第62話 冤罪裁判 寝取り男に逢いに行こう


 というわけで翌日、両親が出かけた後にしれっと出かけちゃうんだぜ。

 今日の行き先は『古味粕高校(ごみかすこうこう)』、通称カスコー。そこに転校していった奴に用事があるのだ。俺一人で不安な場所だが、背に腹は代えられない。本当ならはじめちゃんにでもついてきてもらいたいところだけど……などと思いながら玄関のドアを開けると、竹刀袋を背負ったすずめちゃんが立っていた。


「おはようでち。……で、今日はどこに行くつもりでちか?」


「すずめちゃん?どうしてここに」


 制服姿のすずめちゃんがここにいることに驚いていると、俺が今日出かけると思っていたので学校を休んでウチに来たらしい。うっ、俺の行動ってそんなに単純かなぁ……振り返って見たら結構単純だわ。しかし授業を休むなんてとんでもないとすずめちゃんを学校に行くように促したが、授業は前倒しで予習しているのと爺様の出稽古扱いで休んでいるから問題ないでち、と一蹴されてしまった。正直、今日向かう場所は俺一人だと危ないので心強いんだけど。

 タローさん戦闘力無いからね。


「それに今回の騒動は私にも関係があるでちよ。だから私もタロー君に協力したいでち」


「え、そうなの?」


 俺が聞き返すと静かに頷き、複雑そうな表情を浮かべているすずめちゃん。ほへぇ…。でも1人で行くよりも安全というか安心なので、すずめちゃんに同行してもらう事にする。ゴメンネ、弱クッテ……。


 カスコーに転校していった奴に話を聞く必要があるのでちょっと会いに行きたい、と説明し、2人で自転車でカスコーに移動したが校門に近づくにつれてスキンヘッドやピアスの生徒がたむろしているのが見えた。中にはモヒカン頭で肩パッドまでつけてるのとかもいる。


「なんというか世紀末な高校でちね」


「そうだね。……お、いたいた。アイツだ」


 ――――古部都。戸成を裏切った戸成の元親友。アイツに色々と聞くことがあるのだ。


「おーい、古部都ぉ!ちょっと顔貸してくれよ」


「アァ…?なんだテメェ、桃園?!」


 古部都が素で驚いていた。まぁそうだよね、俺がわざわざ訪ねてくるなんて思わないだろうし。


「きえろ、ぶっとばされんうちにな」


 そう言って睨みつけてくる古部都。うーむ、こうなるのは想定の範囲内だけどなんとかして古部都と話をしなければいけない。


「俺もお前みたいなクズと話したいわけじゃないけどお前に用事があるんだよ」


「お前それ人に物頼む態度かよ?!」


「でも俺が急に下手に出たら不気味じゃない?それにタローさん正直がモットーなんだよ」


「お前意外と馬鹿なのか?!……クソッ、調子狂う奴だな……」


 古部都は露骨に俺と関わるのを嫌がったが、そうして話していると周りのカスコーの生徒が集まってきた。


「なんだてめえ、うちの高校に何の用だ」


「おう、うちの大事なパシリに気安いんじゃねぇのか」


「そうだ、ゴマスリクソパシリの古部都を使うなら金払えよ。折角だからちょっとジャンプしてみろよ。声かけ料に有り金全部置いてってもらうぜ」


 ぞろぞろと集まるカスコーの生徒達。そして古部都、お前パシリやってんのか……うちの学校にいた時はあんなにイキってたのにな。……もしかしたらパシリ姿をみられたくなかったのかもしれない。


