第60話 冤罪裁判 捜査(Ⅰ)
帰宅してから戸成や桜那先輩にメッセージを送ったが、戸成には既読が着かず、桜那先輩からは
『心配をかけてごめんね』
と短い謝罪のメッセージが届いた。
これはあまりよろしくない状況である。
という訳で早速舞花ちゃんが回収してきた写真と、街の地図を見比べながらこの写真をとったカメラの位置を探す事にする。写真の角度から逆算した場所はホテルの入り口付近、繁みの中じゃないかとあたりをつける。……丁度あの時、自称医大生がいたホテルの位置だ。
「……狙われていた?盗撮されていた?何にせよこのあたりの位置から写真をとったんだろうな」
周到に準備されているなぁ。ここは一度現場を見に行った方が良さそうだし、早急に行くとしよう。
舞花ちゃんも舞花ちゃんで調べてくれたようだが、探偵さん曰く深夜徘徊で目撃されている制服姿の女子高生の目撃談は無い、という事だった。
おかしな話だ。学校にはそういう旨の通報があり、それが切欠で桜那先輩が動くことになったというのに辻褄が合わない。
これは馴染みの婦警さんにでもちょっと話を聞いた方がいいな、と俺はママチャリに乗って警察署にGoGo。
「すいません、おっぱいでっかい婦警さんを探しているんですが、さ、さな…なんとかさんっていう……あ、いたいたあの人です、あのおっぱいでっかい婦警さん」
警察署の受付のお姉さんもなんだこのガキみたいな顔をしているが今はそんな事を気にしてはいられない。いつもお世話になっているおっぱいでかい婦警さんに話をアイタタタタタ、関節キめるのやめてくれませんか?!おっぱいあたって役得ではあるんですけど……!!すいません真面目な話があるんです聞いてくださいお願いします!!!!
「はぁ……。まぁ、顔見知りになっちゃってるし聞くけどね、今日は一体何なの?もう子供は家に帰る時間よ」
そんな事を言って呆れながらも一応話を聞いてくれるおっぱいでかい婦警さん。そろそろアラサーでしたっけアイタタタタタタすいませんギブギブです関節キめるのやめてください。というわけで婦警さんにかくかくしかじかと、深夜徘徊している女子生徒についての話を聞いたが、不思議そうな顔をしていた。
「うーん、聞いたことないわねぇ。けど、そういう話が出ているのならパトロールの強化をするようことはするわよ」
「助かります。一応、念のため」
やっぱり。婦警さんも見聞きしたことがない様子だった。婦警さんにお礼を言いつつ、一応、昨日俺が同じ学校の女子をみかけたという事実はあったのでそこを説明して繁華街中心にパトロールの強化だけはお願いしておいた。
ただ、俺の予想では恐らく綿貫はもう目的を果たしているから深夜徘徊で姿を現す事は無いのではないか、とも思う。婦警さん達には無駄足を指せる可能性が高いのだが、そこは申し訳ないですが市民の為と思って何卒との気持ちでお願いするしかなかった。
「ハァ、私ももう歳だから若いころのようには働けないんだけどねぇ」
「何いってるんですか。アイドルやれるくらい綺麗だと思いますよ」
そんな俺の言葉に、なんだか興味がわいたとでもいわんばかりの反応をする婦警さん。
「へぇ。それじゃ私がもしアイドルになって鳴かず飛ばずだったら、君にお嫁に貰ってもらおうかしら」
「ははは、じゃあその時はよろしくお願いします」
そんな社交辞令をかわしつつ警察署を後にした。うん、なんだか寒気が……何かたててはいけないフラグがたったような……気のせいだろう、うん。
警察署からの帰り道、ママチャリをこぎながら考えを纏める。夜風が身体を冷やして頭がCooLになる。CooLになれ桃園太郎!
本来居ないはずの深夜徘徊をする女子生徒の話を学校に通報して誰が得をするのか考える。
まず、そんな通報が学校に入ればそれに対する訓示を学校は用意するだろう。
生徒会長代行の桜那先輩はその対応に関わる事になる。
そしてそれが自分の知っている人物の可能性があれば、まず動く、そういう人だ。
……あのサッカー部に対してもそうしたように、一度は救いの手を差し伸べようとする。その下地に、桜那先輩にとっての悔恨である中学時代の事の後悔や悩みを匂わせておけば、ほぼ間違いなく動くと読めるだろう。
……その通報をした人間は、桜那先輩がそういう人だと知っている人間だ。
まして、戸成の幼馴染となれば桜那先輩の事もよく知っている筈。
―――学校に通報をしたのは綿貫自身ではないだろうか。桜那先輩の人となりを熟知しているからこそ、罠に嵌めるための一本釣りをするために。
昨日の行動に関していえば桜那先輩が迂闊だったのもあるかもしれない。
ただ、放っておいても事態が悪化する可能性がある以上即座に動くしかないので動かざるを得ない。
……桜那先輩も、まさか自分が子供のころから知っている子が、それも弟の幼馴染で元彼女が自分を悪辣な罠に嵌めようとしているとは思わないだろう。
桜那先輩は俺との話で繁華街としか言わなかったが、もしかしたら学校からの話でホテル街と聞いていたのかもしれない。だから桜那先輩と俺はホテル街に近い場所で遭遇したのでは?このあたりはちょっと学校なり桜那先輩に確認した方がいいかもしれないね。
舞花ちゃんが昨日言っていた、俺が昨日動いて結果的に正解だったというのはこの事だろう。
もし昨日の現場に俺がいなかったら、もっと話がややこしくなっていた。あの写真の現場に俺がいたのは、綿貫にとって想定外だったのではないだろうか。あの写真に俺の顔が映っていなかったのは、偶然か、あえてそうしたのかはわからないが。
やっぱり舞花ちゃんの方が俺よりも何枚も上手だな、俺はこれだけの情報が出てやっとだよ。そう考えると昨日の俺の行動って超ファインプレーだったんじゃないの?
