第61話 冤罪裁判 捜査(Ⅱ)

 次の日学校に行くと戸成も学校を休んでいた。一応、体調不良とのことだけど心配だしそこはフォローしに行かないといけないな。

 一方でともちゃんやあきらが俺の事を心配してきて声をかけてきたので、大丈夫だ問題ないと答えておく。

 ……恐らくもう日にちがない。あの掲示板の書き込みを見るに来週の生徒総会までに会長の冤罪を晴らし綿貫を追い詰める証拠を集めなければいけないのだ。

 ということで俺は早速、あの写真に写っているのは俺です、と教師に名乗り出て事情を説明した。ついでに、ホテル通りで制服姿の女子が目撃されているっていう通報があったじゃないですかとカマをかけたら教師がその件か、という渋面をしていた。おっと、俺の予想は当たっていたな。って事は綿貫は最初からあそこに桜那先輩を呼び込むつもりだったって事か。それならあの通りで何か証拠が出てくるかもしれないな。

 一応、会長のあの写真は誤解である事、そもそも学校から深夜徘徊をしている生徒についての話を聞かされて対応した中の事ですと逐次説明したものの昼休みに俺は職員室に呼ばれていったん自宅で待機するようにと言われた。事情が事情だから桜那先輩に対しても俺に対しても悪いようにはしない、との事だった。

 学校からしても写真を貼りだされているだけだしそれが不順異性交遊に繋がっているという証拠ではないしね。かといってあの写真を貼りだされて学校も黙っているわけにはいけないし、騒動が鎮静するまで出来る限り自宅でおとなしくしていろという所だろう。まぁそうなるなという落としどころではある。

 それとこうなるのはわかっていたとはいえあの写真が冤罪であるという訴えをしたという“アリバイ”は必要なのだ。

 ……という事でていのいい停学をくらったタローさんでした。うん、知ってた。


 まぁ学校としては一週間程度のこの処分を持って有耶無耶で終わらせてくれようとしてるんだろうと、処分としてはまだマシな方と思う事にする。なぁなぁですませがちなこの学校の悪癖だけどね。どこの学校も一緒か。


 だけど綿貫はそうはいかない。あいつが仕掛けてくるのが解っているのだから。あとこの停学の分の落とし前も綿貫には十倍返し……いや、百倍返しさせてもらうからな。タローさんおこだよ!

 

舞花ちゃん、ともちゃん、あきら、あとはじめちゃんや先輩達にもその旨を伝えて、タローさんは生徒総会の日まで自宅待機になりましたとさ。皆俺の処分について不服を申し立てると言ってくれていたが、俺としてはこの状態の方がいいのでお気持ちだけ頂くことにしておく。


 帰宅して、父さんと母さんには事情を説明してかくかくしかじかで冤罪の先輩の無罪を主張したけど停学喰らっちゃったと謝った。両親も学校に異議申し立てをすると言ってくれてはいたが、一応騒ぎが鎮静化するまでのものだからと遠慮してもらった。

 ちょうど爺様とすずめちゃんもいて、


「お前、親友とやら……いや、その娘を助けるために何かする気だな?」


 と爺様がニヤリと笑いながら両親に口添えしてくれたので助かった。爺様が理解がある人で助かります。


 「親友やそのお姉さんが良くない目にあわされようとしていて指をくわえてられない。法を犯すようなことは(多分)しないから!!」

 

 と両親に拝み倒しまクリスティですよ。普通の家なら息子が冤罪のとばっちりで停学とか学校に怒鳴り込むレベルだろうけど、人助けを惜しむなとの爺様の教えもあり、両親もそれならと一応矛を収めてくれた。


「まぁ父さんの学生時代も似たようなことばかりやってたしなハハハ、人助けしてとばっちりで停学なんてしょっちゅうだったなあ」


 なんて言ってるけどそれ駄目じゃね?よく卒業できたよねー。そして母さんもため息交じりに了承してくれた。


「そうねぇ、お父さんも若いころはそうやって人助けをしては変な騒動に首を突っ込んでいたものね。おかげで随分とモテてたのよ?ハァ……そっくりすぎて心配になるけど無茶な事はしないでね?」


 冴えないサラリーマンにしかみえない父さんが意外だな、なんて思ってしまう。一応、危ない事は厳禁と念押しされてしまったがそれでも行動を制限されなかった。その程度には両親から信頼されているのよね、日頃の行いって大事。


「中学のあの出来事以降随分と大人しくなったと思ったが、お前らしくなってきたな。親としては喜ぶべきか叱るべきか悩ましいが……後悔しないようにやれよ、太郎」


 ありがとう父さん。俺は俺を信頼してくれた両親の為にも出来る限り合法的にこの問題を解決するぞ!!グレーゾーンならセーフ、セーフ。

 そんな話し合いの間、すずめちゃんが静かに俺の話を聞いていたのが気になったけど、すずめちゃんには関係ない話で巻き込んだり心配かけちゃいけないしねー。

 そうして爺様とすずめちゃんが帰って行った後のまだ夜遅くならない時間。

 自宅待機扱いで明確に停学とか言われてないふわっとしたグレーゾーンなのでにタローさんは普通に外出しちゃうんだけどね。よいこの皆は停学喰らったら素直に家でおとなしくしてるんだぞ、よろず屋タローちゃんとの約束だ!



 ―――――というわけで。いっちょいきますか!!!



