第59話 醜聞という罠
家に帰ると、1通のメッセージが届いていた。
舞花ちゃんからだったが、少し綿貫の行動に違和感を感じるので調べてみます、との事だった。俺も綿貫の行動には違和感を感じていたので舞花ちゃんと同じ見解だというのは心強い。
思い立ったが吉日で今日さっそく動いたことについて注意を受けるかと思ったが、珍しく
『結果として今日、桜那先輩を1人にしなかったのは正解だったと思います。恐らくですが』
と返信がきた。やっぱり舞花ちゃんは俺の見えていない何かが見えているんだろうか、またゆっくり話を聞かせて欲しいところ。一応、夜の街に詳しい人にも事の経緯を話して当たってみるとの事だった。……あ、わかったあの探偵さんだ。そういえば町の事に詳しそうだし、綿貫が何かしらしてるなら探偵さんが掴んでいるかもしれない。
それから暫くしてもう一通、こちらは桜那先輩からの、
『今、お話したいなぁ。時間は大丈夫??』
というメッセージだった。特に断る理由もないので今日の労いと、そして明日以降夜間の外出をしないようにという注意だった。はぁい。
『太郎も綿貫ささらについて思う所があると思う。だが私は、人の命にかかわるような事でない限り、1度は反省して構成する機会が与えられても良いと思っている。だからささらが何か道を踏み外そうとしているのなら、正してやりたいと思うのだよ』
なんて話も聞かされた。真島先輩達サッカー部に対してもそうだったな。そのために人知れず努力をして対策をしていたし。……戸成に対して放っておけないと感じるように、桜那先輩もなんだか放っておけない人だと思う。本人に対しては言えないけどね。
―――そして次の日の朝、学校に行くと玄関の掲示板の所に酷い人だかりができていた。
「なんだこれ、一体何のひとごみだ?」
そう独り言ちながら観に行くと、人ごみの中から
「これ会長?」
「え、嘘だろ?」
なんていう声が聞こえたので、嫌な胸騒ぎがして人ごみをかき分けていく。
するとそこには、まるでホテルから出てきたように見える会長の写真があった。
服装は昨日の夜の会長のもの。会長の陰に隠れていてハッキリとはみえないが、奥にいるスポーツウェアの男は俺だろう。丁度位置的に俺の顔は隠れているが、会長の顔はハッキリと映っている。
――――何だこの写真は?!
隠し撮りされたものだろうか、会長も俺も気づいてない。当然だ。昨日こんな写真をとられていたなんて気づかなかった。
「これは……姉さん?!」
遅れてきた戸成がショックを受けていたので、身体を支えてやる。
「……違う、これは誤解だ」
戸成に言い聞かせるようにひそひそと話しかける。
「あ、あぁ…そうだよな、姉さんがそんな、こんな事をするはずがないもんな……」
しかし姉のそんなスキャンダラスな写真に顔を青くしている戸成。こんな事になるなんて、自分の行動の迂闊さが情けない。
俺から少し遅れてとてとてと歩いてきたともちゃんが俺と戸成に挨拶をした後、貼りだされた写真に首をかしげている。
「ヴェッ?あの服、会長の隣にいるのってタローだよね。
じゃあ、あの写真って会長とタローが歩いてるだけの写真でしょ?
何で皆ざわざわしてるんだろう」
ともちゃんは相変わらずともちゃんだったので、やんわりとホテル通りで写真を撮られた事を説明する。
「ふぇ?えっちなホテルの通り?でもタローってそういう事しないじゃん。だから2人で並んで歩いてるだけでしょ?あんな写真を貼って何か意味があるの??」
不思議そうにきょとんとしているが、もうその通りなのでともちゃんありがとうしみじみ思う。なんだかんだで俺への評価と信頼に幼馴染のありがたさを感じる時は結構ある。アホの子なので写真の意味を理解できてないあたりはまぁ、ともちゃんだしな!!!!! ちなみにともちゃんは会長代行をしている桜那先輩を会長と雑に認識している……まぁ、ともちゃんだしな!!!!!!!!!
そしていつの間にか横に来ていたあきらも、写真に対して怪訝な反応を示していた。
「うん。奥のってタローだよね、私とバスケしてた時の服だもん。奥の男がタローだったらいかがわしい事なんてしてないだろうし。それに桜那先輩、あれで一線は簡単に超えない人の気がする。なんとなくだけど。……それにタローはニブちんだし。……だし」
確信をもって、疑う事すらしない安心のともちゃんと、俺に対してぶれない評価のあきらがありがたい。何か言いたそうなあきらの視線が気になったけど今はこまけぇことを気にしていられねぇんだぜよ……!!
結果として、奥にいるのが俺、というところからこの写真はただホテル通りを歩いているだけと断言されてしまう事が良いのか悪いのか、俺を知る人たちからはそういう風に理解をされていた。
それからはじめちゃんからもメッセージが来ていたが、どうやら校内のいくつかの場所に張り出されているらしい。はじめちゃんも話題の写真で会長代行の隣にいるのが俺だと気づいたみたいだが、
『何かの間違いだろ、あの写真。お前ほどの奴が簡単に童貞を捨てる筈がない。何か困ってるなら頼れよ』
と、きたもんだ。持つべきものは友達。童貞を護れない奴に一体何が守れるっていうんだ!!!!
