す“会場限定のコピー本”だとか。
よくわからないけど、アカ先輩が真剣に描いているので俺は応援するんだぜ!!
何事にもこつこつ真面目に取り組むアカ先輩改め、どぼめ先生の姿勢は、本人は気づいてないかもしれないが一緒にいる俺のやる気や向上心を刺激してくれる。頑張る人が傍にいると自分も頑張れるよね!そんな訳で俺の宿題も捗った。
あと、舞花ちゃん先行して調べて送ってくれた、いじめ女の彼氏が出入りしているライブハウスの情報をもとにちょっと変装して様子を見に行っておくのも忘れない。
確かに彼氏君のステージ上の姿は、歌も、ダンスも、場を盛り上げるマイクパフォーマンスもいじめ女が自慢するだけプロ級だと思う。そっち方面の男が好みの女子からしたらたまらないのではないだろうか?そして、いや……だからこそ、俺達が勝つ目が十分にあると判断した。ここで彼氏が中途半端にヘボかったりするすると“ざまぁ”をしかける意味がありませんからね、ヨホホホホ。
……そしてアカ先輩といじめ女が遭遇した日からきっちり2日後、舞花ちゃんから頼んでいた事をまとめたと連絡が来たので、アカ先輩との練習が終わった後の夕方に夕方にいつもの喫茶店で落ち合っった。
コーヒーを呑みながら机の上のファイルを見たが思ったよりひどかった。
「―――という訳でアカ先輩の中学時代の嫌がらせについてまとめましたが、いじめって、調べていても気分のいいものではありませんね」
本人に内緒で裏取をするのも本当はよくはないのだろうけど、あのいじめ女がどんなことをしてアカ先輩に心の傷を残したかによって、俺の取るべき行動も変わるのでこれは必要な事だと割り切る。ごめんねアカ先輩。
結論から言うと、アカ先輩の言っていたようなことはほんの序の口だった。言葉を濁していたのも、言いにくかったほかに俺が気を悪くするのを遠慮してたのだろう。
「教室の外に机が出されて“おめーの席ねーから!”なんてのもされてたのか。これはネタじゃすまないよなぁ。というかこれをイジりですませた当時の教師無能すぎる。あとトイレにいるところに上から放水はこれ普通に駄目だと思う」
「そうですね。ただ、そのトイレホース事件も時間がたっていますし、今回はメッセージなどの証拠が残っていませんでした」
仲間外れにする、面倒な事を押し付ける、聞こえるように陰口を言う、といったものから、おめー席ねーから!とかトイレ放水とかちょっとどうなのというものまでいじめはあった。ただ、舞花ちゃんが言う通り仕入れてきた情報ではあるが証言意外に証拠がないのは確か。……なので今回は罪の掘り起こしと追求よりも、全力で『ざまぁ』をしていくことに舵を切っていくべきだと判断する。あのタイプのいじめ女にはそっちの方が効果的だ。
そんな風に情報に目を通してから、俺がやるべきこととあのいじめ女にやるべきことがみえてきた。
他にも男子にからかわれていたりしていたが、これはまた別件でどぼめ先生しているアカ先輩は年頃の男子なら思わず惹かれてしまう正統派美少女だからだと思う。
中学の時のデフォルトがどぼめ先生だったとすると、思春期の男子特有の気になる女子へのモーションとかそういったのもあったんじゃなかろうか?
あるいは、―――その中に、いじめ女の気になる男子がいた、か?……だからいじめ女はアカ先輩に必要以上に敵愾心を抱いていじめをしたとかかな。
「はい、私もそう思います」
絶妙なタイミングで人の心の中の声に合の手を入れるよね舞花ちゃん!!!!!!!!!
「わぁい舞花ちゃんは相変わらず俺の心の中の声を読むの上手ーい」
半目になりながらヤケクソ君に俺も言葉を返すが舞花ちゃんはにっこり笑顔である。
「いつもみてますから♡」
……いや、よそう。深く考えてはいけない。スルーしておこう。うん、それがいい。
「他に、何かお手伝いできることはありますか?」
コーヒーを飲んでから、俺をみつめる舞花ちゃん。真摯に俺の力になりたいのが伝わってくる。いつもありがとう、コーヒー奢るくらいじゃお礼にならないかもしれないけどさ。
「いや、ここまでしてくれたら大丈夫。後は俺が―――いや、今回はアカ先輩をエスコートして、アカ先輩自身の力で嫌な思い出から吹っ切らせちゃうんだぜ」
そう言ってウインクすると、フフ、と愉快そうに笑う舞花ちゃん。
「そうですよね、高校に入学してからやりあった相手が規格外だっただけで、中学時代のタロー君はいつもこんな感じの人助けをしてましたもんね」
ウッ、それを言われるとちょっと面はゆいが、まぁそういうことである。……でも舞花ちゃんは中学時代の俺を知ってるって……俺は舞花ちゃんといつ知りあったんだろうね?
