第55話 プールサイドパニック(Ⅱ)


 「っしゃああ勝ったぞぉぉぉぉぉッ!!」


 50m犬かきレースは一着俺・2着真島先輩・3着戸成と大番狂わせだったが俺の勝利に終わった。小中学生の頃にともちゃんにつきあって犬かきしまくっていたから俺に一日の長があるのだよね。今日浮輪持参してきていたけど、ともちゃんはカナヅチで犬かきしかできないため一緒にプールで競争するときは強制犬かき対決していたのだ。ほう、経験が生きたな、というやつだ。あとでともちゃんにはジュースをおごってやろう。

 

「はっはっは、見事な犬かきであった!次は負けないように犬かきを練習しておくとしよう」


「いえ、そんな事よりサッカーの練習してください」


 負けても楽しそうな真島先輩に冷静に突っ込んでいると、遅れてプールからあがってきた戸成が悔しそうに話に加わってきた。


「負けたぁ~、タローなんでそんなに犬かきはやいんだよ?!」


「犬さんの気持ちになるですよ」


 困惑の表情をしている戸成だったが、気づくと背後に桜那先輩が立っていた。


「よもや最下位とはな。少し甘やかしすぎたか?」


「ヒイッ、姉さん?!」


「お前が太郎を破ったのであれば、負けた太郎を鍛えるとして私が今日一日太郎について泳ぎを教えることもできたのだがな」


 意外と独占欲スキル持ちの桜那先輩でしたか。ふぃ~、危ない危ない。間一髪だったぜ!サンキューともちゃん!!


「―――という訳で午前中は沖那を鍛えなおしてくる。また後でな、太郎」


 そう言って妖艶な微笑みを浮かべつつ、戸成を引っ張っていく桜那先輩。さらば戸成!マスターイケメン、暁に死す……いや死んでないけど。


 真島先輩は桜那先輩達についていきながら競泳用プールでガッツリ泳ぐとの事だった。水泳は身体を鍛えるのにもいいとかなんとか。


「不良してるよりそうやってスポーツマンしてるのがいいと思いますよ。最近の頑張りはすごいと思いますし」


 そんな事を真島先輩に言ったが、真島先輩はそれは違う、とでも言うように静かに首を横に振った。

 

「そもそも去年一年から私たちは学校や生徒に迷惑をかけ続けた。……それは一朝一夕ではぬぐえぬものだ。

 サッカー部そのものが大きなマイナスからスタートしているのだ、ずっと真っ当に頑張ってきていた生徒たちの方が私たちよりよほど素晴らしい。

 だから私たちが出来ることは、迷惑をかけた以上に働くしかない。まずはマイナスをゼロにするためにそのために学校の活動も全力で取り組み、部活動の成績もあげねばならん。そのためなら身体をいくら鍛えても足りないくらいだ」


 そう言って少し寂しそうに微笑んだ後、桜那先輩達を追いかけていく真島先輩の背を見送った。うむぅ、ストイックな人である。何かが違えば、やさぐれることもなかっただろうにと思わずにはいられない。これからの真島先輩やサッカー部の頑張りを、応援したいなと思う。真島先輩と話す機会が持てたのは今日の収穫だな、と思った。


 それからパラソルの所に戻ると、ともちゃんやアカ先輩は既にプールへと遊びに行ったあとだった。、あの2人は傾向が似ているようでウマが合ったらしく、2人仲良くわーいとプールへ突撃していったそうだ。そうね、あの2人はそういうキャラだもんねー。そういえば犬かき競争をはじめるまえの去り際、舞花ちゃんがおちついたらスライダーに来てくださいって言われたっけ。何もないようなら俺もスライダーに行こうかな、なんて思っていたところで―――


「タロー君、タロー君♡」


 そんな呼び声のした方を向くと、うつぶせに横になりながら俺を視ているアオ先輩がいた。


「日焼けしちゃうから、日焼け止め塗りっこしようよ~」


「ファッ?!塗りっこですか?いや俺男だし」


 水着の紐を外しながらこちらをみているアオ先輩。


「日焼けは、お肌の天敵なんだよぉ?男の子もきちんと日焼け止めぬらないと駄目なんだからっ」


 むっ、と注意するように言うアオ先輩。そういうのはヒメ先輩と、なんて思ったけどヒメ先輩もいない。舞花ちゃんもあきらもいねぇ!どういうことだってばよ?!く、しかしアオ先輩にはここに招待してもらった恩もある。


「むぅ、わかりました。それじゃ背中はぬるんで、それ以外は自分でやってくださいね」


「わぁい、ありがとうタロー君♡」


 パラソルの下でうつぶせに寝転んでいるアオ先輩の横に膝をつき、日焼け止めを手に出す。うつぶせに寝るとアオ先輩の驚異の胸囲が圧迫されて凄い事になっている。心を無にして背中に日焼け止めを塗っていく。途中、アオ先輩が息を零す声や色っぽい声をあげるので色即是空空即是色、ノウマクサンマンダバザラダンカンと心の中で唱えながら塗り切った。き、緊張するぜ…。アオ先輩が水着の紐を結び直しているのに背を向けながら心を落ち着かせる。


「はぁい、それじゃあ今度は私がタロー君に塗ってあげるねぇ、えーい」


 そう言いながら背中に抱き着いてくるアオ先輩。それ以上行けない、水着の布面積で抱き着かれるのは健全な男子高校生には毒です!!その高校生離れした2つのお山は…うおぉぉぉぉぉ去れ煩悩!!これは理性を試される拷問じゃァないのかッ?!?


