第76話 プレゼントは○○○○でした。
そして今日は爺ちゃんやすずめちゃんも家に来ての夕ご飯の日。
父さんや母さんが爺ちゃんと話している間、俺はスズメちゃんと色々と話をさせてもらった。すずめちゃんはもう夏休みの宿題を全部終わっていると聞いてさすが真面目でよい子だな~と感心しつつ、俺もぼちぼちやってるけど余裕をもって終わらせれるようにしようと改めて思う。
とはいえこの時期で全部終わらせてるすずめちゃんはすごい。
戸成ともすっかり元のような友達付き合いをしているみたいで、メッセージのやり取りをしたり一緒に図書館で宿題をしていると教えてくれた。よきかな、よきかな、ふぉふぉふぉ。
「お盆過ぎに商店街で、男女ペアのダンスコンテストがあるでちよ。今度沖那君と出るでち」
「へぇ、そりゃ凄い。何日?観に行くよ」
なんだ、すっかり仲良しさんじゃないか。心があったかくなるなぁ……これがアオハルってやつかな?なんて思いつつ話を聞いていたが、どうしてまたそんなニッチなダンス大会に出るんだろうと興味があって聞いてみた。
「優勝賞品が温泉旅行とプレイタウン5なのでちよ。沖那君はプレイタウン5が欲しくて、私は御師匠様に日頃のお礼に温泉旅行券をプレゼントしたいでち」
景品ガチじゃねーか!!!!!!!うわぁ…、荒れそう。
「太郎君はダンスが得意と聞いたでち。太郎君は出ないでちか?」
「子供の頃から婆ちゃんに社交ダンス教えられてたから多少は踊れるけどね、何かトラブルとか人助けとか理由が無ければ自分からはやらないかなぁ」
「不用意にそういう事言うとフラグが立つでちよ……」
なんとも言えない表情をするすずめちゃん。まさかそんな訳ないって。そう簡単にフラグがたつわけないじゃないか!
心配性だなぁ、ちょっとフラグたってないか見てこいカルロ。
そんな冗談はさておき、沖那もすずめちゃんも、こう、お互いの色恋だとかアオハルとかそういうのを感じさせない目的に対しての残念なストイックさが…うん…そうね……という感じ。くそっ……じれってーなぁ、俺ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!!あ、いやこの2人にはやらしい雰囲気はやっぱりだめだな。ピュアで居てほしいよね。そんな話をしていると、爺ちゃんがいつの間にか傍に来ていた。
「……さて、それでは太郎、儂と手合わせじゃ」
「エーッ、またぁ?!夏休みになってから爺ちゃんのシゴキ多くない?!」
俺の不満タラタラな声は無視され、首根っこつかまれて庭に引きずられて行く俺ちゃん。完全にまな板の上の鯉だよこれ。
「そうじゃな、もし儂に少しでも触れられたら、一つ良いものをやろう」
距離を開けて立つ俺に竹刀を投げ渡した後、顎鬚を撫でながらそんなことを言う爺ちゃん。
「いいもの……もしかして、お小遣いですかぁーッ?!」
収入の少ない高校生にとって臨時のお小遣いは喉から手が出るほど欲しい。貪欲にもなるってもんよ。
「―――もっと良いものじゃ。夏休みのセイ活が捗るものじゃよ」
そんな事を言われると凄く気になる。何がもらえるのかはわからないが、爺ちゃんがそう言うって事は多分本当に良いものなのだろう。
「わかったよ爺ちゃん。やってやる、やってやるぞぉ!」
ロボット大戦なゲームの島田兵みたいな声を挙げながら俺は竹刀を手に取った。毎回毎回いいようにボコボコニされるタローちゃんだと思うなよぉっ?!
――――そして数分後、そこには袋叩きにされたタローちゃんの姿が!!!!!!!!
