第75話 別にコスプレで求愛して欲しいわけじゃないんだ

 新刊以外にも何冊も同人誌があったので折角だからと全部購入するとアカ先輩はこの世の終わりのような表情をして同人誌を渡してくれた。

 アカ先輩もといどぼめたろう先生の同人誌は表紙のカラーイラストも綺麗で、気になったのでSNSを調べてみるとフォロワー4万人もいた。アカ先輩すげぇ!!!!!!


 購入した新刊はオリジナルの創作らしく、年下の後輩が快刀乱麻に学園の問題を解決しながら美形の親友と仲良くなっていき美しい友情をはぐくむ、と。ふむふむ。全年齢健全な同人誌でいいじゃない。

 主人公の吾郎君の周りには魅力的な女の子がいっぱいだったハーレムラブコメかな??

 文学少女の女の子の視点から観てると、この吾郎君周りの女の子からの好意に気づかなさすぎだろ。周りに可愛い女の子何人もいてハーレムになってるのに気づいてないとか鈍いにも程があるよね、ラブコメの主人公にしてもお前さぁ……となる。もうこの主人公は男の親友エンドしかないんじゃねぇの??こんなに女の子にアピールされてるのに朴念仁にも程があるわ。

 そんな中でブレないのは親友との友情、俺この親友キャラ結構好きだなぁ。

 ……等と、そんな風にハラハラドキドキしたり本の主人公にお前もうちょっと女の子達の気持ちに気づけよとツッコみをいれたりしつつめちゃくちゃ読みふけってしまった。すごく面白かった!!続きはよ!!ちょっと吾郎君の周りをやらしい雰囲気にしてきます!!

 スペースの行列がはけて、どぼめたろう先生……もといアカ先輩がに挨拶に来た同人作家さん達との交流がひと段落するのを待ってから、あらためてアカ先輩に話しかけた。


「凄い人気でしたね。お疲れ様です」


「…シテ。……コロシテ」


 アカ先輩の目からは光が消えて絶望と虚無の表情を浮かべている。いったいどうしたんだろう。


「いやぁ、待ってる間に最新刊まで全部呼んだんですけど滅茶苦茶面白かったです!」


「ぎゃぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ」


 あれ?なぜかアカ先輩が泡吹いて白目になっている。


「時々吾郎君とこの親友の男の子がお耽美な世界に入っちゃってるけどこの2人の仲良しっぷりもすごくいいと思います」


「アッ…アッ…アッ…アッ……!」


「ところでここに薔薇の塔を建てようってどういう意味なんですか?」


「コヒュー……コヒュー……」


 おぉう、陸にうちあげられた魚のようにビタンビタンと痙攣をはじめてしまうアカ先輩、だ、大丈夫ですか?!?!


「いやぁでもこの吾郎君鈍感すぎじゃないです?周りの女の子が可哀想になっちゃいますよ……あ、でもこの自分は選ばれるような子じゃないからって一歩引いてる文学少女の子も可愛いと思いました」


「…えっ?」


 戻ってきた!あぁ、黄泉の国からアカ先輩が戻ってキタァァァァァ!


「皆でいる時間が楽しくて大切だからって自分の気持ちに蓋をしているのってなんか、応援したくなりました。一緒にいる他の2人と比べて自身がないからって諦めちゃってますけど、俺はこの子も可愛いと思いました」


「……そ、そぉ?!?!え、えへへー」


 さっきまで死にそうな魚みたいだったけど復活したみたいだ。何かよくわからんけど良かった。!!


「これ絶対面白いですよアカ先輩!俺これからアカ先輩の事どぼめたろう先生って呼びます!!!!」


「辞めてそれは絶対やめてお願いしますぅぅぅぅ!」


 マジ泣きしながら懇願してくるアカ先輩。瀕死の魚になったり喜んだり泣いたり喜怒哀楽が高速変化してるんでちょっと心配になっちゃうけど一体何なんだろう、大丈夫かなぁ。


「お願いぃぃぃ、同人作家であることは身バレしたくないのぉぉぉ、お願いタローくぅん…」


 えぐえぐと泣くアカ先輩に、何か悪いこと言っちゃったなと思いながら謝る。


「す、すいません。わかりました、今日の事とアカ先輩がどぼめたろう先生って同人作家なのは秘密にしておきます」


「ウォォォン!よろしくお願いしますぅぅぅぅ」


 なんかアカ先輩も色々あるんだな……。ウェイウェイ言ってる人だと持ってたけどこれからはもっと優しくしようと思いますの……。


「ともかく俺はアカ先輩の本、凄く素敵だと思いました。これだけ描けるようになったのって、アカ先輩の今までの努力があると思います。一人一人のキャラクターがみんな大好きだって伝わってきて、なんか……上手く言葉にできないんですけど、兎も角最高でした!」


