第74話 その名はどぼめたろう
今日ははじめちゃんに誘われて男二人でお出かけなう。
「同人誌即売会ってこうなってるのか」
夏冬にある大きな祭典は有名だが、そういうのとは別でローカルでも同人誌即売会というものはあるのである。はじめちゃんがどうしてもいってみたいけど一人で行くのは不安と言うので付き合いで一般参加することになった。社会勉強的に一回行ってみるのもいいかなと思う。
「いやぁ、助かる!帰りにメシ奢るわ」
「俺もどういうものかみて知りたかったしな、かまへんかまへん」
会場は地元の文化センターで、10時の開場の少し前に現地に着くとそれなりの行列ができているが、男の姿はあまりなく、女の人の姿の方が圧倒的に多い。
「地方の同人誌イベントは週刊少年誌とか流行りものがメインになるからやっぱり男子は少ないみたいだなぁ。男性向けとかはほとんどないし」
「そうなのか?やけに詳しいな」
「あたぼうよ!本番、夏の有明のために色々調べてるからな!!夏はビッグサイトで綺麗なおねいさんのコスプレをみまくるんだー!」
あ、いくんだビッグサイトへ。熱中症には気を付けてね!あとお前それ小辻さんにバレんなよ?絶対その目的だと怒られるぞ彼女持ちぃ。はじめちゃんとダラダラ話をしてると、そういえばとはじめちゃんが思い出したように言った。
「この間街で御門の野郎と竹女にキツネをみかけてさぁ。どの面さげてこの街に戻ってきたんだって言おうと思ったらさっさと車に乗り込んでどっかいっちまいやがった」
どれも聞きたくない名前なので俺も渋面になる。俺がもう会いたくない人間御三家じゃねーか!……この間あいつに言われたことを思い出したのもこの事の虫の知らせみたいなものだったんだろうか。
「おっとすまねぇ、気を悪くさせるつもりはなかったんだ。……もしも知らずに鉢合わせたらと思ったから言っておこうと思ったんだ」
「いや、すまん。教えてくれてありがとう」
俺が顔を顰めたことを気遣ってはじめちゃんが声をかけてくれるので謝る。善意で教えてくれたのだし、後知らずに鉢合わせていたら俺も困ったかもしれないのでありがたいことである。
「任せろ、今度こそあのゲボカス野郎の顔面に俺の木刀めり込ませてやるからな」
「やめろ、めり込ませるんじゃないお前が捕まる。あんなのに関わってもいい事ねーだろ」
「違ぇーよ、ケジメの問題だ。アイツやりたい放題してバックれやがったからきっちり落とし前つけてもらわねぇと筋が通らねぇって話だ。今度こそ頭蓋骨陥没させてきてやらぁ」
「やめろ、そんな事したら死んじゃう死んじゃう。ノー犯罪よ」
はじめちゃんが言うと冗談に聞こえないからね、はじめちゃんに無茶をさせないようにしないと。小辻さんも悲しむ。
「……変な空気にしちまってすまなかった。よし、イベントはじまったみたいだぜ!」
話しているうちに10時になったようで、歩き出した行列にならって俺達も動く。入場料代わりのカタログを購入して会場に入ると、ホールの中には長机が並びその長机にはそれぞれが作ったグッズや同人誌が並んでいた。成程、長机を“スペース”というのはそこが販売スペースでその空間をおもいおもいに飾り立てたり自分の創作物を展示しているのか。ちょっとした商店みたいになってるところもあって見てると面白いなぁ。
「それじゃ俺はコスプレスペースみにいってくっから!また後でな!」
そういって早歩きで歩き去るはじめちゃん。会場内は押さない走らないだからね、ル-ルを護るのは大事。
「へぇ、いろいろなものがあるなぁ。同人誌即売会っていうからラミネートしたカードや、キーホルダーみたいなものまである」