―――まず間違いなく、綿貫は桜那先輩を狙って行動しているのだろう。
うん、桜那先輩が失脚したとして、綿貫にはメリットしかないもんなぁ。扇動と罠に嵌めたのが発覚しない限りは、だけど。
しかし、初動から桜那先輩が冤罪で嵌められているという前提から入る事が出来たのと、俺が無垢なる白き一角獣(どうてい)であることをよく知る友人知人たちが味方に付いていることはこちらにとってのアドバンテージだ。綿貫さ桜那先輩の性格を読んで詰将棋のように罠に嵌めたが、桜那先輩には味方がついているのを知らなすぎた。
なんとでもなるはずだ、やってみせろよタロー!
断片的な思考をまとめながら帰宅したところで、ピロンとスマホの着信音が鳴った。メッセージの着信だ。
『タロー、学校裏サイトみてみれ』
因幡から届いたそんなメッセージとURLをみてみると、学校の裏サイトなる掲示板サイトが開いた。 え、こんなところあるんだ。10年ほど前からだろうか、結構昔から運用されているようで、学校の在校生向けの掲示板だ。
こんなのあったのか初耳だよ。へぇ、生徒限定で利用できる交流サイト、ねぇ。
そこでは割としょうもない話やローカルな話が大半だが、中には何故か【戸×桃を語るスレpart.6】【桃×戸を見守るスレpart.11】等々、謎のスレッドがあった。……なぜか気になるが今はそんなところを気に留めている場合ではない。
『こんなのあったならなんで今まで教えてくれなかったんだよ』
と因幡に言うとすぐさま
『聞かれなかったから』
と返事が来た。うーん、この……。
『あと蟹沢弥平の時はボクを頼ってこなかったじゃないか』
ぬわーん、実に面倒くさい奴である。こっちもいっぱいだったし拗ねないでほしい。あとお前を頼りにするとその後が怖いんだよ……。
『それに蟹沢弥平の時は噂や話題に話が出る程度だけど今回は違ったから』
そんなメッセージとともに因幡が幾つかのスレッドのリンクを送ってきたが、色々な掲示板で桜那先輩の事が次々と投稿されていた。桜那先輩の実家の中学時代の事を匂わせるいやらしい書き方の投稿もある。しかしこずるいのが、
『あの写真ショックだった』
『こんな人が生徒会長になって大丈夫かな』
『来週の夏休み前の生徒総会で言った方がよくない?』
『自宅待機になってるらしいよ』
などと、この裏サイトを使う生徒達の不安を刺激し扇動するような投稿が繰り返されている事だ。中学時代の話にまで遡っていて、今このタイミングで桜那先輩を槍玉にあげれる人間は綿貫しかいない。
『今朝から急にこんな感じになってる』
因幡からのそんなメッセージに拳を握りしめる。……やり方が汚い!
周囲を扇動して人を使って追い込む。……まるで、いや戸成から聞いた中学時代に戸成がやられたことの再現じゃないか。
……まさか、な。いや。恐らく、多分、きっとそうだ。
そしてこの書き込みを見ると、恐らく夏休み直前の生徒総会で何か仕掛けてくるつもりだろう。……いいぜ、それなら俺は桜那先輩を全力で弁護するぞ。
因幡にこの掲示板の件頼めないかとメッセージを送ったら、即座に回答が返ってきた。
『貸し一つ』
この間に続けて因幡にまた貸りを作る事になるけどこれも仕方がない。電子戦で因幡に勝てる奴を俺は知らないし、この裏サイトの件は因幡に頼めばなんとかなるだろう。
しかしまだまだやる事はある。綿貫が相手となれば、俺は絶対に会いに行かなければいけない人間がいる。クッソ気が重いけどやるしかねぇ……!
それから、舞花ちゃんが桜那先輩は処分が決定するまで自宅待機をするように、という指示が下されたようですと連絡が来た。実質停学じゃないか畜生。
写真の男は俺ですと異議を言いに行っていいかな?と舞花ちゃんに確認したら、恐らく最長一週間程度、タロー君も停学になるかと思いますが必要な事なので、すみませんが行ってくださいと言われた。そのあたり思いっきりのいいのが舞花ちゃんである。
ということでまずは明日、あの写真に写っている男子は俺だと学校に名乗り出ることもしなければいけないし、会長が冤罪であることは一応学校に説明しなければ。
……俺の謹慎は覚悟の上。それにそうなったらなったで動くこともできるしな。
しかしやる事が……やる事が多い……!!
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