「……そう。ありがとね、な、なんか照れるなぁ」


 そう言って困ったように照れ笑いするアカ先輩は、普段とは違ってはかなげだ。


「オタク趣味ってのはさ、やっぱりオープンにすると色々あるんだよ」


 俺に背を向け、俯きながら言ったアカ先輩はなんだか寂しそうに感じた。

 そんなアカ先輩と別れてはじめちゃんと合流すると、はじめちゃんは滅茶苦茶満足した顔をしていた。はじめちゃんとコスプレスペースをみたけど皆楽しそうにコスプレしてたし、ちらほら見たことのあるキャラクターがいた。


「いやー、コスプレっていいですね。夏の有明、全力ですよヒィーハァーッ!!」


「どうでもいいけど彼女にバレないようにね……」


 テンションブチ上げなはじめちゃんにため息をつきつつ、俺の同人誌即売会初体験は賑やかに解散となった。


 ちなみにはじめちゃんの奇行はは普通に彼女にばれてた。念のために言うけど俺がチクったわけじゃないよ!!普通に小辻さんの勘が良すぎた。

 あと小辻さんから俺が同人誌即売会にいった事はともちゃんやあきらや因幡にまで広まってた、女子のネットワーク速すぎる。……女子のコンボ強すぎだろぉ。

 なんで同人誌即売会に?と追及~追い詰められて~され、はじめちゃんのつきそいと説明したものの、あきらに即売会の会場で何をしてたの?と痛いところを突かれてしまった。鋭い。

 どぼめたろう先生については死守するしかないので、コスプレを見てましたと誤魔化すしかなかった。


 『タローって好きなキャラクターとかいる?』


 あきらからそんなメッセージが届いたけど無理にコスプレしようとしなくていいからね。


「タロー、私このチュウブノテイオウって髪が長かったことの私にそっくりじゃない?コスプレしたら似合うと思うよねっ」


 ともちゃんはスマホゲームの画面をみせてきたけど見た目が中学時代のともちゃんがそのまんまだからそれはズルじゃんとなる。あの頃は色々あったからなぁ……。


 それからある日、買い物に出かけて帰ってきたら玄関に靴があった。誰か来てるのかなぁと思いつつ部屋に行くと胸元がオープンなドレスを着た銀髪のハーフエルフがいた。俺の枕に頭をのせ、頭上に両手を伸ばしながら蠱惑的なポーズで寝そべっている。わぁ、あのアニメのキャラかぁ。アニメ3期はよはよ、楽しみですね。


「おかえり、タロー♡鍵が開いてたから入らせてもらったよ」


「何だよ因幡その恰好……」


 ベッドに寝転がってる因幡に呆れつつ溜息を零す。


「何って、タローはこういうのが好きだって聞いたけど?どうだい、似合ってるかな?」


 似合ってるか似合ってないかって言われたらそりゃ抜群に似合ってると思う。

 もともと浮世離れした色白美人だからそのキャラチョイスは滅茶苦茶に自分のベースを活かしたナイスな選択すぎる。多分フォトショ加工一切せずにそのままの写真あげてもバズると思う、世のコスプレイヤーさんたちに謝れって思うレベル。


「似合ってる……けどその衣装どうしたんだよ」


「作ったに決まってるじゃないか。我ながら中々の再現度じゃない?」


 すげぇ、本当に何やっても完璧以上にこなすよなぁと素直に驚き感心する。


「というわけで子作りしたくなった?ひと夏の思い出、一緒に初体験、しよ♡?」


「アミリエたんはそんなこと言わない」


 俺が静かにドアを閉じるとドアの向こうからエェ~ッという不満げな声が聞こえた。

……うーむ、皆には俺が変な性癖持ちだと誤解されてしまったなぁ、と頭を抱えるのであった。


「折角この炎天下コスプレして来たのにっ~?!」


「その格好で歩いてきたのかよ?!?!?!」


因幡の声に思わずツッコんでしまう。天才の考えることはブッ飛びすぎてカルチャーショックが止まらないんだぜ。しょうがねぇ~~~な~~~~、帰り道はシャツとパンツ貸すか……。


 

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