 まず俺がするべきはあの写真をとった状況の確認と証拠集めだ。一応、ニット帽子に伊達眼鏡でそれとなくママチャリにのってホテル通りに向かう。夏が近くなり陽が落ちるのが遅くなったおかげでまだ明るいのは助かる。


 家で広げた地図と角度から調べるべきところのめぼしはついているのでそこを重点的に探す。ホテル通りの繁みの奥などになにか証拠がないかと目を凝らす。


「ん、これは」


 地面に3つ、三角形に穴が空いている。穴の具合からそんなに日がたっていないようにも感じる、写真にとっておこう、パシャリとね。

 周りの繁みを探すと同じような穴が発見できた。写真を撮られたと思われる位置に残る3つの穴。


「―――これは、三脚をおいたあとかな?」


「正解だ、太郎」


 突然の声に振り返ると、あの白いスーツの探偵さんがいた。不敵に笑うマジでダンディなオジ様、略してマダオだよね!


「いいセンスだ。お前、いい探偵になれるぞ」


「探偵さん!お久しぶりです。どうしてこんな所に?」


 そんな俺の質問に静かに俺の右胸に人差し指をあててくる。


「何、お前が謹慎になったと小耳にはさんでな。来るならここだと思っていた」


 俺が謹慎になったら動き出すって見抜かれてたのか、鋭い。さすがは探偵さんである。


「大よその事は聞いている。このあたりを調べたり古い馴染みにも聞いて回ったがんだがな。お前達の言っている深夜徘徊する女子、というのも存在はしなかったぞ。……お前たちを陥れたのは、随分と狡猾な相手だぞ」


 あぁ、やっぱりそうだったんですね。話には聞いてたけど改めて言われるとやはり納得がいく話だ。繁みの中に準備したカメラに、“そういう”風に見える写真を撮らせるために此処に誘い込んだんだろう。


「……そうでしたか。ぐぬぬ、三脚をたてて隠し撮りの準備をしていたことはわかるけれど、それだけじゃ証拠にはならないしなぁ」


「フッ、惜しいな。太郎、この通りをよく見てみろ」


 惜しい?どういう事だろう。この通り、この通り。薄暗い小路、ホテルがいくつもならんで入り口が並んでいる。自動ドアがあって、看板と、電球と、……あっ。


「監視カメラ?」


「正解だ。この通りはそれぞれの入り口やビルの周りにカメラがあるだろう?そこにはそこに三脚を立てた犯人が映っているかもな」


 成程、そうか。この狭い通りだと必然的に監視カメラが入り組んでいるので隠し撮りのカメラを仕掛けた犯人の姿も映っているかもしれない。


「……最も、それを手に入れるのは簡単じゃないが―――」


「いえ、多分大丈夫だと思います」


「―――何?」


 俺の言葉に訝し気な様子の探偵さんだが、俺は人に助けを求める事に躊躇しないのでヒメ先輩にホテル通りの監視カメラに、隠し撮りをした犯人、恐らく綿貫がカメラをしかける姿が映ってるかもしれないのですが監視カメラの映像合法的になんとかなりませんか?という旨をメッセージで送る


『ん、ちょっと待って』

『多分なんとかなりそう。私のポケットマネーで全部買収いける』

『すぐ手配するから』


 つよい!!さすがつよつよお嬢様である。


「ここのホテル通りのホテルの監視カメラの映像一式手に入りそうです。ありがとうございます」


「そ、そうか……いや、驚いた」


 マジで驚いている様子の探偵さん。それはそうよ俺もびっくり。メッセージ送って2秒で解決したもん。監視カメラの映像もヒメ先輩に頼んでなんとかなりそうだし、少しずつ証拠が固まってきたぞ。

 ……そうか、探偵さんは俺にこの情報を伝えに来てくれたのか、ありがとうございます。


「ありがとうございます、探偵さんのおかげで貴重な手がかりが手に入りそうです」


「そうか、まぁ、そうだな。なんであれ、手札が増えたのは何よりだ」


  もしかしたら探偵さんなりに監視カメラの映像の入手ルートを調べたりしてくれていたのかもしれない。もしかしたら段取りしてくれていたのかも。……すみません。


「そうだ太郎、スマホを貸せ」


 なんだろう。でも探偵さんが言う事だし素直にスマホを渡す。



「……そこに立て、そうだ、そこでいい。そこにたって向こうを向け」


 そうして探偵さんが歩いていって、ある場所でかがむとそこから立っている俺の写真を撮った後にスマホを渡してくる。


「……あっ!!」


 被写体は俺だが、丁度、桜那先輩が撮られたような写真が写っていた。探偵さんが写真を撮ったのは三脚が建てられていたとと思われる位置・高さからだ。

 この写真も証拠になるだろう。ううっ、俺はまだまだ半人前だと思い知らされる。無言でニッ、と笑う探偵さんに頭を下げると、踵を返して去っていく探偵さん。いつか俺もああいう風になれたらいいなぁ、と思うのであった。


 これでまず貼りだされた写真についてはなんとかなりそうだ。よしよし、順調に綿貫が犯人だと暴く証拠が揃っていっているぞ。


 ……しかし綿貫がわざわざこんな事までする理由、っていうのも気になるんだよなぁ。まぁそれは次の証拠集めの時に嫌でもわかるかもしれないし明日も頑張るぞ、俺。うむうむ、順調に進んでいるのではないだろうか。

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