第72話 突撃!!戸成のお父さん


 というわけで高校一年生の夏休みがはじまったが、今の所何か面白い事や変わったがあるわけでもなかった。トラブルも夏休みってわけでいいことですよ。

 中学の時とほぼ同じサイクルになるけれど、朝起きてともちゃんとラジオ体操して、勉強して夏休みの宿題を進めながら午後は出かけたり誰かと遊びに行ったり。

 朝から遊びに行くこともあるけどそんな感じでごくありきたりな夏休みを過ごしていた。


 今日も今日とてともちゃんを起こしにいくとブランケットを蹴っ飛ばしてへそ出し爆睡していた。しょうがねぇなぁと思いつつ耳に顔を近づけて囁く。


「……俺のこの手が真っ赤に燃える、勝利を掴めと轟き叫ぶ」


 瞬時に目を開いて叫ぶともちゃん。


「ばぁぁくねつ!ゴッドフィンガーッ!!」


 よしよし起きたぞ、今日も元気な目覚めで何より。

 それから目を覚まし着替えたともちゃんと日課のラジオ体操をしてから家に帰る伴ちゃんを見送って別れた。

 今日はちょっと用事があって、戸成の家に招かれているのだ。色々と世話になったから戸成のお父さんが俺にお礼をという事らしい。……戸成のお父さんって議員のあの人だよなぁ。ちょっと緊張するぜ。


 少し早い時間だけど戸成の家に到着し、チャイムを鳴らすと戸成の声がして開けてくれた。


「おはよう、戸成」


「タロー、今日は来てくれてありがとう。上がってくれよ」

 

 戸成に先導されてリビングに通されたが、吹き抜けのリビングはうちとは大違いでおしゃれな上に広い。さすが議員さんの家だよねぇ。


「父さんや姉さんもじき来ると思うけど、とりあえずプォンクックーズでもみようぜ!」


 そういってTVをつける戸成。躊躇なくプォンクックーズをチョイスするあたり戸成ってかなり小学生男児なんだよねぇぁ。

いや俺もTVつけてプォンクックーズやってたて他に見るものなかったら普通に見るけどね?

 緑の怪獣と赤いけむくじゃらの幼児番組だけど、緑の方は色々なことして凄いよねー。やっぱり緑の方が人気もすごいし、赤い方は解説役なのでもっと頑張って欲しいですぞ。


『今や、田崎議員を含めた悪徳議員の半数が真実の火によって国会から消えた。この輝きこそ我ら国会の正義の証である!!』


「お、父さんだ。」


 戸成がTVを見て零しているが、TVに映っていたのは国会中継の切り抜きで、ちょうどイイタイミングで戸成のお父さん……戸成議員が映っていた。

 弥平から繋がっていた糞議員を軒並み議員辞職に追い込み、その生き残りも入念に潰して回っている戸成議員の一派はTVでもよく話題になっている。

 国民の血税で私腹を肥やすなど言語道断と提言して与野党どちらに対してもこの問題に関わった議員を議員辞職に追い込んでからのブタ箱ダンクシュートステイ、ステイに執念を燃やしている。

 国会演説の通りに容赦ない人なのと演説が印象的なのでTV映えするのか、ちょくちょくTVでみる。一時期はあれだけ冤罪で叩いていたのに掌返すあたりはマスゴミってうちの父さん呆れてたけど、議員さんも大変だなぁ。俺はしがない高校生探偵……違う、高校一年生だから大人の世界はわかんないけど。


『決定的打撃を受けた悪徳議員に如何ほどの戦力が残っていようと、それはすでに形骸である』


 拳を振り上げて叫ぶ姿は不思議と人を惹きつけるカリスマがある。桜那先輩のカリスマはお父さん譲りのものなのかもしれないね。


「『―――敢えて言おう、カスであると!!』」


 TVと背後からのステレオ音声に俺と戸成がびっくりして飛び上がる。


「「うぉわあああああっ!!」」


 俺と戸成の声もステレオにハモった。2人で仲良く後ろをみれば、オールバックにした灰色の髪に広い額、眉のない鋭い目つきの男の人がいた。

 TVではどうみても悪人面、とか散々言われてるけど実際目にすると迫力が違いますよ。TVの中では引き続き国会で発言している総帥さんが『ジィィィィィィィクッ……』等と叫んでいるけど全然耳に入ってこない。