週刊少年誌からアニメ、ゲームとジャンルも色々ある。ある程度机の塊ごとにジャンルが固まっているので、このあたりはヒーロースクール、そっちはワンパーツとか、あそこらへんは怨念戦争であっちは群馬アベンジャーズだ。あんまり見てなくても名前は聞くような作品が多いが、箸の方には微妙にオリジナルもあるみたい。
折角だから創作オリジナルが気になるなぁ、とそっちのエリアにいくと色々なおしゃれアイテムや可愛いアイテムを含めたものがたくさんあって、そっちにも目を引かれた。おしゃれなしおりとかね。
そうして歩いていって会場の一番端のオリジナルグッズの販売やオリジナルキャラクターの同人誌をしているエリアにきたけど、しかしこのあたりに来るとなんか見たことがある顔が結構ある気がする。道行く女子は同じ年頃の子が多いし、なんか俺をチラチラみてくけどあれ、同じ学校の生徒達かな?ううん?そういえばこの島なんかどこかで見たことがある顔の創作同人誌がチラホラある。オリジナル、となっているけど……キラキラした王子様みたいな男子と微妙にゆるいたぬき顔の男子の。なんだろ、どこかで見たことがある顔の気がする……耳を澄ますと微妙にざわ、ざわと騒めいているのは気のせいかな?え、何なんか俺注目されてる?悪い意味で有名人だからかな?なんか違う意味の気もするけど。
「どぼめたろう先生の新刊最後尾はここでーす」
そんな中、隅っこの方の席で微妙に行列を形成しているスペースがあったので気になった。最後尾の人が段ボールにスペースの場所を書いた札を掲げていて、スタッフさんが行列に並ぶ人を案内している。スペースでは黒髪ストレートのどこからどうみても清純派美少女な雰囲気の女の子が1人で対応をしていて、大変そうだ。
―――――うん?????何かどっかで見たことある顔じゃない??
誰だろう、知ってる顔だなぁと思いつつ、行列のできるスペースならちょっと気になるから俺も買っていってみようかなと行列に並んでみた。しかし俺が行列に並ぶと、どうもその行列は俺と同じ年頃の女子、多分同じ学校の女子生徒と思われる子が結構な割合で居るのに気づく。皆何故か顔を隠したり顔を背けたりしている。俺何か悪いことしたかな?……あ、したわ。めっちゃ注目される事ばっかりしてるもんなHAHAHA!
でもそれとは何か雰囲気が違う、なんだろうこのねっとりした違和感。受けとか攻めとかざわざわしてるけどなんだ??
「ありがとうございまーす」
前の人が新刊を購入して退いたので、俺も他の人に倣う。新刊は500円なので500円玉を財布から出して準備しておく。
「新刊一冊ください」
「はい――――ウォエェェェェェェッ?!?!」
スペースで対応していた黒髪の女の子が俺から500円玉を受け取りつつ俺の顔を見て、突然奇声をあげて飛び上がった。あれ?この叫び方驚き方は何かとても聞き覚えがあるぞ。髪形や髪の色が違うから一見してわかんなかったけど。
――――アカ先輩だ!!!!!!!!!!!!!
「こんにちは、アカ先輩ですよね?」
「え?ち、ちちちちちちちがいますけろぉ?!わた、わたしはしがない同人作家のどぼめじ……じゃなかったどぼめたろうです!!どぼめたろうなんですぅ!全然人違いですぅ!」
いつもと雰囲気も口調も違うけどアカ先輩だ。髪形や服装の雰囲気、全体的な特徴が変わっても俺は親しい人を見間違えたりはしないんだぜ。タローアイは透視力!ついでにタローイヤーは地獄耳、タローウイングはエナドリで翼を授かります。
そんな事を思いながら同人作家のどぼめたろうさんをじっとみるが、やめてつかぁさい、やめてつかぁさいと顔を隠している。うーん、やっぱり見間違いじゃない。
……アカ先輩にしようぜ!かなりアカ先輩だよこれ!
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