第54話 プールサイドパニック(Ⅰ)

 というわけで週末。待ち合わせの駅前に行くと、シャトルバスが待機してい

た。道行く人々がざわ…ざわ…と注目しているのは、シャトルバスに対してではなく、その傍らに立つ抜群の美人がいるからだ。

 今日はともちゃんを伴っているが、普段は寝坊しがちなともちゃんが朝早く起きて準備万端にして待っていたのだ、えらい。遠足の日とかって子供は早起きするもんねー、わかるとも!

 そんなともちゃんは、起こしに行った時点で膨らませたうきわを纏ってドヤァ…としていたが、移動中から浮輪は邪魔になるから畳もうねと畳んで鞄に仕舞わせたりもした。とてもキッズである。


「はよー、はやいじゃんタロー。そっちの子が幼馴染の子ね?」


 その抜群の美人さん、ヒメ先輩に声をかけられた。今日は髪を結い上げて大人のお姉さんな雰囲気だ。しかしヒメ先輩にも気後れせず元気に挨拶するともちゃん。うむ、挨拶は大事、古事記にも書いてある。そんな2人の挨拶を見守った後、ヒメ先輩に話しかける。


「おはようございます、ヒメ先輩こそ早かったですね……うおっとぉ?!」


 ヒメ先輩に挨拶をしていると、背後から誰かが抱き着きながら体重を預けてきたので驚いて声を上げてしまう。この柔らかな感覚は…!!


「アオ先輩おはようございます」


「タロー君おはよ~♡えへへっ、きてくれてありがと~!」


 胸の下で絞った白いワンピース姿のアオ先輩、どこからどう見ても清楚なお嬢様である。そこからいつものようにひっつき虫になるアオ先輩をブロックしたり、アオ先輩を見て


「おっぱいおっきいですね」


 と虚ろな目で繰り返すマシーンになってしまったともちゃんをバスに押し込んだり、戸成姉弟や舞花ちゃん、あきら、真島先輩と皆が順番に来た。ちなみにアカ先輩はあくびしながら普通に遅刻してきたよ。

 女子陣は皆おしゃれさんで(プールいきたいモードのともちゃんのぞく)、華やかだったよ。

 俺?普通にTシャツパンツ半パンですが何か。戸成は同じようなTシャツパンツスタイルの筈なのに着こなし方とか着ている服のチョイスでなんかもうキラッツキラですね。真島先輩はカジュアルなサマージャケットスタイルで普通にかっこよかったです。俺が一番ださくて泣けるぜ!


そうやって全員が揃ったところでシャトルバスで移動し、バスの中で自己紹介等済ませたが、人見知りするタイプがいなかったのて皆すぐ打ち解けて良かった。


「おっぱいおっきいですね」


と繰り返すともちゃんや、何故か気後れしたようになりながらも自分に喝を入れて奮い立たせているあきらが不思議だった。あきらはともかくともちゃんはちょっとバグったみたいで心配。プールについたらなおるといいけど。


温水プールがメインの複合レジャー施設「ブルー3(スリー)」に到着した。なんでも、最高クラスにエキサイティングなスライダー・最長クラスの流れるプール・サウナ付きで水着着用で入れる温泉施設の3つの特徴があるかららしい。いやぁしかしネーミングセンス…って感じはあるよね。怪鳥音じゃないんだからさぁ。


 女子の荷物を手分けして運ぼうとしたら全員分の荷物を真島先輩が抱えて運んでいた。やっぱ運動部だけあって体力凄い。そんなこんなで入場した後、VIPパスというプラチナシルバーのタグ付き腕輪を渡された。これつけてたら全部無料施設VIP待遇優先なんだって。ヒェーッ。やっぱアオ先輩もウルトラお嬢様じゃないですかヤダァー。なんかそんな気はしてたよ。


 ちなみに男子の着替えってのはマジですぐ終わる。男子高校生がプールを前にしたテンションで海パンを装着するタイムは、わずか0.05秒にすぎない。では装着のプロセスをもう一度見てみよう。……勢い良く全裸になってシュッと海パンに足を通してから戸成とハイタッチ!イェーイ!!まさに蒸着ゥ!

 あ、真島先輩は競泳用のブーメランでした。


 全天候対応の屋内プールは、出来たてだからだけではなくデザイナーのセンス溢れる美しいものだった。南国をイメージした空間がYO!SAY!と気分を高揚させる。プレオープンで関係者のみの招待という事で人はまばらだが、それでもそれなりの賑わいである。


「タロー!流れるプールがあるぜきゃっきゃっ」


「準備運動したらちょっと一周してこようぜきゃっきゃっ」


 健全な男子高校生たるもの、プールを前に心躍らぬは無粋というもの。戸成ときゃっきゃしながらウキウキのステップを踏んでいたところで、真島先輩に制止された。


「桃園太郎、戸成沖那。プールに入る前に準備体操を怠ってはいかん」


 ピリッ、とした真島先輩の声に我に返り真島先輩を振り返ると、先輩が俺達に向かって頷いていたので真島先輩に向き合いながらラジオ体操第一を始める俺たち。ラジオは無いけど口頭でラジオ体操を空で言ってくれるので助かる。サンキュー真島先輩!!水に入る前には準備体操を忘れちゃいけないんだぜ。

 そしてラジオ体操を終えたころに着替えを終えた女子陣がでてきた。


 まず先頭を切ったのはスクール水着に浮輪に何故か水中眼鏡とシュノーケールを装着したサンダル姿のともちゃん。ぺたぺたとサンダルの音をたてて、色気なんて関係ねぇ!やるぞやるぞおれはやるぞというやる気と遊ぶ気に満ちた、中学の頃から変わらないともちゃんスタイル。安定してますね。