「ハハハ、驚いたかい?待たせてしまったようですまないね。

 はじめまして桃園君、いつも子供たちが世話になっている。

 私は2人の父で……丁度TVで見てもらっていたようだけれど、議員をしている戸成総帥(となりそうじ)だよ。よろしくね」


 そう言って声は笑っていると思うけれども顔は笑っているようには見えない総帥さん。話や喋りはTVでみるよりもずっとフランクだ。……そして総帥さんは後ろに桜那先輩を伴って現れた。

 桜那先輩はいつもの雰囲気とは違い、白いワンピース姿で深窓のお嬢様って感じがする……あ、いやお嬢様だよ議員さんの娘だもの。それいったら戸成もいいところのボンボンなんだよなぁ、うんことか平気で言っちゃってるけど。


「おはよう、太郎」


「おはようございます、桜那先輩」


 冤罪裁判のあとからなんだか気恥しくて桜那先輩との間ではなんとも微妙な空気が漂ってしまっている。


「うん?どうした桜那、やけに大人しいではないか」


「そんな事はありません。わ、私はいつも通りです」


 そう言ってすこしむくれたように顔を逸らす桜那先輩。……あ、そうだ。俺って気が利かないよな本当。


「ワンピースにあってますよ。今日の桜那先輩も綺麗です」


 そう言うと、わずかに口元を綻ばせている桜那先輩。そんな桜那先輩の様子に、ふむ、と頷いている総帥さん。


「立ち話もなんだ、まずは座るといい。紅茶でいいかな?」


 総帥さんに問われて頷くと、リビングに併設したキッチンの方に声をかけていた。


「お母さん、紅茶を5人分お願いできるかな」


というわけでテーブルを囲んで戸成のお父さん、お母さん。それに対して俺の両サイドに戸成と桜那先輩という図で着席した。戸成のお母さんがいれてくれた紅茶や、幾つものケーキがテーブルの上に出されていた。どれもこれもお高そうなおケーキですわ……!


「貴方が太郎君ねぇ、沖那や桜那からいつも話はきいてるわぁ。私は2人の母の愛理よ。よろしくねぇ」


 沖那や桜那先輩によく似た綺麗な顔立ちで、優しそうな人だなぁ。


「もう一人兄貴がいたんだけど、帰ってこれなかったんだ」


 戸成の声に、総帥さんも頷いている。


「うむ、本当は家族そろって君に会いたかったのだがな、すまない」


「いえ、というか俺の方こそこんな風にしてもらって恐縮です」


「謙遜だな。君の活躍は子供たちからだけでなく、いろいろな方面から聞いているよ。まずは折角の紅茶が冷めてしまう前に乾杯をしようか」


 そう言いながらグラスを掲げた総帥さんに倣って、皆も同じようにグラスを掲げて乾杯の姿勢をとる。


「ありがとう、桃園君。君には随分と助けられた。

 沖那も、桜那も、もちろん、私もな。

 これから先、君が何か困った時、力を必要とした時には私達が君の力になると、君の後ろには我々が控えていることをどうか覚えておいてほしい。……とまぁ固い話はこれくらいにして、乾杯!」


 そういってグラスを合わせ合った乾杯から始まった会話は、学校の話や沖那、桜那先輩の子供の話や逆に俺の事を聞かれたりとわきあいあいとして、賑やかなものになった。

 あれぇ、そういえばさっきの乾杯の文句って総帥さんが俺の後ろ盾になってくれる……ってコト?!いやぁ、高校一年生のクソガキさんには分不相応でしょぉ、ハハハ。まさかねぇ。

 そんな会話が小一時間ほどすぎ、卓上のケーキもほぼなくなると戸成のお母さんがお皿を片付けにキッチンへ移動し、テーブルには俺、戸成、桜那先輩、総帥さんが残された。


「―――ところで桃園君。桜那とは寝たのかね?」


 なんかとんでもねぇ爆弾ブッこんできたぞこのおじさん!!!!!

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