第77話 ヤンキーくんの思い出
俄かに広まってしまった、俺がコスプレ趣味であるという誤解を何とか解きつつも俺はまた夏休みライフをエンジョイしていたある日の事。
珍しくはじめちゃんから電話がかかってきたので出ると、挨拶もそこそこにはじめちゃんが少しだけ神妙な様子で話してきた。
「太郎、お前フカヒレ野郎覚えてるか?」
フカヒレ野郎、そんなアホみたいな言い方で言い表すのは一人しかいない―――鮫島萩人(さめすがはぎと)。
忘れるわけがない、同じ中学にいた同級生だ。ギザッ歯に筋肉質で背も高く、それでいて喧嘩っ早くて周囲に文字通り“噛みつき”周っていた問題児だった。
自分の名前にちなんで自分を“アギト”と自称したり、何故かシルバーのアクセサリーをいっぱいつけていたり、ズボンにチェーンをつけていたり、よくわからんタトゥーシールを張っていたり、カッターシャツの肩をギザギザに切って素肌の上にカッターシャツを着て前のボタンをフルオープンにしていたり、本人はカッコいいと思っている謎ポエムでカッコつけ(ているつもりになっ)ていたりとまぁそういう感じの奇行種でしたねぇ……!
遠目から見る分には所謂厨二病を拗らせた痛い奴ですむんだけど色々あって揉めに揉めて、最終的に俺とはじめちゃんでやっつけて少年院送りにした相手でもある……相手にすると面倒くさすぎる不良だったけど惜しい奴ではあった、もう関わりたくはないけど。
思い出深いエピソードだと、全校集会で壇上に乱入して生徒の前で何故か腕に巻いてある包帯を解きながら『俺は今日から萩人を辞めた……今の俺はこの学校最強の王“アギト”……俺に噛み砕かれたくないなら平伏しな』。とか言っちゃったんだよね。鮫だけにさぶいぼでてサメ肌になっちゃう、HAHAHAHA。
まさに歩く共感性羞恥!!!!!!!!!!!!!!!
それでも、若気の至りとはいえそんなことできるクソ度胸と重度の厨二病は道を誤らなければ笑えるギャグ枠として人気者になれただろうにと思わずにはいられない。
ちなみにこの後普通に教師たちに捕縛されて当然のように反省文を書かされたんだけど、そのことを煽ったり馬鹿にしたり挑発したり喧嘩売った奴は全員影で鮫島にブチのめされてたっぽい。ぽい?ぽい~。
ちなみに鮫島曰くその“アギト”というのは“皇(アギト)”と書くらしくてアギトは俺一人でいい……らしいよ。萩人=アギト=皇……ってコト?まるで意味がわからんぞ。
少年院送りになった後に判明したことなんだけど、鮫島曰く“王の判決”で恥辱を与えるためにボコって気絶させた後にズボンを下げて尻を丸出しにした写真を撮るので被害者は皆泣き寝入りしていた。判決っていうのにズボン全部下げたら判ケツじゃなくて全ケツだからセンスねぇなぁそういうところがフカヒレなんだよ鮫島と思ったりしたんだよね、そもそも相手が先にちょっかいだしたからって暴力振るうな、人のズボン下げるなって話なんだけど。
「覚えてるよ、108,130,95,80,85,102だろ」
「そうそう、氷属性4倍の。……アイツ、特別短期処遇で少年院に入った後にカスコーに入学してたみたいなんだけどさ」
カスコーこと、古味粕高校。桜那先輩をめぐるトラブルの時、古部都に会いに行ったけどちょっと世紀末な高校だったな。鮫島が行くならまぁそこだろうな、と思うけど。
「最近までは鮫島も大人しくしてたみたいなんだけど、最近また“王の判決”とかやりだしたみたいなんだよな。カスコーの近くに住んでるダチからそんな話を聞いたからタローにも言っておいた方がいいと思って」
まぁーだ王の判決とかやってるのかよフカヒレくんさぁ。どういう状況と事情でやってるかわかんないけど高校生になってもまだ中学の時と同じ事してるのどうかと思うよ……。何のために少年院にいったんだよ、懲りろよなぁ。
……でもちょっと気になると言えば気になる。何でこのタイミングでまたそんな事を始めたんだろう。御門の奴がこの街に帰ってきたこの、タイミングで……?更生してると思ったんだけどなぁ?
「……俺もなんか嫌な感じがしてなぁ。お前と同じこと考えてると思うわ」
御門達がこの街に帰ってきたタイミングで鮫島が何か動き出したというのがどうにも引っ掛かる。中学時代の出来事が続いているような、そんな気持ち悪さを感じて身震いしてしまう。
「あと聞いた話だと王の判決されたのは古部都っぽいぞ。ダチの家のすぐ近くで尻丸出しになったカスコー生が見つかったみたいなんだけど、うちの高校からカスコーに行った生徒らしいんだわ」
ファーwwwww完璧に古部都じゃん、何やってんだよwwwww。
……なんか古部都がいらんこと言って鮫島に絡んで返り討ちフルボッコにされた姿が目に浮かぶようだよ……。うっかり挑発にのって顔芸しちゃう古部都と違って、鮫島はガチで強かったからな……フィジカルでは互角なはずのはじめちゃんでも一人で倒せなかったぐらいだし……600族は伊達じゃないんだぜ。
「用心するよ、ありがとうはじめちゃん。……まぁ、俺は恨みを買ってるだろうしな」
「あぁ。気を付けてくれ。俺だったら最終的に返り討ちか相打ちにはもっていけるけど、お前や因幡だったらちょっと厄介だ。何かあったらすぐ駆けつけるから呼べよ?それじゃ因幡にも連絡しておくわ」
そう言ってはじめちゃんとの電話を切ると、ふぅ、とため息をつく。
因幡と出会って、鮫島とのトラブルを経てからの、“あいつ”に嘘告されて―――。
「……全部終わったはずだろ。なんなんだってんだよ一体」
嫌な思い出を思い出しながら誰にでもなく呟いたところで、バァーン!とドアが開かれた。
「タロー!みてみて倉庫からグルメスパイスナックルが出てきたよー!!一緒に、んまい棒砕いて食べよー!!」
そういって人の腕のような形をした玩具を手にしたともちゃんが入ってきた。玩具の後ろから突き出た棒を出し入れしてクラッシュ!クラッシュと口ずさみなら上半身を左右に揺らしてノリノリである。
ともちゃんがウッキウキで構えているのは昔発売していた玩具で、本体にスナック菓子を入れてプッシュすると中で菓子が砕けるというものだ。砕いてどうするかというと特に意味はないので、普通に食べる。意味などない!そういう玩具遊びなのである!!!
そう言えば子供の頃一緒にスナック菓子砕いて食べて遊んだよなぁ、でもそれ使った後に洗うの大変なんだよ毎回洗うの俺だし。
……でも絶妙なタイミングで入ってきて、落ち込みそうな気分がどこかにいったのは素直に感謝したいところ。
……なので、しょうがないなぁ、と思いつつも付き合うことにする。
「コラッ、人の部屋に入る時にはノックしなさいって言ってるでしょ」
「あっ、そうだった!ゴメンニー!」
そういっててへぺろと舌を出すともちゃんに苦笑しつつも、俺はともちゃんとスナック菓子をクラッシュして遊ぶのであった。ガッツガツガツしちゃうおうね!
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