というわけでなんだかんだで友人たちの評価が安定しているのが救いだった、嬉しいねぇ。それよりも桜那先輩の方が心配である。登校してきたあと、桜那先輩は職員室に呼び出されてしまったとアカ先輩から連絡が来た。
……得体のしれない嫌な事が動いているのを感じるが、それでも臆するわけにはいかないぞタローさんや。
それから詳しくはわからないが桜那先輩は授業中姿を現さなかったらしい。
学校にあの写真は悪意のあるもので誤解、冤罪であると訴えに行こうとしたところ、丁度そのタイミングで舞花ちゃんから制止のメッセージが届いたので踏みとどまった。
『言いに行くのは必要ですが少し待ってください』
すぐにでも意見を言いに行きたいという俺の気持ちは見抜かれていた。
舞花ちゃん曰く、何もわからない今の状態で先手を打つのは危険なのであの写真に対しての学校の判断が決まってから動いてくださいとの事。うーむ、完全に俺の動きが読まれているんだよねぇ。舞花ちゃんがそういうなら待つけど…!けど…!!
戸成も戸成で一日元気がなく、昼休みも何を話しかけても上の空で放課後になると今日は部活を休むと帰ってしまっていたので心配だったが、今日はまず2年の先輩たちの所に行くことにする。なので放課後はヒメ先輩達に連絡を入れて被服室に集まった。勿論、舞花ちゃんも一緒だ。
「で、あれはいったいどういう状況なの?写真にうつってた桜那と、隣にいたのはアンタだと思うけど、アンタ達がホ、ホホホホホ、ホテル、に入るなんてわけないし」
「うんうん、タロー君は、そう言う事軽々しくしない子だもんね~。でも私はいつでもオッケーだよ♡はい抱っこ抱っこ」
「そーそー、アオがこんなにアピールしてるのに効かないタローが簡単にそんな事するわけないじゃんゲラゲラ」
ヒメ先輩、アオ先輩、アカ先輩。三者三様、2年の先輩達も同じような反応をしていた。ううっ、なんなすみません?
でもあの写真が誤解だって理解して貰えるのって日頃の行いだと思う、やっぱり大事だよね、真面目に生きるのって。
「この写真は昨日の夜の写真、ですねタロー君」
舞花ちゃんは朝の時点で、どこかに貼り出されていたものを回収してきていた。判断が早い。
「あぁ。昨日の夜、俺が綿貫を探していた時に桜那先輩と綿貫を追いかけていた時の写真だよ」
「―――成程。罠だったという事ですね」
写真を見ながら舞花ちゃんが断言した。
「いったいいつからか、どこからがはじまっていたのでしょうか。
古部都と仲たがいした時から?古部都に問題を起こさせるように仕向けた時から?
それとも蟹沢弥平の時から?
いや、もしかしたら高校に入って戸成君と同じ学校になっていたのがわかった時からでしょうか。
犬井さんをぶつけた時のように細かいイレギュラーはあったかもしれません。ですがこれは綿貫にしてやられた、という事ですね。
……私たちは綿貫という存在を古部都に毛が生えた、もしくは古部都と同じ程度のものだと軽んじていたのではないでしょうか。もっと厄介なのはこちらかもしれません。まずは何より情報を集める所からになりますが」
写真を見ながら思案している様子の舞花ちゃん。
桜那先輩に相談を持ち掛けたのも、学校に通わなくなっていたのも、夜の街に現れていたのも、桜那先輩をつり上げて嵌めるための罠……ってコト?!
そんな舞花ちゃんの様子に、先輩達も静かに話を聞いていたが、ヒメ先輩がそんな重い空気を飛ばすように声を上げた。
「……ま、桜那も腐れ縁だし?この騒動、桜那の名誉挽回に何か力が必要なら私を頼りな!!お金と権力ならなんとでもなるよ」
本当に頼もしい言葉である!!!!!!!さすが超つよつよお嬢様ですね!!!それにヒメ先輩ってなんだかんだで友人知人や身内に対しては優しいもんね。普段あんまりそういうの使わないけど、弥平の時みたいに身内のためとかだと遠慮なく権力フルパワーしてくれるの助かります。
「この件、先輩の力が必要になると思います。私も伝手を頼りますが、あとはタロー君の人脈がカギになりますね」
舞花ちゃんのそんな言葉に、二つ返事で了承するヒメ先輩。勿論俺も、人脈も俺の出来ることも全部使って桜那先輩の濡れ衣を晴らしてやるとも。事態は良くない状況だが、――――やぁってやるぜ!!
俺を利用されたことはさておいて、俺の周りの人間を嵌めようとした事が許せない。落とし前は必ずつけさせてやるぞと心に決める。戸成には悪いけど、このタロー容赦せん!
そう、俺は今、モーレツに熱血している!!!!!
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