「お前は本当に弱いのう……」
ボコボコに打ち倒され、尻を上げた状態で地面に横たわる俺を見下ろしながら爺ちゃんは心底残念そうに顎鬚を撫でている。
「ゲフッ、爺ちゃん普通に本気じゃん……」
「当たり前じゃ。手を抜いてはお前を鍛えることにはならんからの」
鬼!悪魔!緑の事務員!!もう体力は限界に近いが、竹刀を杖のようにしながら立ち上がる。ぶっちゃけもうあと一回打ち込まれたら多分ノックアウトされると思うけど、余力を残して諦めるのもカッコ悪くてヤだなぁと思うタローちゃんなのである。
すずめちゃんや、父さん母さんも声援を贈ってくれるがやっぱり爺ちゃんとの実力の差は如何ともしがたいものがあるのは確かなんだよなぁ。
どうしてやろうかこのハゲヒゲジジイと頭を働かせるが、爺ちゃんは余裕綽々という様子で俺が打ち込んで来るのを待っている。
「どうした、降参か?残念じゃのう」
「へへっ、余裕ぶっこいてられるのも今の内だってばよ」
俺は竹刀を構えると爺ちゃんに向かって突進した。当然、爺ちゃんの竹刀が恐ろしい速さで迫ってくるが、今日は散々打ち込まれたので少しだけ目で追えるようになっている。目が慣れてきたのだ。
思い切り体を低くしながら、爺ちゃんの左側に向かって這うように飛ぶ。やっぱりやっててよかったパルクール!ってね。タローちゃんクソザコナメクジだと自覚しているので真っ向から爺ちゃんにあたっても勝てないとわかっているのだ。なので最初から目を鳴らすために散々打ち込まれつつタイミングを計っていたって訳ですよ。
「甘いぞ太郎」
……しかし爺ちゃんの竹刀は振り下ろされている途中で軌道を変えて俺に向かって横凪に迫ってきた。どういう膂力してんのもういい歳でしょう?!?!あ、これダメだわ。グッバイ意識よろしく昏倒。爺ちゃんの竹刀がせまるのがゆっくり見える……けど、やれることは全力でやった。もう、いいよね。俺、頑張ったよね。もうゴールしてもいいよね……
「頑張れタロー!がんばえー!!」
―――そんな、よく知る声の突然の声援に、頭の中ではパジャマ姿でよたよたと海岸沿いの道を歩いていた脳内タローちゃんが現実に引き戻された。
爺ちゃんもその声に驚いて一瞬気が逸らされたのか、その太刀筋が明らかに鈍った。
竹刀はまだ届いていない、スローモーションのようにゆっくりゆっくりとその剣先が視える。
「ごぉうるーっ!!!!!」
「何じゃと?!」
叫びながら前のめりになっていた身体を横っ跳びするようにしながらひねる。回転する俺の胸のすぐ上数ミリを爺ちゃんの竹刀が通り過ぎていった。本当に回避できるとは思っていなかったけど千載一遇のチャンスと竹刀を我武者羅に振ると、へにゃへにゃで全く威力もないが爺ちゃんの尻に俺の竹刀が当たった。
「よっしゃ、もろたで工藤!!」
工藤って誰だよと思いながらそんな声を上げつつ、俺は爺ちゃんに珍しく竹刀を当てることに成功した。
そのままドシャッと地面にスっ転ぶように倒れた後、声がした方を向くとでっかい西瓜を持ったノースリーブのシャツにホットパンツ姿のともちゃんがいた。
「やったねタロー!!」
多分詳しい事情は理解していないと思うが、俺と爺ちゃんが勝負して俺が負けそうと察したのであろう、ともちゃんが声援を贈ってくれたのがわかった。そんなともちゃんは、満面の笑みで我が事のように喜んでいる。
「ハハッ、ありがと」
そんな事を返しながら、体力の尽きた俺はそのまま地面に突っ伏した。
……そういえば、中学三年の時も同じことを言われたんだっけ。神社の石段に腰かけて泣いたときの事を思い出す。この幼馴染は困ったところや手のかかる事もたくさんだけど、大なり小なり俺が諦めそうになるタイミングで俺に声援を贈りに現れるのである。
その後起き上がり、ともちゃんを迎えて皆でリビングに戻ると、ともちゃんはおすそ分けに西瓜をうちにもってきたようだった。
で、庭で物音がするのでそっちに回り込んで来たら丁度俺と爺ちゃんの打ち合いの最中だったのでとりあえず、俺を応援して声を上げたらしい。……うーむ、ともちゃんのこまけぇことはいいんだよ精神に助けられた気がするなぁ。
ともちゃんがもってきてくれた西瓜を切り、折角なのでともちゃんも加えて皆で西瓜を食べる事にした。夏休みになって爺ちゃんが家に来る頻度が上がり、すずめちゃんとともちゃんも回数を合わせることが増えてすっかり仲良くなっている。
というかともちゃんはあの性格なのですぐ人と仲良くなるんだけどね。
そんなこんなで女の子同士でわいきゃい話していたり、両親はTVを見てくつろいでいる中、俺はちょいちょいと爺ちゃんに手招きされて再度庭に出た。
皆、俺達の事は気に留めていない。
「今回はラッキーパンチで当てたけど、いずれ挽回させてもらうからね」
なんとなく勝った気がしないのでそんな事を言うと、爺ちゃんはほう、と顎髭を撫でながら愉快そうに笑った。
「そうか、そうか。お前が卍解した時は儂の卍解を見せてやろう」
んんん?俺が挽回するのになんで爺ちゃんが挽回するんだろう。よくわからないな。
そうして笑う爺ちゃんは、懐から出したものを俺の手に握らせた。
「ほれ、これをお前にやろう。必要なものは一式そのまま残っているから、好きに使うと良い」
「……鍵?」
マンションかアパートの鍵だろうか?タグキーとドアの鍵がカラビナでまとめられている。渡された鍵を不思議そうに見る俺に、爺ちゃんが悪戯っぽく、にやっ、と笑いながら言った。
「儂が買ったものの使っていないマンションの部屋の鍵じゃよ。お前ももう高校生―――ヤリ部屋に使うといい」
理解ある好々爺みたいな顔でとんでもないこと言う爺ちゃん。何言ってるんですかねぇ?!?!?!?!プレゼント、ヤリ部屋かよぉ!!!!!!!?
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