第67話 冤罪裁判 閉廷~泥船に沈む狸


 天に向かって吠えるように叫ぶ綿貫。豹変したその姿は最早美少女のそれではなく、悪鬼、悪女のそれだ。


「タンカスが、ドブカスが!!黙っていいようにやられてればいいのにさぁ!この私に逆らって!!どいつもこいつもよぉーッ」


項垂れたあと、斜め下から睨みあげるように、こちらを睨む綿貫。


「認めるんだな。お前自身の行いを」


「黙れ黙れクソ、クソ、折角この学校に入ったのに!沖那のクソザコ野郎はいるし、古部都はフッても私に付き纏うし、弥平も蟹沢もブタ箱送りになって好き放題できるようになったってのによぉぉぉぉぉ!!

 どいつもこいつも使えない男が!私の邪魔をしてェェェェェェッ!!

 男なんて私に踏み台にされるだけの存在の分際でッ!

 おまけに沖那とよりを戻そうとしたらお前やあのメスガキが邪魔をしやがるしよぉぉぉぉぉぉ、今だって私の邪魔をする桜那をやっとッ!!追い落とせると思ったのに!!

 クイーンは一人、この私だ!私ィィィィィなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


 激発した感情のままに喚き散らす綿貫に、こいつの行動の意図が垣間見える。しかし何がクイーンだよ、キングは一人この俺じゃねえんだからさぁ。


「……みっともねぇな」


「ハァ?!みっともない?それはお前みたいなガキの事を言うんだよ!私は選ばれた人間なんだ!見た目も!才能もお前らなんかより上等だ!与えられたものを使って人生を上手くわたっていくことの何が悪い!!」


 いやぁ、渡れてないんだけど。泥船に乗って沈んでる真っ最中何ですけど。うちの因幡にボーボーに燃やされてますけど。


「戸成を裏切った。古部都を切り捨てた。全部お前がしてきたことの因果応報だろう」


 そう、人を隠れ蓑にする古部都のやり方は、この綿貫が弥平のやり方を踏襲していたからこそ気付けた。結局のところ、綿貫は自分が切り捨ててきたものに潰される結果になったんだ。


「黙れ黙れ黙れ、アホが!アホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホ!!」


「お前のそれは弥平の劣化コピーだったんだよ。それだって、こうやって皆で調べたらガバガバで穴が幾つも見つかったしな。弥平を調べていた時の方が苦労したよ」


「アホアホアホアホアホアホアホ!アホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホ!!!」


「それとあのチャラ男は既に警察に捕まってるぞ。お前達ネオ弥平……だっけ?弥平の残党は全員もれなく捕まると思うけど」


「……アポ?」


 最後にとっておきの爆弾を告げられて、目が点になる綿貫。


「事実だよ。さっきの映像を撮ったあとそのまま即座に警察に引き渡しているから近いうちにお前も警察に捕まるんじゃないかな」


 淡々と告げられた事実に呆然自失となり腰を抜かし、震えだす。


「こんな筈がない……私は女王、福に満ちた、私は幸福に活きる女王……だれよりも幸せに成り上がるんだ……こんな、こんな事が…あるはずが…ない…あ、あああああああああああっ!嘘だぁぁぁぁぁぁぁっ!!あーっ!!あああああああーっ!!アーッ!!!」


崩れ落ちたまま、最期の断末魔のような叫びをあげて抜け殻のようになりながら虚空を見つめる綿貫。

 ……随分と面倒で厄介な奴だったが、これで終わりだ。あと、お前は茶釜じゃなくてかちかち山の方だよ。


「進行。裁決をお願いします」


―――教師たちに引きずられて綿貫が居なくなった後の採決では、桜那先輩の罷免は満場一致で反対された。


 続けて会長代行の正式な会長就任を決める議論が出たが、票は若干割れたものの桜那先輩が正式に会長に就任する事が決まった。

 桜那先輩の冤罪を晴らし、会長に就任し、ついでに性悪狸も退治できた。これにて一件落着、でいいんじゃないかな。


 正式に会長となった桜那先輩はこれから忙しくなりそうだけど、人手が足りない間は引き続き手伝おうと思う。生徒総会が終わった後、壇上の裏で桜那先輩に袖を掴まれて、お礼を言われた。


「ありがとう、太郎。お前が居なければ私は失脚していたな―――いや、それ以上の事になっていたかもしれません」


「俺だけの力じゃない。色々な人が桜那先輩を助けようと動いてくれたからですよ」


「そうやって人を動かしたのがお前だとわからないとでも?」


 腕を組み、俺を見上げながら優しくほほ笑む桜那先輩。


「太郎、私は欲しいものは必ず手に入れる主義でな。勿論、正攻法でだ」


「……肝に銘じておきます」


 そんな俺の言葉に満足げな笑みで返して歩き去っていく桜那先輩の背中は、凛としていた。そうやって桜那先輩が見送っていると、ひょこっと舞花ちゃんがカーテンの袖から顔を出した。


「お疲れ様でした。無事桜那先輩の無罪を証明できましたし、大勝利ですね」


「皆のおかげだよ、舞花ちゃんもありがとう。……ちなみにあのチャラ男ってどうなったの?」


「普通に警察で保身のための自白アンド自白してるっぽいですよ、私や探偵さんにも色々と確認の連絡が来ますし」


 そういえばあのチャラ男を拿捕して警察に突き出したのも舞花ちゃんだったもんね。


「そっか。綿貫はどうなるんだろうなぁ」


「弥平蟹沢からの余罪が出てくるでしょうし、もっと怖い人を怒らせているので普通に終わりじゃないでしょうか」


 ……ヒメ先輩か。天下の満足会を敵に回しちゃってるんだもんなぁ、ぶるぶる。もしかしたら戸成の家からも民事でなにやらかにやらされるかもしれないし、されないかもしれない。そこは戸成のお父さんが判断する事だろうけど。


「でもいざ終わってみるとここで仕留めれてよかったなって感じだよ」


「運がこちらに味方していたのも在りましたね。もっと成長して人生経験を積んで狡猾に立ち回れるようになっていたら、弥平のようになっていたでしょうから。まだまだ感情的で不慮の事態に弱かったり計画に穴が多いのは未熟さと経験不足によるものでした。弥平とのつながりや過去の事もいずれ明らかになっていくでしょうね……警察で」


「そーなのかー。兄弟子倒せたのは鬼になったばかりだったのもあったみたいなやつ?」


「そんなところです」


 俺は舞花ちゃんとそんなやり取りをしながら、綿貫をめぐる騒動にも一応の決着がついたことに胸をなでおろすのであった。


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