「プールダヤッター!!」


 などと叫びながら迷うことなくプールに飛び込もうとしたので戸成と一緒に左右からキャッチし、左右の手を持って、捕獲された灰色宇宙人のように吊るしながら流れるように真島先輩の前にリリース。そぉい!!まずは真島先輩のとこでラジオ体操からね!でも素直にラジオ体操してるのはともちゃんらしい。

 そんなともちゃんから少し遅れてあきらが出てきた。


 「あははっ……ちょっと恥ずかしい、かも。どうかな」


 そう言って照れくさそうにしている。白と水色のホルターネックで、あきらのスタイルが強調されている。中学の頃の水着とは打って変わって随分大人びたチョイス。しかし恥ずかしいのか頬を赤らめて、片頬に手を当てながら目を逸らしているがそんな仕草も合わさって今日のあきらはすごく女の子らしくて可愛いのではないだろうか。


「似合ってるじゃん、あきららしくていいと思うぜ」


「そうかな?へへ、嬉しいな」


 あきらが顔を赤くしている。んー?何か変な事いったかなぁ。熱中症が怖いから水分しっかりとらないと駄目だぞ。


「お待たせタロー君!」


「へー、凄い綺麗じゃん。めっちゃイイ感じ!」


「流れるプールって逆走したくなる系じゃん?」


 そう言って少し遅れて歩いてきたのがアオ先輩、ヒメ先輩、アカ先輩。アオ先輩は以前写真で送ってもらった三角黒ビキニで、ばるんばるんしよる……としか言えないスゴ味があった。写真ですらやべーなっておもったんですよタローさん。でもね、現実でみちゃうと頭がおかしくなりますよ。多分スタイルの良さだとこの中で一番凄いと思います。思わず敬語になってしまいました。

 ヒメ先輩はトリコロールのカラフルなクロスホルターの水着にパレオ姿で、サンダルのデザインも凝っていてたってるだけで絵になるようなモデルスタイルである。

 アカ先輩は花柄のフレアビキニで可愛い系で、その視線はウォータースライダーに釘付けである。


「タロー君あとで日焼け止め塗ってほしなぁ~」


「ちょっとアオ、何言ってんの!?」


「にゅふふぅ、タロー君と塗りっこするんだよぉ」


 相変わらずのアオ先輩と、それに驚いて制止するヒメ先輩のやりとりもいつも通り。そういうのは女の子同士でやるのがよろしいのではないでしょうか。

 その間もアカ先輩はプールにいきたくてウズウズしてる、アカ先輩もブレなくて安心するねー。


「遅くなりました、すみません」


  先輩たちの陰からひょっこり顔を出したのは舞花ちゃん。リボンビキニで意表をついてきた。かなりセクシーな感じである。あと以前本人も言っていたが、舞花ちゃんもかなりスタイルが良いのだ。普通に美少女にカテゴライズされる子なんだよなぁ。


「いやー、俺達もラジ体してたし」


 しかし舞花ちゃんも予想外に攻めている水着なので目のやり場に困る。それ言ったら女子陣全員そうなんだけど。


「今日は少し攻めてみました。他の皆さんが美人の方ばかりなので、私も頑張らないと周りから浮いてしまいますからね」


「そうかなぁ?優劣なんてないと思うし、舞花ちゃんも可愛いと思うけど」


 つい思った事をこぼしてしまったが、舞花ちゃんは困ったように、照れるように微かに笑った。あと浮いているといったらスク水浮き輪ダイバーともちゃんがいるから。


「ありがとうございます。でもそれは私以外の女の子皆に、特に今日一番勇気を出した猿渡さんには必ず、言ってあげてくださいね」


 俺を指差し、注意するように言う舞花ちゃんに、うむぅ?と思いながらも頷いた。


 桜那先輩も青黒ピンクの3色のビキニだが、引き締まった身体が健康的だった。あと全体的に布面積が少なめでセクシーである。


「随分と可愛らしい水着だな?お前らしくて良いではないか」


「ありがとうございます。桜那先輩も綺麗ですよ」


 そんな俺の言葉に微笑むと、ごく自然に腕組みをしてくるので先輩達やあきらが声を上げていたがどこ吹く風。あと、水着なので密着率が高くて困りますぅ…。あ、だめだ聞いてくれないや。


「真島先輩、50m犬かきで競争しませんかっ!」


「犬かき!面白そうだな、その勝負受けてたとう!」


 体育会系同士で波長が合うのか、さっそく意気投合しておかしなことを言いだしている戸成と真島先輩。なぜ犬かき?と思ったけどプールを前にしたテンションだと謎な言動しちゃうのあるよね、わかるわかる。


「ほう?沖那、負けたら折檻だぞ」


「ギエピーッ!?」


 そんな2人を見た桜那先輩が、沖那に無茶ぶりをして悲鳴を上げている。そんな戸成の様子を笑っていると小首をかしげながら桜那先輩が不思議そうに言ってきた。


「太郎、お前も参加するのだぞ?」


「えっ?」


 えっ?あれ?……いつのまにか先輩達やあきらやともちゃん、舞花ちゃんまでそれぞれに声をあげている。ともちゃんにラジオ体操をさせたあとに既に真島先輩がビーチパラソル等を組み立ててくれていたようだが、そこに女子陣が集まって盛り上がっている。そしてこれ完全に俺も参加する流れになってませんかね???そんなー。


 そんな事を思いつつ50メートルプールに移動しているところで、遠くに見たことある後ろ姿がみえたような気がした。気のせいかな、こんな所にいるはずないやつだし、此処に入れるコネとか持ってないと思うし。

 気のせいだろうと思いつつプールサイドに向かうと、戸成も真島先輩も入念に準備をしていた。…負けないぞぉ!


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