第79話 いじめ女に逆襲開始


 アカ先輩を伴ってマンションに戻り、ドアを開けて中へ先輩を家に上げる。


「お邪魔します……?」


 挨拶をしながら靴を脱ぐ先輩の姿をちらりとみつつ鍵を閉めて、俺も靴を脱いで家に上がった。

 玄関からまっすぐ歩くと無駄にだだっ広いリビングなのだけど、通されたアカ先輩も驚いていた。わかる、初めて見た時は俺も同じ反応したからね。


「えっと、ここがタロー君のおうち?広いマンションだね……」


「あー、いや。なんていうかここは別荘というか秘密基地というかそんな感じの部屋で、家族はいないのでここにいるのは俺だけです」


 そんな俺の言葉に、へぇー……と答えた後に急に赤面するアカ先輩。


「え、えぇ?!ふ、ふふふ、二人っきり?!」


 そんなアカ先輩の様子にいらん勘違いをさせたまずい、と自分の言った言葉の意味に気づいてあわてて訂正する。


「あ、いや大丈夫です変な意味ではないです!!外は暑いし話をするならここの方がいいかなって、他の人の目を気にしなくて済みますし」


 ハハハ、と安心させるように言うと、納得したのかしていないのか、微妙にもにょもにょとした様子で頷くアカ先輩。

 とりあえずお茶でも出そうと冷蔵庫からペットボトルのお茶を出してグラスについでローテーブルに置きつつ、エアコンをいれる。

 エアコンのモーター音をBGMにしつつ、暑さには勝てなかったのかお茶を飲んでいるアカ先輩を眺める。


「えっと……ごめんね、恥ずかしいところを見せちゃって。それに迷惑かけちゃった」


 改めて申し訳なさそうに頭を下げるアカ先輩を制止しつつ言葉を遮る。


「いえ、俺が勝手に首を突っ込んだだけですし、大したことはしてませんよ。蟹沢とか弥平に比べたらあんな彼氏君の相手なんて余裕ですよ」


 茶化すように笑うと、アカ先輩が呆れたような困ったような苦笑をした。よしよし、どんな形でも笑顔が出るっていうのは良い事である。


「何それ、って言いたくなるけどタロー君から見たら、そうなのかもねぇ。……私といっこしか違わないのに、凄いなぁ」


 あはは、と笑うアカ先輩の様子は、随分と落ち着いてきたようだ。


「……それで、あの人とは何があったのか、……言える範囲でよいので教えてもらえませんか?」


 俺が努めて優しく言うと、アカ先輩は少し迷う様子を見せた後、観念したように口を開いた。

 

「……さっきの女の子はね、山場っていって私の中学の同級生なの。仲は……あんまりだったんだけどね」


 そう言って俺が気を遣う事を慮ってか言葉を濁すアカ先輩。大丈夫です、タローさんですよ。tonikakuお節介な桃園だよ。


 そこからアカ先輩はさっきの女、山場との事をオブラートに包みながら訥々と語り始めた。さっき山場本人が言っていたように、絵を貼りだされたり、茶化されたり、失敗をするたびに揶揄されたり、後は……言葉を濁しているが、聞こえるように陰口を言ったり、無視されたり、学校行事で仲間外れにされたり。

 男子からもからかわれたりして男子が苦手になったのも、高校でギャルメイクをはじめた理由の一つだとか。

 あぁ、やっぱりそうなのかと思いながら聞きつつ、あまりアカ先輩にしんどい事を思い出させたりさせるのもいけないと思ったので大まかな関係が分かったところで俺から声をかける。


「すいません、嫌な事を思い出させてしまいました。あと、教えていただきありがとうございます」


 改めて頭を下げると、アカ先輩が大丈夫、大丈夫と言いつつ困った顔で掌を俺に向けて左右に振っている。素のアカ先輩のこういう可愛いところは太郎的にポイント高い。


「……それでですね、アカ先輩。―――大事な話があります!」


 あらためて、キリッと真顔でアカ先輩を見つめ返すと、両手をそのままにフリーズして顔を赤くしている。うーん、よくわからんけど中学の事を思い出して恥ずかしかったのかな?


