第56話 プールサイドパニック(Ⅲ)

「さっき舞花ちゃんとすれ違って、ちょっとスライダー乗れなさそうだから俺が代わりに来たんだ。俺が一緒でもいい?」


「え、えぇっ、タローと?!」


 とてもびっくりしている。そんなに嫌なのぉ?傷つくからハブらないでぇ……タローさん泣いちゃう。結局、少し悩んでから頷くあきら。


「うっと、えっと、よろしくおねがいしましゅ!!」


 顔を真っ赤にしながら言ってるけど、ごめんね、なんか俺が相乗りでゴメンネ。悪魔と相乗りじゃなくてゴメンネ。


 というわけでスライダーの頂上部まで階段で上がったが、ちょうど他に並んでいる人もいなくてすぐに乗れたのはありがたかった。

 頂上でスタッフのお姉さんに説明を受けると、ハンドルつきのスライダー用のうきわに前後ろ2人乗りで座り、ハンドルで左右に舵が切れて、アクセルの棒を手前に引っ張ると加速して前に倒すとブレーキらしい。カートみたいで面白いじゃん。あきらと前後ろどちらがいいかきいたら、あきらは後ろにすわるので操作は俺に任せるとの事だった。

 ふふふ、ドブネズランドのゴーカートで鍛えた俺のロケットダッシュとドリフトの基本戦術を見せてくれるわ……!


 「HEY!乗りなあきら!!」


ハンドルを握りながらウッキウキで言うと、あきらがおずおずとした様子で乗ってて、ゆっくりと腰に手をまわしてくる。


「えっと、それじゃ宜しくお願いします?」


「任せておきなぁ!ヒャッハー!!」


 加速のし過ぎに気を付けてくださいね、と言いながら、係員のお姉さんが押し出し、いざ滑り始めると、水流と絶妙な傾斜でどんどんと加速していく。フーッ、すげー!コーナーではハンドルをきりながら体重を傾けて減速しないようにドリフトをして、どんどん速度をあげていく。飛び出さないように完全に筒状になっているスライダーだからこそできる加速である。


「わ、わわっ!はやくないタロー?!」


そういいながら、思い切りしがみついてくるあきら。うおおおっ、そんな風に密着されるとあきらの柔らかい感触にドギマギしてしまうんだぜ……タローさんは健全な男子高校生なので……!!しかし友達に興奮するなど失礼極まりない。虚無の心でハンドル操作に集中する。


「加速し続けてるよタロー!」


「……ハッ、調子に乗りすぎた!ちょっとブレーキかけなきゃ……しまった、加速しすぎてブレーキの減速が全然きかないゾイっ」


「タロー?!?!?!」


 やっべー、ブレーキ倒してるけど加速量の方が大きいわ。さすが下り最速のタローちゃんがやらかしちまったぜ。


「わ、わわわわわわわー!!」


 腰に全力でしがみつき、ついでに両足で俺の身体の左右を挟むようにくっついてくるあきら。加速しすぎてやばいからね、怖いよねごめんねー!!うおおおおおおおと雄たけびをあげながら暴走し続けるスライダーを操作するも、水面が近づいてきた。

この速度で水面につっこんだら痛そうじゃん。女の子のあきらにそんな事はさせられない、任務了解!


「すまん、俺がやらかした。……あきらっ!」


振り向きながらあきらを抱き留める。


「わっ、タロー?!」


あきらが驚きの声を上げるが、直後に俺達の身体を襲う浮遊感。水面に叩き付けられるが、その衝撃はすべて俺の背中でうけとめる。女の子に痛い思いさせるわけにもいかないしね。うーん、ブクブクブク……