―――などとアオ先輩とうれしはずかし塗りっこをしていたところにドリンクを取りに行っていたヒメ先輩が戻ってきてアオ先輩を怒った後、俺をジト目で睨んできた。理不尽すぎて泣けるぜ!

 でもアオ先輩はつやっつやになって上機嫌だったのでまぁ…良い、のだろうか。


「アオだけズルじゃん……くっ、どろりゲルまゆ濃厚ピーチ味なんて怪しいドリンクにつられなければ…!!」


 何故か千載一遇のチャンスをのがしたといわんばかりで悔しそうなヒメ先輩だったけど、俺的にはその怪しいドリンクの方が気になります。後で俺ももらってこようかな、トゥットゥルー♪

 ためいきをつきながらアオ先輩に日焼け止めを塗ってもらっているヒメ先輩達にどうしますかと声をかけたが、アオ先輩やヒメ先輩はナンパがウザいのでパラソルのところで涼んだり適度にプールで遊ぶとのことだった。

 俺はアトラクションちょっとみてきますと声をかけてからスライダーのところにいくと、ちょうどあきらが一人で日陰のベンチに座っているのをみつけた。

 しかしなんかチャラいお兄さんに絡まれている。日焼けした金髪に派手な柄の海パン。プールに入るのになんで首にネックレスかけてんだろうね。うーん、ナンパじゃんこれ。


「君可愛いねぇ、高校生?一緒しようよ」


「すいませんが連れを待っていますので」


「何それ、女の子?女の子ならその子も一緒しようよ。男なら俺の方が絶対いいって俺医大生だし親の金いっぱいあるし」


 わぁお、ナンパか。あきら可愛いもんな。ていうか大学生が高校生ナンパしてんじゃねーよと。


「あきら、すまん待たせた」


「タロー?!」


 ごく自然に待ち合わせのように話に割って入ると、あきらが驚きの声をあげていた。いやそんなに驚くなよ折角の俺の演技が哀しくなるじゃん??


「何お前?俺今この子と話してるんだけど??あ??」


 イライラした様子で詰め寄ってくる自称医大生。しかしここでビビッてはあきらも困るので、ぬるりとチャラい自称医大生のお兄さんの後ろに回り込んで指でピストルをつくってから人差し指で腰を押してやった。

 ……この間俺の家ですずめちゃんと竹刀振り回したり爺さんにボコられたりして少しだけ動きの感覚が戻ってきていたので出来るようになってた。毎日爺さんにボコられてた時はこれぐらい動けてたんだけど、今は頑張ってみたらできただけだゾイ。

 あきらも驚いているけど別に素早く人の後ろに回り込んだだけなので何かが出来るとかではない。ハッタリですよハッタリ。

 タローちゃんはハッタリが8割で出来てるんですよ知らなかったの??俺弱いから。


「んぁっ…?!」


「ハロハロー、この子は俺の連れだっていってるじゃないですか」


さらにぐぐっとこしを人差し指で押し込んでやると、前につんのめるように数歩歩いて俺達から離れた。


「……チッ、うぜーな」


 悪態をつきながらさっていくチャラいお兄さん。以外にケツまくって逃げるの速くて助かったぜ。まぁタローちゃんハッタリには自信があるんだよねー。


「ありがとうタロー!」


 あきらが腕に抱き着いてきた。あきらも結構大きいよね。


「小天狗さんとここにきたんだけど、小天狗さんがお手洗いにいくからここで待っててって言われて待ってたら変な人に絡まれて困ってたんだよ。スライダーって2人乗りだから小天狗さん来てくれないと乗れないし…」


 古部都の時もそうだけどあきらは変なのに絡まれやすい傾向にあると思う。健康的な色気とえっちさと話しやすそうな快活さがあるからなぁ…。まぁ、わからんでもない。

 しかし舞花ちゃんがわざわざあきらをこんなところで待たせるのも変な話だ……うん?

 視線を感じたので自販機の影を見ると、舞花ちゃんがいてサムズアップをしていた。

 ふむ、理解したぞ。舞花ちゃんがお手洗いに行ってる間に変なナンパ男がきて、俺がナンパ男を追い払ってたから舞花ちゃんは隠れて様子をみてたのかな。

 そんな事を考えている俺に静かに頷きながら両手でサムズアップする舞花ちゃん。行け、ということか。舞花ちゃん!やるんだな!?今!ここで!!

 勝負は今、ここで決めると言わんばかりの舞花ちゃんの力強い頷き。

 

 ――――わかった、行くぜ……あきらと2人でスライダーに!!!そう言う事だろ?!


 あれ、なんか舞花ちゃんが凄いがっかりしたような顔してる。な、なんでェ?!?!

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