「……待つでち。タロー君はお話をしに来ただけでち。それに弱いもの一人によってたかってのいじめはいけまちぇん!」


 俺の陰からひょこっと姿を出しながら、集まってきたカスコーの生徒を一括するすずめちゃん。完全に俺が弱キャラ扱いされてるの泣けるけど事実だから仕方ないね。


「古部都君もお久しぶりでち」



「……下桐か」


 あれ、すずめちゃんと古部都知り合いだったのか?すずめちゃんも古部都もお互いに何とも言えない顔をしている。


「ヒョー、可愛いお嬢ちゃんだねぇ!!身長149㎝未満しか推せない俺にはたまらんぜやっぱアンダー149だぜぇ」


「なんだこいつ、頭いいガッコの制服着やがって!ひんむいちまえ!」


「そうだそうだ、こっちは3人だ、わからせてやるぜぇ!」


 なんだこいつら、カスコーの民度ちょっとアレすぎる。あと普通に犯罪者予備軍っぽいのがいるからちょっとつーほーはよ。


「タロー君は古部都君とお話をしてくると言いでち。この人たちは私が反省させるでちよ」


 そういって竹刀袋から長竹刀を出すすずめちゃん。


「その曲がった心根を正ちてあげるでち!」


 ちなみにこんな騒動になっても周囲の生徒達は日常茶飯事なのか気に留める様子もない。うーん、さすがカスコーって感じ。


「……お願いするでち、古部都君」


 そして3人のカスコー生徒に向き合いながらなげかけられたすずめちゃんのそんな言葉に、少し悩んだ様子を見せた後の古部都が、あごをしゃくりついてこいと促すのでついていく。この2人やっぱり何かあったのかな?


「ドーモ=ロリ少女サン。タナカです」


「どうもタナカさん、下桐でち。ハイクを詠むでちよ」


 そんな挨拶?のような会話の後、スッゾコラー、イヤーッ、グワーッ、サヨナラーッ!と言うカスコーの生徒達の奇声(?)を背に、俺は古部都についていき路地裏へと移動した。



「で、要件は何だ。手短に言え」


「お前が中学の頃戸成を嵌めた時の資料や証拠が欲しい。勿論それでお前を責めることはしないと約束する」


「あぁ?何言ってるんだお前」


 眉根を詰めながら声を上げる古部都。当然の反応だ。


「別にお前をどうこうしたいわけじゃないが、桜那先輩を助けるのに必要なんだ。戸成もそれでまいっちまってるみたいでな」


 そう言うと、む、と静かになる古部都。


―――実は古部都と対峙したときの会話から、少し気づいていたことがあるのだ。古部都は桜那先輩の事を“綺麗で優しい姉ちゃん”と言っていた。少なからず憧れなり、何らかの親愛の情があるのではないだろうか、と。この反応を見るに正解だったようだ。


「沖那がどうにかなってるってのはどうでもいいが、桜那姉ちゃんに何があったんだ?……まずは話を聞いてやる。何がどうなってるのか喋れ、わかりやすくな」


 よし、まずは第一関門突破と思いながら現状の、綿貫に桜那先輩が冤罪をかけられて停学を喰らっていることについてを話すと、古部都の顔が険しいものになっていった。


「まさか……いや、ありえるな。……アイツなら……」


何か思う所があるのか、ぶつぶつと独り言を言いながら思案する様子の古部都。


「……頼む、桜那先輩を助けるために今は一つでも手がかりが、手札が欲しい」


 そう言って頭を深く下げると、古部都が深く息を吐く音が聞こえた。


「……どういう状況かはわかった。いいだろう、俺の手元に残っている中学時代の情報を渡してやってもいい」


「……本当か?!」


 そう言った俺の頭が、上から鷲掴みにされた。


「――――けどな、俺はお前たちの所為でカスコーに転校してパシリをやらされる羽目になってんだ。上級生にごますって、ゴマスリクソバード……いや、ゴマスリクソパシリ扱いだ。毎日毎日パンとコーヒー買って来いよって怒鳴られる生活してんだよ。だからよ、ひとつ俺に詫びてくれやしねぇか?土下座だよ、土下座」


 俺の頭を鷲掴みにしながらそう言う古部都。


「……待ってほしいでち、古部都君」


 そう言って路地裏に入ってきたであろうすずめちゃんの声が後ろから聞こえた。そういえばカスコーの生徒の奇声がしなくなって静かになっている。3人組をやっつけたんだろう。


「私からもお願いするでち。桜那お姉ちゃんを助けてあげてほしいでち」


「……下桐。お前の頼みでもこれはゆずれねぇ。黙ってホイホイ情報くれてやるような仲じゃないんだよ、俺とコイツはな。むしろ恨みしかねぇ。俺のこの毎日の鬱憤を晴らすために、せめて地面に額こすりつけて土下座して懇願位してもらわねえと俺の気が済まねえんだよ!!」


「―――頼む!!!!」


 なんか古部都がごちゃごちゃいっていたが俺は迷わず地面に額をこすりつけて土下座した。うぉぉぉ刮目してみよ俺の美しいフォルムの土下座をっ!!