「ってなにやってるのよタロー!!」


水面にうつぶせに浮かんでいたところをあきらに起こされた。


「自爆した後に海面に浮かんでるんじゃないんだからっ」


「死ぬほど痛いぞ」


 デデーン


 高速で水落ちしたのでめっちゃくちゃに背中が痛い。これ絶対背中が真っ赤になってるけど俺の自業自得だから仕方がないネ

 そして衝撃で頭がくらくらするし、なんかふわふわするのでよたよたとプールから上がる。


「ちょっと、タロー大丈夫?どこか痛いところない?」


「大丈夫、爺さんに竹刀で面くらうよりマシ」


 そういってピースしながら歩くと、あきらが横を歩きながらついてきた。心配かけてゴメンネ、大丈夫大丈夫。


「どういう例えかわからないんだけど……」


そんなことを言いながらフラフラと物陰に歩いていってこしかける。微妙に目がぐるぐる回るのはさっきの衝撃かな?うーん……






「……あ、目が覚めた?」


気が付くと俺を見下ろすあきらの顔があった。


「良かった、すぐ目が覚めて。人呼ばなきゃとか思って心配したんだからね?!」


微妙に涙目になっているあきらに、なんのこっちゃとおもいながらさっきそう言えば物陰に歩いてきてそのまま力尽きたのを思い出し。しかし微妙に柔らかくあたたかい感触に俺を見下ろすあきら……これは。


「膝枕?」


 そう言うと、あきらがかあっと顔を赤くした。


「え、えっと、その。うん。タロー、ヤム○ャみたいなポーズで横になってたから……」


 わぁい死んでるじゃんソレ。いっけなーい、自爆自爆っ?


「あはは、ごめんね。タロー、私を庇ってくれたん、だよね?で、でもや、やっぱり変だよね、私が、こんな事して、嫌だったら、ごめん」


「んぁー、嫌じゃないよ。というか俺が調子に乗りすぎて心配かけましたごめんね」


 そんなしおらしい俺の様子に困った様子の明だが、普通に怒ってくれてええんやで。


「うーん、あきらってでかいな……」


「何言ってるのタロー?!」


 ハッ……!頭上、眼前に見えるあきらのお山に思わず心の声がダダ漏れになってしまっていた。タローさんこんなセクハラ発言するつもりはないのに…!!これが夏の妖精さんマジック的ななにかだろうか……!


 流石に女の子に膝枕されているのは気恥しいので、意識もしっかりしてきたので起き上がるとなぜかあきらが残念そうにしていた。元気になったんだから残念そうにしないでほしいヨ!


「あはは、でもありがとうね、スライダーに付き合ってくれて。楽しかったよ!」


「いえいえ、失礼いたしました。一回目で慣れたから次はもっと上手くやるぜよ」


 そんな俺の様子にあはは、とこえをあげて笑うあきら。今日のあきらは、なんか学校でいつも見せる顔よりも随分と女の子らしい表情が多いなってなんとなく思った。そういえば舞花ちゃんもあきらにきちんと可愛いって言ってあげるようにって念押しされてたっけ。うん、今日のあきらは普段以上に可愛い、と思う。普段もそうだけどさ。


「うん。その水着も似合ってるし、あきらって可愛いよね」


「か、かわ…?!」


 なんか両手を挙げてびっくりしている。俺そんな変なこと言ったかな。普通に褒めただけだぞう?その後もなんだかわちゃわちゃしているあきらとプールサイドで話したりした。今日のあきらはいつも以上に表情がころころ変わるのでみていて飽きないなー、なんて思ったり。


そんな事をしながら賑やかに過ごしたが、昼になったので皆で集合して出店の者を食べたり、午後は桜那先輩につかまったり、ヒメ先輩とプールサイドではしゃいだり、ともちゃんのうきわを引っ張って流れるプールをドライブしたりした。

 アカ先輩はフリーダムにプールを散策して楽しんでいたみたいだけど何か思いつくとちょっかいかけにくるので、なんだかんだで午後もせわしなかった。隙あらば俺を捕まえに来る桜那先輩とヒメ先輩がなぜか強力なプレッシャーをぶつけあうので生きた心地がしなかったりね。

 戸成と真島先輩はなんか競泳勝負し続けていたらしい。2人とも体育会系なんだからもう。

 そして夕方になりもうぼちぼち帰るか、帰る前にトイレにいっておこうかなと思ったところで、見知った顔を見た。


―――綿貫、か?


 いつもよりずいぶん大人びた化粧をしているが、ビキニ姿のそれは綿貫だと思う。肌を焼いたイケイケのサングラス……さっきあきらに絡んできてた自称医大生かな、あれ。

綿貫と思われる女が俺を視て一瞬目を見開いたような気がしたが、何事もなかったかのように通り過ぎていった。気のせいだろうか?

 2人はすぐに見えなくなってしまったが、なんだか妙に気になった。やはり綿貫には注意した方がいいかもしれない。


 そんな事もありながら、プールでの楽しい一日はあっという間に終わったのだった。

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