「ひゃい?!だ、大事な話?!?!」


「はい。――――商店街であるダンス大会、俺と踊ってもらえませんか?」


 俺のそんな提案に、ぱちくちぱちくりと目を瞬くアカ先輩。

 つけましてなくてもまつげ長いよなぁ、美人だよなぁ……どぼめ先生してると清楚系美少女なんだよなぁアカ先輩、等と思いつつ、俺はアカ先輩に沿う提案した。

 ……あの2人がダンスを自慢とするなら、向こうの得意な土俵で完璧に勝利する、これ以上の征服は無いと思う。

 アカ先輩がもう、過去の事を思い出した時に辛くならないように。完璧に、完膚なきまでにあの2人に勝ってやるとも。


「え、あのあの、えっと、でも……私、ダンスなんて踊ったことないし、しろーとだし」


「大丈夫です、俺がついてます」


 アカ先輩の傍に移動して手を取りつつ、腰に手をまわして2人で立つ。そんな俺の行動に吃驚して目を白黒させているがこういうのは勢いだよ勢い、男は度胸なんでもやってみるもんさ!!…え、違う?


「俺がアカ先輩を完璧にエスコートしてみせます。……いや、させてください!」


「あ、あぅぅ…ひゃいぃぃ……」


 頭から湯気でも出しそうになってるアカ先輩がかろうじてそう答えたのを聞き取り、ヨシッ!と頷く俺。両手がふさがってるから指さし確認はしないけどね。


 

 その後、マンションを出てからアカ先輩を家の傍まで送り、別れ際に声をかける。


「それじゃ、2人で時間を合わせてあのマンションで練習するようにしましょう」


「う、うん。……えっと、よろしくお願いします?」

 

 無理やり押し切って承諾させたようなものだけど、アカ先輩も俺と一緒にダンス大会には出てくれるようだ。二言がないあたり正直で責任感ある先輩だよねー。

 とはいえ俺だって無策って訳じゃない。

 戦いというのはそれまでの準備の積み重ねなのである。あの2人がプロ並みだろうと、やるべきことをひとつひとつ積み重ねれば勝てる目算は十分にある。

 タローさんは勝算と、明確な勝てるヴィジョンがあったからこそアカ先輩を強引に誘ったのであった、フフフ。それはまぁ、おいおい明らかになるとして。

 早速色々と動き始めるけど、まずはやるべきことがひとつ。


 人通りの少ない並木道の方へと足を運び、周りに人がいなくなったところで―――なんとなくだけどいるような感じがしたので―――周囲に向かって声をかけてみる。


「―――舞花ちゃん、いる?」


「はい、ここに」


 植木の陰から姿を現す舞花ちゃん。うん、知ってた~~~~~~~~~~~!!!いると思ったんだよねぇ。


「いつもみていますから♡」


 にっこりと満面の笑みで答える舞花ちゃん。いつも……?うん、深く考えるのは良そう。


「そ、そう。あー、えっと、呼び出してなんだけど頼み事、一つしてもいい?」


「さっきの“葉子”と呼ばれていたアカ先輩の同中女とその彼氏、そしてアカ先輩の中学時代のいじめ行為についてですね。わかりました」


 さすが舞花ちゃん以心伝心で話が早い。


「どれくらい時間かかる?」


「3……いえ、2日あれば大丈夫です」


 頼もしすぎる答え。舞花ちゃんが言うなら2日あれば十分なんだろう。判断が早い!あと行動も早い。


「ごめん。いつも助かります」


「いいえ、タロー君の望みとあれば。情報がまとまったらメッセージで送りますね。……頑張ってください、タロー君」


 さっきの(どこかちょっと怖い)満面の笑みとは違う、慈しむような、声援を贈るような優しい笑み。舞花ちゃんにもずいぶんとあまえちゃってるなぁ、と思うけれどもまたこのお礼はいずれさせてもらうのだ。


「……頑張るよ」


 そんな俺の言葉に満足そうにうなずくと、踵を返して去っていく舞花ちゃん。

どうしてそこまで俺に尽くしてくれるんだい?という疑問は、いずれ舞花ちゃんに問わないといけないんだけれど今はその背中を頼りにさせてもらおう。ありがとう、舞花ちゃん。

 まずは、舞花ちゃんにも言ったとおりにアカ先輩を助けるのを全力で頑張るぜよ!!できらぁ!!フフフ、まぁみておれ。

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