「…早ッ?!お前プライドとかねぇのかよ!俺が情報やるって言ってるのもブラフとおもわねえのか?!」


 迷わず土下座RTAをする俺に古部都が驚いてこえをあげているが、何を驚いているのかと。お前がやれと言ったんだぜ?


「……俺は沖那に何度も助けられたし、桜那先輩も凄い人だって尊敬してるんだよ」


  沖那や桜那先輩を思い浮かべながら、俺の渾身の土下座をする。古部都もすずめちゃんも静かに固唾を見守っているので、俺は続けて古部都に語り掛ける。


「だから、もしあの2人を助けるための情報をお前が持ってるなら、その可能性が1%でもあるなら、……土下座しないわけにはいかないだろ」


 人のために下げる頭は恥じゃない、むしろ胸を張って頭をさげるぜぇぇぇ。

 地面に額をこすりつけながらそう言うと、暫くしてから古部都がため息をついた後に俺の腕を掴んで身体を起こした。


「桃園太郎……お前…なんかちょっぴりカッコイイんじゃあねーかよ……」




「すまん、助かる」


「別にお前のためじゃないんだからな」


 膝や額についた砂を払いながら古部都に礼を言うが、そっけなく返された。ついでなので一点気になっていた事をきいてみよう。


「なぁ、古部都。綿貫と桜那さんの間に何かあったのか?桜那先輩は綿貫を気にかけていたみたいなんだが、どうして桜那先輩を嵌めるんだ」


 そんな俺の質問に、考える様子を見せる。


「今になって思えば、俺とささらはよく似ていたんだと思う。アギトは一人でいい、って事なんじゃねぇか?いや、ちょっと違うか」


 何、お前意外と特撮好きなの??

 ただまぁ、なんとなく言わんとすることはわかってきたぞ。サンキュー古部都。

 それから古部都にパソコンのアドレスを聞かれたので教えると、俺の持っている情報を送ってやる、と言われた。古部都には相変わらず毛嫌いされているが、こればっかりはどうしようもない。しかし去り際、


「俺が手を貸してやるんだ、沖那はどうでもいいが――――絶対に桜那先輩の事は護れよ」


 と言われた。悪いが俺は2人ともきっちり護るモンニ!と言ったら中指立てて去って行った。今度こそ俺と古部都が合う事はもうないだろうが、それでもこれでもう1つ、綿貫に対抗できる手札を手に入れることができた。


 カスコーからの帰り道、すずめちゃんと2人で話しながら自転車を引いていると、すずめちゃんの大切な友達の親友があの古部都君だったと教えてくれた。

…ん?

桜那先輩も子供のころからの知り合いで、引っ越す前は可愛がられたり目をかけられていたみたい。

……うん??


「あれ、すずめちゃんの言っていた大切な友達って…??」


「??タロー君も知ってる戸成沖那君でちよ?」


 何を今頃というようにキョトンとしながら言うすずめちゃん。え、エエエエエエ、そうなの~??

 綿貫含めて今回の件の渦中の人間は観なすずめちゃんの知り合い、という事だそうだ。古部都とは小学校の頃からの友人でもあったと教えてくれた。ほへぇ、世間は狭いなぁ……。あぁ、だから昨日の俺の会話をずっと静かに聞いてたのねぇ……だから今日手伝いに来てくれたのねぇ、色々とつながりました、納得!


 そしてその夜、PCに画像や動画を含めて綿貫の悪行を示す数々の証拠が古部都から送られてきた。


『俺はクズだが、ささらはまた別の意味で怖い奴だ。あいつは自分以外の頂点を認めない。ささらの態度が強気になったのは、桜那姉ちゃんが留学してからだった。今思えば俺もあいつに駒のようにうごかされていたような気がする。絶対にしくじるなよ』


『それとYJU1145141919が俺が転校する前に割り振られていた生徒証の番号だ』


 そんなメッセージと証拠の数々が送られてきた。中には結構エグいものもあり、約束を守ったことに感謝する。YJU1145141919、ねぇ。どこかで必要になる番号なのだろうか?

 送られてきた資料を舞花ちゃんに送ってから思案にふけっていると、舞花ちゃんからのメッセージがきた。


「こちらでも掴んだ情報がありますから、明日の放課後、一度集まってお話しませんか?」


 俺は二つ返事で了承した。俺とは別で舞花ちゃんも動いてくれていたのか、本当に頭が上がらないのだぜ……!

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