「……いつもは核心がない限り言葉にしないタロー君が勝てる、と態度で示してるので、今回、私はタロー君を見守る事にします」
そう言って微笑みながら優しい目で見てくる舞花ちゃん。こうしていると美少女なんだよ。こうしていてくれる分には……!!時々ねっとりじっとりちょっと湿度が高いだけで……!!
「いいだろう、特等席でみているがいい」
とりあえず思考を切り替えて、どっかのサイボーグ忍者よろしくキリッとキメ顔で返す。
「それだとラスボスに踏みつぶされますよ、タローくん。今だ、スティンガーを撃ち込めってあくしろよ」
「追い込まれた太郎さんはジャッカルより凶暴なんだぜ」
「自衛能力0で誰かに護ってもらわないとすぐやられちゃうタロー君に、ジャッカルより凶暴だと言われても……」
舞花ちゃんの容赦ないツッコミであった。否定が……否定が出来ない!!ぐっすん。そんな風に雑談をしながら、舞花ちゃんとのティータイムは賑やかに終わった。
それからの日々はアカ先輩とダンスレッスンを頑張りながら過ごし、お盆が近づいてきた。アカ先輩も修羅場?というものらしく、最近は早い時間から一緒に爺さんのマンションに籠る事が多くなった。お盆は有明かぁ、アカ先輩は凄いなぁ。そういえばはじめちゃんもお盆は有明にいくんだったっけな。
アカ先輩は料理が上手で、家ではお姉さんやお母さんとよく料理をしているらしく練習の時はいつもお昼ご飯を作ってくれた。一緒に造ったり、俺が料理を作るというんだけれどもお礼だからと頑なに譲らないので、お任せすることにしている。
エプロン姿のアカ先輩が作ってくれるご飯は毎日様々でどれも美味しいので毎日の昼ごはんが楽しみになのはナイショ。
そんなある日の事、晴天だった空が夕方になるや否や突如滝のような土砂降りになった。……天気予報が嘘をついたってやつじゃん。鞄に入れたままの折り畳み傘じゃどうにもならないレベルだよこれ!
「……アカ先輩、大雨警報出てます」
「……うん。滝みたいな雨だね」
窓から外を見て項垂れる俺とアカ先輩。TVをつけると、明日の朝方まで雨はやまないとか。もう台風じゃね?と思ったら本当に急激に進路を変えた台風の影響だった。
「外の雨、というかもう嵐が凄いですけどアカ先輩のお家……ご家族は大丈夫ですか?」
「お父さんとお母さんはお爺ちゃんの所に行っているし、姉さんは泊まり込みで女子会っていってたから、今日は元々一人だから大丈夫」
尚更駄目じゃないんですか?この雨の中返すわけにもいかないし、おまけに帰ったら一人、かぁ。
「うーん。……それじゃアカ先輩、外なんかヤバそうですし、今日は泊まっていきませんか?」
「え?……えっ???!」
変な意味じゃないよ!変なことしませんよ!!と身振り手振りで人畜無害なタローさんをアッピルする。
「そ、そうだよね、タロー君だもんね!アオのハグにも鋼の意志で我が心は不動のタロー君だもんね!!」
信頼の物差しがアオ先輩のお山に揺らがないってのが……泣けるぜ!
しかし俺迂闊な事いったかなぁ……?!でも間違ったことはしてないと思う!!
というわけで今日はこの部屋でアカ先輩とのお泊り会となった。
――――ヤリ部屋じゃよ
いつだったかの爺さんの言葉がリフレインする。めっ!不順異性交遊は、めっ!えっちなのはいけないと思います!!
俺は童貞だ!童貞でたくさんだ!爺さん、あんたがどう思っていようと……おれのほうは、ヤリ部屋をやってるつもりなどなーいっ!
心の中で叫ぶ宇宙海賊なタローさんの声を脳内に聞きながらも、俺は顔を赤くしながら視線をそらしているアカ先輩に、ドキドキしてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます